【コラム】ひとりごと–橋下知事の財政再建試案の行方–

【コラム】ひとりごと–橋下知事の財政再建試案の行方–

○4月11日橋下大阪府知事は、財政再建プログラム試案を発表した。その内容は、至極単純なもので、赤字を解消するために、財産処分、人件費削減、府事業を縮小という内容である。○大阪府は、平成13年度より一般会計の財源不足に対して減債基金からの借り入れを行ってきているが、平成16年度以降は、通常の借換額を超える借換債を発行してきた。累計額は平成18年度で4522億円、19年度には992億円を予算化していた。○本年1月、太田知事の末期、これが1000億円の赤字隠しと報道されたことなどで、注目された。○2月に知事選挙で当選した橋下知事は、言わば、借金返済のために借金をするような借換債の増発を行わず、「平成20年度から収入の範囲で予算を組む、財政再建化団体にならない」を改革の目標に掲げ、少数のプロジェクトチームによる「財政再建プログラム試案」(以下試案と表現)を発表したのである。○府議会に対して提案された20年度予算は7月までの4ヶ月予算であった。府内市町村は、その段階では、3分の1の補助金等は確保されるであろうが、8月以降はどうなるのか、と疑心暗鬼の中にあった。しかし、今回の試案では、市町村への影響が大きいことが明らかになったことで、府内市長会、町村会から不満が爆発しているのである。○4月17日の知事と府内首長との意見交換会では、知事批判が爆発し、「歴史上、類のない大改革を唱える橋下知事は市町村との全面対決に突入した」(朝日新聞)のである。○府内自治体では、まだ試案の段階であるが、その影響を把握する作業に追われている。福祉の分野では、数年前、それまで無料だったひとり親家庭、老人、障害者医療について、1月1000円負担を導入した経過があり、福祉施策の充実を行うとの大阪府の約束として多くの「アクションプログラム」が設定されたが、今回の試案では4福祉医療について、原則1割負担、月額限度額2500円とし、アクションプログラムで実施された事業(府補助金)を軒並み廃止するという内容である。○自治体側が試案に対して反発するのも当然であろう。○また、特に注目すべきは、部落解放運動が築き上げてきた成果に対して、軒並み削減対象としている事である。地域就労支援事業や人権相談事業は、相談件数に対して、コストが高いとして廃止しようとしているし、総合福祉協会への補助金をゼロにするという。○障害者施策への上乗せ補助も軒並み削減の方向で、試案がそのまま実行されると、大阪府の特色など消滅する。大阪府が単なる国の出先機関に成り下がるだけのことであろう。○さらに人件費の削減である。試案では、今年度(8月以降分)で300億~400億円の削減、来年度以降は、450億~600億円の人件費削減が盛り込まれている。賃金10%カットとも言われている。すでに大阪府は、平成10年の財政再建プログラム以降、府職員の人員削減、賃金引下げを行ってきているし、教員、警察官も対象である。橋下知事は、首長との懇談会以後、「市町村の職員賃金も高すぎる、賃下げをするべき」と発言したものの、4時間後に撤回する一幕もあった。連合メーデーも民主党色が強すぎると欠席。人権対策と同様に労働政策にも、軒並みゼロベースの方向である。○歳出・歳入の総点検は結構なことだが、独裁者であっては困るのである。○自公の議員団も、これでは府民の理解は得られないと、修正の動きがでているが、橋下は「理解いただきたい」と言うのみ。反対する府民の声、良心的な職員の諫言に耳を傾ける気配はまったくない。○財政危機の底流には在阪企業の相次ぐ本社機能の東京移転や法人税収入の落ち込み、関西経済の低迷が背景にある。ならば、税収構造の抜本的改革を国に提言するべきであるが、権力に擦り寄るのみの橋下知事は、一向に国に対する毅然とした対応は出てきてない。○強気一本勝負の橋下知事だが、府民の意見には耳を貸さず、財務省にひざまずき、地方自治の根性もなく、数字合わせだけで立案された「改革」の行方は、必ず挫折することになると思われる。(佐野)

 【出典】 アサート No.366 2008年5月24日

カテゴリー: 分権, 大阪維新関連, 雑感 パーマリンク