【コラム】ひとりごと—米住宅バブル崩壊で世界同時株安が進行—–
○アメリカの株式市場・金融市場が大揺れだ。つい最近ダウ平均が14000ドルを史上初めて突破したところだが、「サブプライムローン」の相次ぐ破綻、もしくは破綻懸念が噴出し、ダウ平均が急落した(8/15)。○以来、サブプライムローンを問題を発端にした株安は欧州・日本・アジア市場に波及し、信用収縮(クレジット・クランチ)が懸念される事態となった。EU中央銀行に続きFRBも合わせて数十兆円にのぼる資金供給を金融市場に行うと共に、アメリカFRBは公定歩合を0.5%緊急に引き上げる対策に乗り出し、今日(8/20)現在は、各市場とも安定化の方向に向かっていると言われている。○また、米株価の急落は、ドル離れを急速に進め、8/16を前後して、円が4円以上一夜の内に急騰する事態となった。円高の急速な進行により、いわゆる「円キャリートレード」投資が焦げ付く事態となり、一層の円買いを呼んだとも言われている。急速な円高を受けて8/17には、日経平均が800円を越えて暴落することになった。○何ともめまぐるしい事態の進行だが、その原因となった「サブプライム・ローン」とは何なのか。アメリカでは、金持ちには低金利、低所得者には高金利が常識だそうだ。カードローンの利率まで大きな較差がある。○当然住宅ローンも同様で信用力の低い人、要するに低所得者には12%を越える高金利の住宅ローンが存在する。これが「サブプライムローン」である。アメリカの住宅価格は経年による価値の低下は日本と比べると少なく、資産価値が上昇尾する場合もある。不動産バブルが重なり、高金利を越える住宅価格の上昇が続いたためサブプライムローンによる住宅取得が拡大した。○ローン会社はこのローン債権を証券化し、市場化した。年10%を越える利鞘にアメリカのみならず欧州・日本から投資が行われてきたが、住宅販売の不振・住宅価格の低迷が、このローンの焦げ付きを顕在化、一挙に「住宅バブルの崩壊」という事態となった。○日本でも1000億円を越える損失が金融機関や投資ファンドに生じている。○アメリカは世界最大の債務国でありながら、国内消費の底堅さにより経済が支えられている国である。(機軸通貨の強みもあるが)その消費を支えてきたのが、住宅バブルであり、ローンを借りても資産が増えるのだから使えばいい、という発想であろうか。その基礎構造にサブプライムローンがあったのである。○しかし、アメリカの住宅ローンの破綻が、何ゆえ欧州や日本、世界の金融市場を激震させているのか。○かつてLTCMなどのヘッジファンドの破綻が世界株安の引き金になった。今回の場合も、ローン債券の証券化により高金利を当て込んで世界中のファンドが投資をしていたわけである。○LTCMの場合と違い、今回は「疑念」が「疑念」を呼んで、脱兎のごとく資金が逃げ出し金融市場が収縮した。まだ破綻するサブプライムローン会社の規模も明らかになっていないのにである。今後高金利支払い期が到来する債券も大量であるという。○高金利・利益を当て込んだ「過剰流動性」資金は、国を越えて暴れまわっている。原油高騰をはじめとする原料価格の高騰も、これら流動性資金の投機的運用の結果と言われている。○実体経済に基づかない資金の流れが市場を決定している。○日本に目を移すと、歴史的低金利が続いているが、今回の世界同時株安で8月利上げはないと言われている。となれば円安基調に変化はない。日本の金融当局には静観以外の金融政策は存在しないかのようである。○唯一あるとしたら、労働市場において低下した労働分配率を引き上げる政策を実行し、勤労者国民の所得を向上させ、内需を高めることしかない。一向に改善しない低賃金の状況に対して、唯一の選択を経営者に押し付けることが必要であろう。輸出主導の経済では円安頼みになる。内需拡大で成長が可能となるよう労働者への配分増こそ必要である。○サブプライムローン問題と乱高下する世界株、そして円高に怯える輸出主導日本経済、不安定な状態が今後も年末まで続くのは必至であろう。世界同時株安は安倍政権に課題を突きつけている。アメリカの言いなり政策では、国民が不幸になることは目に見えている。(佐野秀夫)
【出典】 アサート No.357 2007年8月25日