【投稿】アフガニスタン情勢の転換と日本の策動

【投稿】アフガニスタン情勢の転換と日本の策動

<「軍事力では勝てない」>
「9,11テロ」への報復として始まったアフガン侵攻以来7年間を経て、アメリカの「対テロ戦争」は大きな転換点を迎えている。
 タリバン政権崩壊後に樹立されたアフガンのカルザイ政権は、事実上アメリカの傀儡政権であるが、この間タリバン側の勢力拡大に動揺し、対話路線に方向を転じようとしている。
 この背景には米、NATO軍など国際治安支援部隊(ISAF)による軍事作戦が行き詰まりを見せていることがある。
現地では同部隊による「誤爆」や残虐行為により、民間人の犠牲が増加している。さらにコーランを射撃の標的にするなど、イスラム社会に対する冒涜行為も相次ぎ、これによりタリバンもテロを行っているにもかかわらず、政権批判につながるという泥沼に陥っている。
 こうした状況のなか、カルザイ大統領も9月には記者会見で「外国軍により多数の市民が犠牲となった、民間人の犠牲は無くさなくてはいけない」と述べざるを得なくなっている。
 「誤爆」の主犯であるアメリカ軍はしらを切りとおし、正当化してきたが、ゲーツ国防長官がカブールを訪問し、カルザイ大統領に謝罪した。
 そして、アメリカ大統領選挙を控えた10月、アフガニスタン情勢をめぐり、関係国の高級軍人から相次いで重要な発言が出された。
 アフガニスタン安定の命を受け、10月31日着任したペトレアス米中央軍司令官は、就任前に米国内で行った講演で「アフガニスタン情勢の好転のためには、反政府勢力として影響力を拡大してきているタリバンとの対話も必要であると」と述べた。
またこれ以前に、アフガン駐留英軍のカールトンスミス司令官も「戦闘ではタリバンには勝てない、タリバンに交渉の意思があるならテーブルに着くべき」との見解を示している。
アフガン駐留軍の主力部隊である米英軍の最高指揮官が、武力でタリバンを掃討するのは無理であり、和平交渉をすべきと主張しているのである。
 さらにパキスタン軍のパシャ中将は同国議会に対し「武力行使のみではイスラム原理主義組織に永久に勝てないだろう」と、やはり和平交渉の必要性を示したという。

<オバマの新戦略>
 このように、アフガンにおける治安安定化政策が変更されるのは確定的であるが、米大統領選挙前日の3日にもカンダハルで米軍が結婚式会場を「誤爆」し多数の犠牲者がでた。
 これでアメリカの「謝罪」はまったく口先だけのものだったことが明らかになり、政策変更のまえに政権が持たないとの思いから、カルザイ大統領はオバマ次期大統領に向け「空爆ではテロに勝てない」と悲痛ともいえるメッセージを送った。
 オバマ次期大統領は、イラクからの早期撤兵を進めることを明らかにする一方、アフガンへの増派を検討していると伝えられている。しかし戦闘部隊の派遣だけでは、イラクにおけるブッシュ政権の轍を踏むだけであり、事態の改善にならないことは明らかである。
基本的にはタリバン側との交渉に軸足を置き政権に取り込みながら、主敵であるアルカイーダを孤立化させ、こちらは武力による掃討を進めるという戦略であろう。
しかし、アフガン国内、あるいは国境を接するパキスタン領内の部族地域に、アルカイーダが影響力を保持しているかは不明である。米軍は昨年末から二十数回にわたり、アフガン領内の基地から無人機を飛ばし越境攻撃を行っているが、5月に幹部一人を殺害したにとどまっている。
 さらに、前述のパシャ中将の発言などから、アルカイーダが存在していたとしても、攻勢の準備など活発な活動を行える勢力はすでになく、逃亡した少数の幹部が潜伏しているのみではないか、との見方もある。
 ブッシュ政権は「対テロ戦争」継続の口実、たとえばイラク戦争の開戦理由の一つとしてアルカイーダなど国際テロ組織を利用してきたが、このアフガン、さらには10月のシリアへの越境攻撃もその延長線上にあると言える。

<新たな派兵狙う麻生政権>
 オバマ新政権が、「テロとの闘い」を掲げつつ、そうした政策を事実上軌道修正する可能性が強いにもかかわらず、アメリカとの同盟強化をお題目に、自衛隊の新たな海外派兵を虎視眈々ともくろんでいるのが麻生政権である。
 すでに陸上自衛隊はイラクから撤兵し、航空自衛隊も年内にはクェートから引き上げる。新テロ対策特別措置法改正案の行方は予断を許さないが、政府は空白を埋めるため、「アフガン復興支援」を口実に新たな海外派兵を策動している。
 福田政権末期、ブッシュ政権の要請でアフガンへ陸自ヘリ部隊を派遣し、負傷兵の運搬を行う計画が策定されたが、収容時に攻撃を受け応戦した場合「駆けつけ警護」=武力行使に当たるとして、憲法判断上から凍結状態となっている。また、8月に農業指導を行っていた「ペシャワール会」メンバーが殺害される事件が発生した。
 犯行が「テロ組織」によるものであれば、政府は「民間人では危ない、自衛隊の出番だ」と政治利用に走ったであろうが、会の毅然とした対応と、犯人の背後関係が不明なことから、踏み込んだ論議はストップしていた。
 しかし、10月23日の参院外交防衛委員会で中曽根外相が、そもそものアフガンにおける米軍の作戦を「武力行使にあたらない」と発言、民主党から「武力行使でないなら自衛隊をだせるのか」と追及され、河村官房長官が慌てて否定する場面があった。
 マスコミは外交・防衛問題にふなれな中曽根外相の認識不足、と報じていたが、漢字の読み間違いレベルの問題ではなく、政府の本音が出たものではないか。今後の情勢次第ではアフガン派兵が現実味を帯びてくるだろう。
 さらに、麻生政権は「ソマリアでの海賊取り締まりのため」海上自衛隊派遣を画策している。もともとソマリアは「アルカイーダの拠点」で、インド洋も含めた海域での「連合軍」の臨検活動はテロ組織への武器流入の阻止という説明であったのが、いつのまにか「海賊の取り締まり」になっている。
 政府は相手が海賊なら武力行使に当たらないというのであろうが、来日したイエメン沿岸警備隊のマルマフディ作戦局長は朝日新聞の取材に対して「海上自衛隊の派遣は高い効果は期待できない」(11/15朝刊)と否定的な見解を述べている。
 過去のカンボジアやルワンダでも一触即発の危機があり、イラクにおいては前述の「駆けつけ警護」が検討されたことが明らかになっており、武力行使の一歩手前まで状況は進んでいる。
 おりしも田母神前空幕長問題が惹起するなか、こうした考えを持つ幹部自衛官が現地で指揮を執った場合、勝手に戦闘を開始する危険性があることを、政府は認識しているようには見えないのである。
 もっとも最大の問題は「大東亜戦争」と呼称してはばからない麻生総理が、シビリアンコントロールの頂点にいることであり、政権延命に汲々とする与党を厳しく追及することが求められている。(大阪O)

 【出典】 アサート No.372 2008年11月22日

カテゴリー: 政治 パーマリンク