【投稿】労働者派遣法改正問題について –規制緩和は労働者を保護しない—

【投稿】労働者派遣法改正問題について –規制緩和は労働者を保護しない—

 自宅で購読している毎日新聞の日曜版には、たくさんの求人広告折込が入る。仕事柄一読するようにしているのだが、正規職員の募集は極めて少ない。パート・アルバイトは前からあるにしても、多くなっているのは、派遣型の募集である。実際の職場や企業名は記載されていない。組み立て工であるとか販売スタッフなどの表示であって、これらは労働者派遣会社が登録者を募集しているのである。当然ながら、社会保険完備などの表記は見当たらない。
 こうした派遣労働が常態化しつつある。近年のワーキング・プア問題が社会問題化され、政府もこれを無視することはできなくなってきたため、労働者派遣法の見直し・改正問題が焦点化しつつある。
 民主党は、今国会に労働者派遣法の改正案を提出する。特に「日雇い派遣」を全面的に禁止するという内容と言われている。仕事があるときだけ雇用契約を結ぶ登録型派遣がワーキング・プアの温床になっているという認識に立って、日雇い派遣の禁止、2ヶ月以内の労働者派遣の禁止、派遣先・派遣元の共同使用者責任を明確にすることが柱になっている。
 連合は、今年の連合白書の中で「連合は、労働者派遣制度は、創設当初の原則に立ち返るべきと考えている。当面の措置としては、登録型の非26業務について、禁止を含めた方向での抜本的見直しが必要である。連合は、労働者保護をはかる視点から、諸外国におけるみなし雇用制度、派遣元・派遣先の連帯責任、均衡・均等待遇原則等を参考に、労働者派遣法の見直しをもとめていく」としている。
 
<労働者の権利強化は、失業をもたらす??>
 使用者側の主張は、これと真っ向から対立したものと言える。
 昨年5月政府の規制改革会議・再チャレンジワーキンググループ・労働タスクフォースは、「脱格差と活力をもたらす労働市場へ–労働法制の抜本的見直しを–」と題する提言を発表している。一読して、あきれ果てる内容だが、辛抱して読んでおく必要がある。
 「流動性の高い労働市場を構築して初めて、働き方を変えたいと思う個々人が、意欲や努力により働き方を変えることができる機会のある、すべての人々にとって再チャレンジが可能な社会となりうる」
 「一部に残存する神話のように、労働者の権利を強めれば、その労働者の保護が図られると言う考え方は誤っている。不用意に最低賃金を引き上げることは、その賃金に見合う生産性を発揮できない労働者の失業をもたらし、そのような人々の生活をかえって困窮させることにつながる。」
 「真の労働者の保護は、「権利の強化」によるものではなく、むしろ、望まない契約を押し付けられることがなく、知ることのできない隠された事情のない契約を、自らの自由な意思で選び取れるようにする環境を整備すること、すなわち、労働契約に関する情報の非対称性を解消することこそ、本質的な課題というべきである。」と述べる。
 要するに「徹底した規制緩和が、労働者を保護する」との主張するのである。この文章は、ちょうど安倍前内閣が「再チャレンジ政策」を打ち出した時期に出されており、安倍前内閣の新自由主義的労働政策を、隠さずに書かれたとも言えるのである。
 規制ではなく、市場がすべてを解決すると言いたげな内容だが、この内容をまともな議論と受け止める労働者はいない。経営者の中にも違和感を感じる人は多いはずである。
 「労働者保護が強まれば、正規社員雇用は少なくなる」というが、「労働者保護規制が弱まれば、正規職員は増える」とは、言わないのである。「労働者の再チャレンジ」のためと装いつつ、一切の有期雇用を否定し、労働権を認めず、使用者と企業利益を至上とする労働市場をつくろうとしているのである。
 提言では、さらに、解雇規制の緩和(判例の積み重ねで、解雇規制が実質的に存在している事を批判し、解雇法制の整備を主張)、労働者派遣における規制の一層の緩和を求めている。
 
