【コラム】ひとりごと–金融危機の第二幕は景気急降下–

【コラム】ひとりごと–金融危機の第二幕は景気急降下–

○アメリカ発の金融危機は、欧州・アジア・日本に波及した。金融資本主義・市場原理主義が揺らぎどころか、完膚なきまでに敗北したと認識すべきだろう。○アメリカ・欧州の各国政府は、相次いで巨額の公的資金を金融機関・証券会社・保険会社に投入せざるをえなかった。「市場」から調達することは不可能となり、「市場」に任せていては、金融システムの破綻から企業の倒産、国民の資産が紙くずとなることは確実であったろう。○アメリカは、金融・証券・保険などの金融機関を「国有化」した。まさに「社会主義化」である。○最悪のシナリオが回避されたかどうか、疑問は残るが、金融機関の破綻の底は見えたというところであろうか。○もちろん、75兆円の不良債権買取負担が、ただでさえ財政赤字・貿易赤字という巨大な双子の赤字を抱えるアメリカにとって、如何に巨額であるかは言うまでもない。打つ手はドル紙幣の増刷と米国債の大量発行しか手段はない。○しかし問題は、買い手があるかどうか。○米国債の入札が不調に陥る事態ともなれば、国債の暴落、そしてドル価値の暴落、という世界恐慌シナリオが現実化する可能性も取りざたされ始めている。○産油国のドル・ペッグ維持も限界に来ているらしい。さらに、原油価格の「暴落」は、原油高騰で潤ってきた産油国の財政に大きな影響を与え始めているのである。○そして大量の米国債を保有する日本である。日米協調どころか、アメリカの属国のごとくアメリカに円を還流させてきた。アメリカとの関係を清算しアジアでの政治的・経済的協調関係にこそ軸足を移す絶好の契機であると言えるのではないか。○そういう意味でも、政権交代による国家基本政策の変更が求められているのであるが。○話がそれたが、重要な事は今回の金融危機が、いよいよ日本経済を徐々に直撃し始めていることだ。2008年6月以降前年比10%を越える企業倒産が起こっている。信用収縮・貸し渋りにより黒字企業でも倒産する事態が続出している。景気の先行指数と言われる機械受注も7月から3ヶ月連続で前年比で減少している。○輸出関連では、自動車など対アメリカへの輸出に大きく依存してきたが、金融不安からアメリカでの自動車販売が低迷している影響は大きい。原油高騰もあって、2008年8月の貿易収支は26年ぶりの赤字となっている。○国内でも、2008年6月以降、時間外労働が前年比で低下し、有効求人倍率も2007年12月以降1を切り、7月以降は0.9を割り込み、8月は、0.86まで落ち込み、企業活動が低下の傾向を示している。○一方で、消費者物価は、長期に渡るデフレ・物価の下降傾向から、2008年6月以降は、前年比2.4%の上昇となった。原油・国際商品市況の上昇が物価を押し上げ始めている。○今後は、金融不安が安定化へ向かう事が確実にならない限り、サブプライムで自己資本を毀損した日本の金融機関も不良債権切り離し、貸し渋りの傾向を一層強めるだろう。不動産価格の低迷・住宅・マンション販売の不振により住宅・建設業界は、厳しい状況となるのは確実である。○黒字倒産はもとより、消費の低迷、輸出の縮小、貸し渋りにより、企業倒産は今後一層増加するのは確実であろう。○そして、そのしわ寄せは、労働者へ転嫁されることになる。今年に入って、少なくとも上場企業45社が約5千人の退職募集に踏み切ったと報道されている。今後さらに広がると見られている。○派遣・非正規労働者の就労機会が、すでに縮小していると言われており、失業者の増大は確実である。大企業の組織労働者も決っして安心していられない。失業と貧困の2009年が近づいてきているのである。闘う以外に道は残されていない。(2008-10-19佐野秀夫)

 【出典】 アサート No.371 2008年10月25日

カテゴリー: 経済, 雑感 パーマリンク