【本の紹介】偽装請負—格差社会の労働現場

【本の紹介】偽装請負—格差社会の労働現場
  (朝日新聞特別報道チーム 朝日新書 2007・05) 

 朝日新聞は2006年7月31日から紙面において「偽装請負」追求のキャンペーンを開始した。このキャンペーンは、当初13名の記者によりチームが編成され、07年3月末までに、約60本の「偽装請負」関連記事が掲載されている。
 本書は、こうした取材に基づき、偽装請負を続けてきたキャノン・松下電器の実態、そして請負供給の側の人材派遣大手会社の興隆と凋落、労災隠しの実態をまとめたものである。
 
<御手洗キャノンが続けた偽装請負>
 1985年のプラザ合意以降、急速に進んだ円高は「円高不況」を生み出し、日本国内の製造業は、安価な労働コストを求めて工場の海外移転が進んだ。国内においても製造現場においては、正規職員ではない期間工の導入が進んだ。当時は、派遣労働は、製造業において認められていなかった。90年以降、期間工よりも「融通の利く」請負労働の導入が進む。キャノンでは95年頃、期間工は、請負労働者にとって変わった。
 請負とは、一定の業務を別の会社に一括して請け負わせるのであるから、仕事の指示は、請負業者が行う、とされている。そして雇用関係は、労働者と請負業者の間に成立。しかし、キャノンでは、請負会社からキャノン工場で働く請負労働者への指示は、キャノン社員が行い、工場ラインではキャノン社員と請負労働者が混在して就労し、請負量による精算ではなく、実労働時間に応じて請負金を支払うなど、「偽装請負」が常態化していた。
 マスコミでも取り上げられたが、キャノン宇都宮光学機器事業所で働く25名の労働者が組合を結成した。請負労働であったが10年以上光学機器の製造現場で働き続けてきた人もいるという。長年働いていても、社会保険もなく、賃金も上がらない、いつ職場を失うかわからないという不安が組合結成に結びついた。
 組合のキャノンへの要求に対する回答は「・・貴組合員は請負会社の従業員であり、請負会社の指揮命令下において当該請負業務に従事しているにすぎず・・・」「労働組合法上の使用者性は認められず、団体交渉の応諾義務はない・・・」という内容であった。
 キャノンの御手洗社長は、現在経団連会長、事ある毎に「雇用の流動化をもっと進めるべき」と主張し続けている。そのお膝元では労基法違反の「偽装請負」が常態化しており、労働基準監督署から度々指導を受けてきたことは、朝日新聞の報道により、広く世に知られる事となり、国会でも今年2月野党は一斉にキャノンの偽装請負問題を取り上げることとなった。
 2004年製造業への派遣が1年間の期限付きで解禁された。この年の春、宇都宮事業所の請負労働者も、1年間の派遣契約に変更されたが、1年経過して再び請負契約に変更されたという。1年を経過して直接雇用に切り替わったものはいなかった。
 御手洗の出身県である大分キャノンには7000人が働く。しかし、そのうち請負労働者は、5000人にのぼるという。
 現在の派遣法では、派遣労働の期限を3年としそれ以後直接雇用を義務付けている。キャノンでも、偽装請負摘発を受けて、一部を派遣契約に切り替えている。しかし、3年後に直接雇用される保証は何もない。
 
<松下電器の悪質さ>
 松下PDP茨木工場では、大量の社員が請負会社に出向になった。1500人の労働者の内、半数が請負労働者というこの工場に、大阪労働局は、偽装請負是正の行政指導(05年7月)を行った直後だった。社員が請負労働者に指揮命令している事実が発覚し、行政指導となったのを受けて、社員も請負会社の社員となれば、違法状態を言い逃れできると判断した結果だった。この事実を朝日新聞が2006年8月1日朝刊で報道した後、松下は、請負労働者から2割を正社員雇用するとの記事が日経新聞に載ることになる。
 そして、2006年10月、大阪労働局は「大量の請負会社出向は、職業安定法違反にあたる」と判断した。こうした「脱法行為」が許されれば、「偽装請負」は、日本中どこにも存在しない事になるのである。
 この大量出向問題について、労組も容認していたようだと本書は書いている。果たして、連合大阪の現会長は松下労組出身である。私の経験だが、かつて連合近畿のセミナーで松下電器の人事部長(現在関空会社社長)は、日本の製造業には終身雇用がふさわしいと講演していた(地域別賃金への制度変更導入を説明したうえだが)。さらに松下創業の祖である松下幸之助氏は「会社は社会の公器」と企業理念を明確にしていた。私も中学生時代にPHPが出版した松下氏の名言集を愛読書にしていた記憶からも、本書に書かれている松下の悪辣さには、ちょっとショックでもある。
 
<100万を越える請負労働者>
 キャノン、松下を取り上げている本書だが、当然他の製造業でも同様の違法行為がまかり通っていると思われる。御手洗経団連会長らの唱える「雇用の流動化」は企業に有利な、労働者の使い捨て政策に他ならない。
 また、権利を主張すれば職を追われかねない情況の中で立ち上がったキャノンの労働者達の闘いに共感するとともに、労働諸法を持って不正に対して労働者が立上がる事を期待したい。
 大企業が労働者の基本的権利を奪い続けるという「偽装請負」の実態を告発する朝日新聞のキャンペーンは、まさに時期を得たものであり、社会的不正に対して世論を喚起した意味でも大いに評価できるものと言える。
 本書は、丹念な取材を基にしており、読み物としても読みやすく日本の労働実態を明らかにしたものとして、是非一読願いたいと思い、紹介した次第である。(佐野秀夫)

 【出典】 アサート No.356 2007年7月21日

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