【コラム】ひとりごと–医療がおかしい–
○日本の医療を巡って、注目すべき事態が起きている。ひとつ目は、医者がいないこと。医者不足から、産婦人科が閉鎖される病院が多い。都市部・地方を問わずだ。○激務と言われる産科に限らない。特に自治体病院から医者が消えていく。大阪府内では医科大学が医師を大学に引き上げたことで、内科閉鎖に追い込まれ、病院そのものの存続が危ぶまれる自治体病院も出てきた。奈良県では婦人科救急の受け入れがないために、昨年・今年と患者がたらい回しされ、死亡に至った事例が続いた。○付き合いのある医師の話だが、原因の一つは、研修医制度の改正だと言う。これにより、医大卒業後、2年間臨床研修が義務付けられた。それまでの研修医は、所属医療機関の戦力として、夜勤などにも従事したが、制度改正により、2年間は大学病院の指導の下に「研修」に力点が置かれ、大学側にも「指導」体制が求められた。○大学は指導担当医を確保するために、医者を病院に呼び戻す。こうして病院から研修医が消え、中堅の医師も消えた、というわけである。○さらに、研修中は、幅広い研修ということで、単科に絞った研修はできず、2年経っても「一人前」にならない、と知り合いはもらす。○二つ目は、病院経営が厳しくなってきていることだ。平成18年度に、診療報酬が平均で3.6%引き下げられた。個別で見ると10%近い引き下げもあり、18年度は10%近い減収となったという。○2年毎の診療報酬改定ということで、20年度の改定は、開業医報酬に的が絞られているという。特に24時間診療体制が取れるかどうか。厚労省は、開業医にアンケートを実施したが、大阪の医師会は回答を拒否する事態となった。○介護病棟の見直しも、医療介護現場に混乱を招いている。○医療報酬の引き下げは、自治体病院には深刻な影響を与え、自治体そのものの財政危機も重なり、病院身売りも現実味を帯びてきている(国保会計は助かっていると言うが)。○こうした情況の中で、日本医師会も一枚板でなくなってきている。小泉改革推進派(武見派)と反対派が会長選挙で対立した。先の参議院選挙でも、医師会は自民党支持に一本化できなかった。○さらに、20年4月から75歳以上を対象にした後期高齢者医療制度が発足するが、利用者には負担増、医師には報酬減が確実な制度となりそうだ。○小生、福祉の現場にいるので、医療の事は、薄々わかる。驚く程の医療費請求に直面する毎日で、医者・病院に対する印象は、はっきり言って悪い。薬漬け、たらい回し、高額請求、治癒した患者にあまり出会えない。○小生は、幸いな事に過去5年間は医者要らずで過ごしてきた。今後もそうありたいが、そうも行くまい。○いずれ、お世話になる時もあると思うが、現状の医療の現実を見る限り、余りに問題が多すぎるのが気になる。○医療不安解消もまた、早晩行われる総選挙の重要なテーマにしなければならないと思う。(佐野)
【出典】 アサート No.358 2007年9月22日