<現行制度でも労働者は保護されていない>
 しかし、労働市場はますます労働者を酷使し、無権利・低賃金・長時間労働を当然のこととして、労働者に押し付けてきた。
 キャノンで発覚した偽装請負事件。派遣労働者が立ち上がったことで、経営側は07年3月3500人を直接雇用するとした。しかし、期間工として採用したにすぎず、5ヶ月契約最長2年11ヶ月で雇い止めするという内容だった。正規雇用は拒み続けている。
 マクドナルドの店長は管理職と企業内で位置づけられ、時間外労働も青天井という実態である。東京地裁は、労働実態からして「管理監督者」とは言えないと2年間の残業代約755万円を支払えと判決をだした。しかし、同社はこれを認めず控訴するという。正規社員であっても、時間外労働コストを削り、長時間労働が野放しになっているのである。
 今年1月悪名高いグッドウィルが日雇い派遣の業務停止命令を受けた。介護サービス・コムスンの不正請求に続いて、派遣業務でも二重派遣を行い、派遣法で禁止されている港湾・建設業務への違法派遣が摘発されたからだ。二重派遣で港湾作業を行っていた労働者が労災にあったことが発端だった。派遣業界は5兆円産業とも言われるほど成長著しく、グッドウィルが撤退を余儀なくされても、現在の派遣法制のままであれば、次の悪徳企業が出てくるに違いない。
 2月8日国会で共産党の志位委員長は、派遣問題に的を絞った国会質問を行い、話題になった。「日雇い派遣で倉庫作業と言われて現場に行くと冷凍庫内での作業で凍傷になった」労働者の話、また「アスベスト除去作業にいったが、正規社員は防塵マスクがあったが、派遣労働者はコンビニでマスクを買えと言われた」など、労働者を使い捨てとして扱う現実を明らかにして政府を追及したのである。新聞によれば、反響は大きくインタネットの書き込みは4000件を越えたと報じられている。
 現行法の基でさえ、労働者の権利は踏みにじられている。さらなる規制緩和が何をもたらすかは明らかである。
 
<さらなる規制強化・労働者保護を>
 1985年に労働者派遣法が制定された。当初は業種を限定していたが、99年には対象業務を原則自由化し、一挙に広がった。低賃金で、社会保険負担から逃れることができ増員も減員も派遣会社任せという、企業の論理を優先させる派遣労働市場が拡大してきた。
 その結果、非正規雇用が一挙に拡大、低賃金・無権利の労働者を大量に現出させ、働いても低賃金(ワーキング・プア)層を拡大してきたのである。まさに、格差社会化を促進させてきたのである。
 小泉・安倍と続いた新自由主義路線も、参議院選挙の大敗という国民の拒否反応に立ち往生し、福田内閣では「格差社会」是正を一部に容認するという「修正」の動きが出てきているのも事実である。労働者派遣法の改正について、政府も有識者委員会で検討するという方向を打ち出さざるを得なくなっている。
 もちろん、経済界は従来の主張を変えてはいない。雇用の流動化路線に変化はない。法令違反企業には制裁を認めるものの、派遣の原則自由化については、先の提言に近い主張を行っているのである。
 連合は、09春闘の柱を、大手、中小、そして非正規問題と位置づけているが、その本気度が問われている。企業業績が上向いている今春闘こそ、大手のみならず、非正規労働者の権利拡大と待遇改善を勝ち取る好機であろう。まさに労働組合の社会的連帯の質が問われているのである。
 逆転参議院という有利な状況こそ、労働者の権利拡大・労働市場の規制強化のために活用しなければならない。日雇い派遣規制を突破口に「格差社会反対」の実績を、野党は統一して勝ち取る必要がある。それこそが政権交代に繋がる労働者の信頼と支持拡大を生み出すと考える。(佐野秀夫)

 【出典】 アサート No.363 2008年2月23日

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