【投稿】安部政権退陣を決定づける参院選へ
<<自ら招いた逆風>>
安倍首相は、参院選が公示された7/12の第一声で「60年ぶりに教育基本法を改正した。防衛庁を省に昇格させた。国民投票法を成立させた。私は負けません。今回は何が争点か。それは今後も改革を進めることができるかどうか」だと声を張り上げた(東京・秋葉原)。しかし首相のこうした「戦後レジームからの脱却」路線は、聴衆にうつろに響き、何の拍手喝采もえられず、すぐさま5000万件の「宙に浮いた年金記録」問題に移り、「私も社保庁何やってるんだと思う」とまずは責任を転嫁し、「私の内閣で解決を約束する。最後の一人までチェックし、出来る対策はすべてやっていく」とトーンを上げたが、これまた選挙向けのポーズと冷めた視線で疑問視する聴衆の賛同や共感を得られるものではなかった。首相が声を張り上げ、もがけばもがくほど、その危険で底の浅い強行突破路線、その場しのぎのおざなりなつじつまあわせに聴衆は冷め、疑問視する人々をさらに増大させていくという悪循環が続いているのである。
そうした結果として、低迷している安倍内閣の支持率が、朝日新聞の世論調査でついに2割台(28%)にまで落ち込んだ(7/2、朝日)。3割を切ったのは小泉内閣時代にはなく、あのシンキロー内閣と揶揄された森内閣までさかのぼる、最悪の記録である。
しかしここまで落ち込んだのは、首相自らが招き寄せたものである。
その第一は、もちろん、「年金5000万件未処理」問題である。この問題は民主党の長妻議員が一年以上も前から追及し続けていたものであるが、安倍内閣はタカを括り放置していた。今年の二月になって5000万件を超える未処理が明らかになっても何ら対策を取らず、問題の重大性がクローズアップされた五月になると、元厚生大臣であった民主党の菅直人氏に責任があると、首相本人がいかにもえたりかしこしと言い出し、周囲をあきれさせ、撤回せざるをえなくなっても、それでもあきらめきれぬほどの政治的鈍感さを白日の下にさらけ出した。事態が不利になるや、冷静に対処すべき問題を、「一年以内に5000万件の照合作業を終える」と発言し、選挙が近づくと「さらに三ヶ月前倒しする」とまで言い出し、強引に第三者委員会の設置で全ての問題の棚上げを図り、公務員攻撃と社会保険庁解体に論点をすり替え、ことごとくその場しのぎのつじつま合わせで乗り切ろうという魂胆が見えミエなのである。
しかしこの問題は、5000万件以外にさらに明らかになった1430万件もの未入力案件、83万件の「被保険者台帳」違法廃棄案件、191市町村の被保険者名簿破棄案件、船員保険36万件未入力等々、未解決案件が山積しており、一つ一つを着実に具体的に解決し、なおかつ抜本的な年金制度の改革・一本化と連動して解決しなければならない問題なのである。だからこそ先の朝日の世論調査でも、年金記録の問題について、安倍内閣の一連の対応を「評価する」が24%に対して、「評価しない」が59%にも達しているのである。これは首相自らが招いた逆風といえよう。
<<「月八百円だ」>>
そして第二の逆風は「政治とカネ」の問題である。安倍内閣はまさにこの問題をめぐって、自浄能力も危機管理能力もないことを浮き彫りにしたのである。すでにこの短期間のうちに3人の大臣が辞め、そのうちの一人は安倍首相の姿勢によって現職閣僚が自殺に追い込まれるという前代未聞の事態を招きながら、その後任に指名した赤城大臣にまたもや同じ事務所経費問題が発覚した。そのずさんな税金を食いものにした経理処理を追及されると、自らの任命責任や自浄能力も棚に上げて、「(水光熱費は)月八百円だ。八百円の人を辞めさせるのか」などとキレてしまい、その程度のことしか反論できないほど低劣な論理しか持ち合わせていないことを自ら暴露する。仲間内サークルでしか政権運営も組閣も出来ない安倍内閣の軽薄さを象徴するものである。
