【緊急寄稿】「何の兆候か?」  

【緊急寄稿】「何の兆候か?」      和田三郎

 11月18日、東京近郊で、相次いで、元厚生事務次官とその家族を狙った殺傷事件が起きた。18日深夜の報道によると、2人が亡くなり1人が重傷という。2件目発生から数時間を置かず、首相官邸に内閣危機管理官が詰め、一方、厚生労働省首脳OBと現役幹部の身辺には、緊急警備体制が敷かれることになった。政府の要請という。
 これも報道によると、政府自民党のみならず野党関係者も、「もし、これが年金問題に係るテロだとしたら、……」という発言を繰り返している。(明朝のワイドショーはどうなることか!)
 狙われた(だろう)2人は、現行の年金制度創設を主導した官僚だという。
『吉原氏は年金局長時代の85年、20歳以上の人が全員加入する基礎年金制度の創設に、亡くなった年金課長山口剛彦さんとともにかかわった。「吉原年金局長―山口年金課長」のコンビで年金制度の大改正を手がけた仲。』(11.18WEB朝日)

 ここまでWEBニュースを追ってきて、重大な発言が、数日前に報道されていたことを思い出した。発言の主は、財界の大御所、奥田碩トヨタ自動車取締役相談役。11月12日の政府の「厚生労働行政の在り方に関する懇談会」の場で、座長である氏は、次の発言をしている。
 『政府の「厚生労働行政の在り方に関する懇談会」の座長を務める奥田碩トヨタ自動車取締役相談役が12日の会合で、ワイドショーなどの番組での過度な厚生労働省たたきに不快感をあらわにした。
 奥田氏は「テレビが朝から晩まで年金や厚労省の問題をあれだけ毎日やるのはちょっと異常な話。正直言ってマスコミに報復してやろうかな、スポンサーをやめようかなとも思う。」と発言。「ああいう番組のスポンサーは大きな会社じゃない。パチンコ屋とかサウナとかうどん屋とか」とまくし立てた。
 関係者は「マスコミ公開の会議であることを忘れていたのでは」と奥田氏をかばったが、経済界の大御所の発言だけに波紋を呼ぶ可能性もある。』(抄11.12.WEB日経)

 そこで、以下は、私の仮説である。
 折から国会情勢は急転し、政府与党の本心も、「客観的に見て、数週間の内に解散せざるを得なくなる」となった。そのとき、年金問題追及=テロリスト加担の構図(これをデマゴギーとフレームアップと普通は言うが)を描こうとしているのではないか。今や、全国くまなく行渡っている「自民党政府は、年金泥棒」という声に、選挙戦において弁解する必要性は、薄れる。
 殺害された山口元次官について、時間就任挨拶に(感極まり)涙を流す列席者の映像を、夜のTVニュースは繰り返し流している。次官就任挨拶会場だから、列席しているのは、多分、本省の課長以上だろう。その人たちに対し、事務次官の汚職罷免の後任となった山口元次官は、「皆さんの苦しい気持ちを私は知っている。共に新しい省をつくろう。」と目を潤ませながら、呼びかけていた。
 さて、妙に奥田発言と通じるものを、今回の事件に、私は感じた。
 今回の殺傷事件の被害者たちは、いずれもOBであり、現在の政府の年金行政に影響力を持つ方々ではない。人命という最大価値を除外すれば、権力中枢にとって失うものはあったのだろうか。年金行政について、論理的に国民を説得することは、無理だと承知している。繰り返し批判されることも困る。しかし、「もう年金はいいではないか、回復の対処をしているのだから。むしろ、国の経済再興を目指すのが第一である。」
 これには、年金問題に体を張ったと示せるものが必要となる。人命を、三文政治の具にすることは、もう止めたいものである。[11月19日02:00記]

 【出典】 アサート No.372 2008年11月22日

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