【コラム】ひとりごと–近づくアメリカ金融帝国の凋落– 

【コラム】ひとりごと–近づくアメリカ金融帝国の凋落– 

○サブプライムローンの破綻・住宅バブルの崩壊が引き金を引いたアメリカ経済の破綻が、最終章に近づいている。金融機関の破綻という問題である。3月17日には大手証券会社ベア・スターンズをJPモルガン・チェースが買収すると報道された。200億ドルといわれる資金はFRB(米連邦準備制度理事会)貸出しであり、明らかな「公的資金」の投入である。○バーナンキFRB議長は、2月28日「いくつかの金融機関が破綻する可能性がある」と議会証言したが、いよいよ現実味を帯びてきている。○信用不安に対してFRBは、相次いでFFレートの引き下げを行ってきたが、実際の市場では、貸し渋りや債権の回収が先行し、信用収縮が起こっていると言われている。○日本の不良債権問題でも、金融機関の不良債権額が明らかにされず、疑心が疑心を呼んで不況回復が長期化したが、今回のサブプライム関連の不良債権は、「金融工学」理論によって証券化され、隠れているのが特徴である。当初は「リスクの分散」の象徴のように言われていたが、把握不可能なのが実態である。証券会社・金融機関の破綻危機が現実的となれば、次々と連鎖の罠が待っているのではないか。○FRBなどは、追加的利下げを連発しているが、資金の流動性を高める効果はあっても、金融機関の破綻には効果は薄い。○一方、ブッシュは大統領選挙を前に、失政を認めるわけにはいかず、また金融機関、増してや証券会社の破綻に公的資金の投入は躊躇するのは確実と言われており、ベア・スターンズに続くであろうヘッジファンドの破綻、証券・金融機関の破綻の影にアメリカ経済は怯えているのである。○サブプライム問題は、金融機関の巨大な損失に始まったが、金融機関のリストラと新規雇用者数の減少・失業率の高止まり、そして住宅含み資産の減価による消費の冷え込みにより、アメリカ実体経済の失速にまで及んでいる。○一方、流動資金は株式から逃避し、原油や金、金属、小麦などの商品市場へ雪崩れ込み、資源・商品先物価格の暴騰をもたらした。そして、3月第2週以来急激なドル安円高の進行となった。3月17日には95円代までドル安・円高が進んだ。○ドル安の進行は、原油の暴騰に一層拍車をかけることになる。産油国は今だドルペッグ制度であり、ドルの減価は、実質的な原油安となり、一層原油高を生むことになる。○いざなぎ景気を越える長期の景気拡大が続いているとされてきた日本経済もまた、株価の急落・円高の進行・原油高で、先行き不安が強まっている。輸出頼みで国内では労働分配を渋り、内需拡大を怠ってきたツケを円高で払うことになる。○08春闘は、交渉最中の株安・円高進行で、急ブレーキがかけられ、大幅賃上げとはほど遠い結果となった。今後の物価の上昇にも追い付かないのが実態である。○ブッシュのイラク戦争が生み出した中東の政情不安と原油高騰、「金融工学」が行き着いたサブプライム破綻と金融危機、最大の債務国アメリカに資金を集めるためのドル高政策と破綻、いずれもアメリカ発である。○世界の盟主の地位が、あらゆる面で揺らぐアメリカ。金融帝国の凋落が始まっているのである。(佐野)

 【出典】 アサート No.364 2008年3月22日

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