第三の逆風は、住民「増税」6月ショックである。6月から実施された定率減税全廃と税源移譲による住民税大幅増への問い合わせが殺到し、新潟県五泉市では無職男性(63)が「市税が何倍にもなりこれでは年金暮らしの自分は生活できない。死ねと言うことか」と抗議し、ナイフで説明用紙を破り、公務執行妨害で逮捕されるという事態まで生じている。史上空前の利益をあげる大企業への減税はそのまま続行しながら、庶民の家計を直撃する定率減税全廃だけを決めた結果がこれである。安倍内閣にとっては、「年金」「政治資金」に続くトリプルパンチである。
さらにこれも安倍首相自身が招いたものであるが、米議会委員会で、慰安婦決議案が39対2の圧倒的多数で可決され、参院選最中の七月第二週にこの決議が下院本会議に上程され、可決されることがほぼ確実とまで言われている。米議会の討論では民主、共和両党の議員が、強制性を否定した安倍首相の発言を批判し、「日本の謝罪は不十分」との声が相次ぎ、ペロシ下院議長は「慰安婦」問題では、「日本政府には、もっとすべきことがある」と指摘、「過去の過ちを認識し、その歴史を繰り返さないために、未来の世代を教育するのに遅すぎるということはない」と語っている。これに対し、安倍首相は「米議会ではたくさんのけつぎがされている。そういう中の一つ」「コメントするつもりはない」と無視する姿勢を明らかにしているが、日米同盟一体化を説く首相にとっては気が気ではない逆風であり、自らが招いた取り返しのつかないジレンマに立たされているのである。こうした首相の姿勢を支援する意図を持って、6/14に「従軍慰安婦」の「強制連行はなかった」と主張する自民、民主両党の「自虐史観反対」派の国会議員らの米紙ワシントン・ポストへの意見広告は、かえって逆効果をもたらしのである。
<<野党有力候補に票の集中を!>>
さらに逆風には枚挙に暇がない。規制緩和利権に群がり、介護事業を食いものにし、較差拡大を徹底して利用し、不法な派遣事業で大儲けをしてきたコムスン・グッドウィルグループの社長を持ち上げ、賞賛し、自ら広告塔となってきたことが、コムスンのホームページで明らかになり、あわててその対談記事・写真を隠したが、今さら遅しである。
そしてあの“久間暴言”に際しても首相は当初、「原爆しょうがない」というのはアメリカの立場を言ったのでしょうなどとかばい続け、抗議が殺到するやあわてて発言注意でことをごまかし、逃げ切りを図ったが、与党内からも批判が相次ぎだして、ついに大臣交代に追い込まれる。政治状況を読む力もなければ、対処する能力もない、その未熟さばかりを際立たせたのである。
そして首相自身が消費税の引き上げをめぐって、7/5のテレビ発言で「消費税を上げないなんて一言も言っていない」と消費税増税を示唆したが、与党幹部はこれを「失言」ととって問題にしだすと、翌日のテレビ番組では「消費税を引き上げない可能性も十分ある」と急に姿勢を転換するうろたえぶりである。
ネオナショナリストといわれる安倍首相がいくら「闘う政治家」を気取り、「戦後レジームからの脱却」を唱えても、そうすればするほどその底の浅さが、この短期間のうちに明らかにされてしまったのである。
こうした状況に対する最大の反撃は、与党連合を徹底して孤立させ、過半数割れに追い込むことであろう。今回の参院選はその現実的可能性が極めて高いことを明らかにしている。圧倒的多数の人々が安倍政権に幻滅し、怒りを表明している。事態はほうっておいても安倍政権は自壊しかねないほどその支持基盤を失っている。それでも大手マスメディアのほとんどは安倍政権を支える姿勢を鮮明にしている。その力をあなどることは出来ない。問題は野党がいかに結束して与党連合に対抗し、協力体制を築き、少なくとも29の一人区では与党候補に対抗して闘う野党候補の有力候補に票を集中することが出来るかどうかにかかっているといえよう。そうしてこそ初めて与党連合に楔を打ち込み、孤立させ、安倍政権が退陣に追い込まれざるを得ないほどに議席を減少させることが可能となる。
(生駒 敬)
【出典】 アサート No.356 2007年7月21日