【投稿】縮小均衡路線と景気後退の暗雲

【投稿】縮小均衡路線と景気後退の暗雲

<<ブッシュの景気対策>>
 世界経済に暗雲が立ち込めている。昨年来の米住宅バブル崩壊の端緒となったサブプライムローン(低所得者向け住宅融資)問題は、問題の根の深さ=マネーゲームに組み込まれた投機的経済の破綻、そしてその広がり=住宅以外のあらゆるクレジット、ローン、保険のデフォルト(債務不履行)にまで進行しようとしている。バーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)議長は1/17の下院予算委員会で証言し、サブプライムローンの焦げ付きは、現時点で1000億ドル(約10兆7000億円)、11月には1500億ドルに達し、今後「その数倍」に膨らむ恐れがあるとの見方を示している。同じ1/17、米証券大手メリルリンチは、07年第4四半期(10~12月期)決算を発表し、当期損益が前年同期の23億4600万ドル(約2500億円)の黒字から98億3300万ドル(約1兆500億円)の赤字に転落したと発表している。メリルリンチの当期赤字は、その前々日1/15に発表された最大手シティグループと同額である。この1/17のニューヨーク株式市場は、前日比306.95ドル安の1万2159.21ドルで終了、証券信用不安は底が見えず、信用収縮による景気後退が、底なしの経済危機に突入しかねない事態に直面しているとも言えよう。
 こうした事態を受けて、1/18、ブッシュ米大統領は急遽、米経済の「カンフル剤」としての景気対策の発表に追い込まれ、所得税や法人税の減税を中心に、約1400億~1500億ドル(約15兆~16兆円)規模の財政出動に踏み切る方針を明らかにした。
 その骨子の第一は、個人消費喚起のために、戻し税方式で納税者1人あたり800ドル程度(約9万円)の所得税減税を実施し、共働き世帯では1600ドル(約17万円)を想定、ITバブル崩壊に伴う前回01年の景気後退局面で実施した戻し税額の3倍近い金額で、会見に同席したポールソン財務長官は具体例として、納税者一人当たり八百ドルに相当する税金還付であることを明らかにしている。ホワイトハウスのラジアー経済諮問委員会委員長は、消費支出は国内総生産(GDP)の約七割に相当するとし、〇一年、〇三年に続く減税に踏み切ったと説明。
 今後さらに200万世帯が住宅を差し押さえられるとの予測もあるサブプライム救済策では、住宅の差し押さえを防ぐため、ローン契約の変更を手助けする地域団体や非営利組織(NPO)への補助増額、景気減速で悪化している州財政への補助を増やし、差し押さえ住宅の保全を支援し対策を急ぐという。
 さらに、失業保険の給付期間の延長や、困窮者層の食料購入費を対象にした生活補助(フードスタンプ)の増額なども検討するという。
 法人税減税では、雇用を担う中小企業に焦点をあて、減価償却費の損金算入枠拡大による法人税減税によって、「経済成長に重要な企業投資と個人消費をテコ入れする」(大統領)として、新たに約50万人の雇用を生み出す効果を期待している。
 しかしそれでも、1/18のニューヨーク株式市場は、ブッシュ大統領が同日発表した景気対策の概要について、効果は不透明だという見方が広がり、根強い景気後退懸念を背景に売り注文が優勢な展開とり、前日終値比59.91ドル安の1万2099.30ドル、4日続けての続落となった。

<<無策・傍観の福田政権>>
 さて問題の日本は、こうしたアメリカの動きと連動するように下降線をたどっているが、先進国では日本市場の低迷ぶりがとりわけ際立っている。にもかかわらず、福田首相を先頭に政府・与党首脳はまったく無策・傍観、ただただ「ファンダメンタルズは悪くなく、当面は見守っていく」と繰り返すばかりである。半年前の日経平均1,8000円台の株価が1,3000円台に急落、福田政権登場後3カ月だけでも2,500円も値を下げている。
 自民党は1/17、党大会を開き、党総裁として初めて臨んだ福田首相は「自民党に対する国民の不信、不満を痛感している。国民は政治や行政に憤っている」と指摘し、「立党以来の最大の危機」と位置づけ、「国民の中に入り、国民の声に耳を傾け、まだ消えぬ期待の炎を燃えさかる支持と支援の炎に変えていく」と語ったが、いかなる政策を中心にすえるのかという肝心かなめの基本政策はまったく展開しえず、年内にも予想される解散・総選挙に向けた戦略などは先送りして、一切触れることはなかった。当然、大会を政治決戦の年の幕開けにふさわしい場にするべく準備していた、15あった衆院選の候補者が決まっていない空白区(現在は11)について「党大会の際に発表」するはずがこれも先送りされ、現職が競合する選挙区の公認調整も事実上ストップし、首相を先頭に「解散風をあおることだけは避けたい」という姿勢が露骨に示され、野党の挑戦、解散・総選挙を受けて立つ気迫は微塵もない党大会となってしまった。
 そして1/18の通常国会冒頭の内閣発足後初めてとなる施政方針演説で、「国民本位で」「国民の目線で」「国民の立場に立って」とやたらに低姿勢を強調しながらも、その実は小泉・安倍内閣以来の「歳出・歳入一体改革」を「徹底して」進めることをあらためて表明し、「財政健全化」の名の下に徹底した「社会保障抑制」路線と、さらに消費税率の引き上げを含む「税体系の抜本的改革」について「早期に実現を図る必要がある」として、消費税増税路線に福田内閣が乗り出す姿勢を明らかにしたのである。さらに問題なのは、年間約五兆円にものぼる軍事費には一切手をつけず、この巨額の軍事費を食い物にする政界・経済界・軍事官僚の癒着構造が明らかになった防衛省汚職について何の反省の言葉すら述べることなく、「真相究明」の意思も表明せず、逆に「平和協力国家日本の実現」を掲げ、その目玉として、「迅速かつ効果的に国際平和協力活動(=自衛隊の海外派兵)を実施していくため、いわゆる『一般法』(恒久法)の検討を進める」ことを打ち出したのである。何のことはない、低姿勢を表看板にしただけの小泉・安倍路線、実質憲法改悪路線の継承である。

<<政権交代の年へ>>
 その本質は、財務省官僚が唱える「財政支出の均衡こそ第一」と考える「財政原理主義」であり、縮小均衡路線である。しかもその縮小均衡路線は、マネーゲーム万能の市場原理主義と結びついた弱肉強食路線、格差拡大路線である。市場原理主義者のブッシュ米大統領でさえ今回提起せざるをえなかった景気対策とはまるで対極に位置する、増税・消費抑制・マイナス成長路線である。取られるべきは拡大均衡路線であるべきなのに、これでは不況をますます深刻化させ、財政破綻をより一層拡大させるものでしかない。
 拡大均衡路線によってこそ、医療・福祉・介護・年金を再建することが可能となり、格差拡大をストップ・縮小させ、雇用を拡大させ、社会資本を充実させ、地方経済を立て直すことが可能となる。地震対策と原発の縮小、地球温暖化対策、環境対策にも大胆な政策転換と投資を投ずべきであろうし、そのことは日本社会全体の喫緊の課題として重視されるべきであろう。
暗雲立ち込める景気後退に対して、まず取られるべきは最低賃金の引き上げと所得税減税、石油・ガソリン減税を含めたあらゆる可能な消費税減税、社会保険・雇用保険給付金の底上げと給付期間の延長であろう。事態はこれによって大きく改善されることが期待されるといえよう。
しかしこうした政策を実現させるためには、政治の大胆な政策転換が不可欠である。自民・公明連合を与党とする福田内閣の無策・傍観路線、縮小均衡路線ではこれは望むべくもない。
対する野党も、この点では不明瞭であり、明確な政策対置がなされていない。しかし石油価格の高騰と共にあらゆる商品の物価騰貴が押し寄せ始め、庶民は悲鳴を上げ始め、事態は大きく転換しようとしている。何はさておいても、自民・公明連合の政権を一刻も早く引き摺り下ろし、政権交代を勝ち取ることが必要不可欠の最低条件になっており、野党はそのために結束を強め、政策対置を明確に提起し、奮起すべきであろう。2008年は、そのことが可能となる重大な年と言えよう。
(生駒 敬)

 【出典】 アサート No.362 2008年1月26日

カテゴリー: 政治, 生駒 敬, 経済 パーマリンク