【投稿】「イスラムシフト」のブッシュに引きずられる安倍
<「解決」に向かう北の核問題>
北朝鮮の核問題を巡る6カ国協議は、2月13日に北朝鮮の核施設の停止を合意した。採択された共同文書では「初期段階の措置として北朝鮮は60日以内に寧辺の核施設を停止、封印する」「北朝鮮に対し60日以内に重油5万トン相当のエネルギー支援をおこない、第2段階で95万トンの追加支援をおこなう」「日米は北朝鮮との国交正常化協議を始める」「朝鮮半島の非核化など五つの作業部会を設置する」「次回の6カ国協議を3月19日に開催する」事などが盛り込まれた。
アメリカは初期段階のエネルギー支援には参加しないものの、マカオの「バンコ・デルタ・アジア」(BDA)に関する金融制裁解除問題を「30日以内に解決」すること、さらにテロ支援国家の解除についても検討することを明らかにしている。
一方の北朝鮮は、「既存核兵器の処理問題」や「高濃縮ウラン製造問題」を不問にされたうえ、どのようなプロセスで、核施設が本当に使用不能になるのかなど、合意履行の担保については曖昧さを残したまま、莫大な見返りを手にした。
この「核施設停止~エネルギー支援」というスキームについては、1月にひらかれた米朝ベルリン協議で基本合意ができており、6カ国協議はその調整と確認の場だった。
こうした内容に、中国、ロシア、韓国は概ね満足の意向を示している。3月には韓国でエネルギー支援作業部会の開催が予定され、南北首脳会談も展望されるなど次なるステップを模索する動きも始まっているが、日米両政府内には当惑が広がっている。アメリカでは、6カ国協議を前に米朝ベルリン協議の内容に激怒した、対北朝鮮強硬派のロバート・ジョゼフ国務次官(軍備管理・国際安全保障担当)が辞任を表明、協議後もボルトン前国連大使が合意内容について最大級の批判を展開している。
日本政府は最大の懸案とする拉致問題が議題にならず、まったく存在感を示せなかったばかりか国際的孤立が浮き彫りになった。安倍は「拉致問題が進展限りしない限り、支援もおこなわない」と従来のポーズを崩していないが、予想以上の事態の進展に動揺を隠し切れていない。政府は「間接的な協力」として、北朝鮮のネルギー事情調査への参加のため、職員の渡航見合わせ措置を解除せざるを得なくなった。このように制裁措置の一環が崩れ始めており、今後さらに日本への「対話と圧力」が強まることは必至である。日本政府にとっては拉致問題について参加国から同情的な言葉をかけられたのが「せめてもの救い」だった。
<「棚ぼた」手にした北朝鮮>
今回の6カ国協議で合意された内容の実行と検証については、今後の各作業部会や次回協議、さらには米朝協議などを通じた、綱渡り的な対応が迫られるのは事実である。北朝鮮が本当に核を放棄する意図があるのかについては、金正日総書記の胸中を覗かない限り不明であり、6カ国協議での合意は、北朝鮮にとって非常に有利であったとの指摘は的をえている。
金正日総書記は合意内容について、昨年夏から秋にかけての連続ミサイル発射実験、核実験実施という強硬路線、瀬戸際外交が実を結んだ物と考えているかもしれない。しかしアメリカの大幅な譲歩は、イラク、中東の泥沼化の賜物で、北朝鮮にとっては棚ぼただったのである。
<米軍増派で緊張高まる中東>
中間選挙の大敗北で、イラク政策の見直しを迫られたブッシュ大統領は、国民や世界の望む方向とは全く逆の見直しを強行しようとしている。ブッシュは、当面全精力を中東に傾注しようとしているのである。
米政府はイラク内戦鎮圧のため、短期間に2万人の米軍増派を決定、すでに先遣隊は2月からイラク治安部隊と共同で、バクダッド周辺の掃討作戦を開始している。
しかしイラクでは、大規模な爆弾テロが続発、抵抗組織の反撃も活発化し、一月足らずで米軍や民間軍事会社(PMC)のヘリ5機が撃墜された。またイラク政権内部の矛盾も深刻化し、シーア派(サドル師派)民兵に甘いマリキ首相に対しアメリカは苛立ちを募らせている。今後、アメリカ軍が単独でシーア派への攻撃を強めれば、マリキ政権崩壊から「対米戦争」へと事態が拡大しかねない状況になりつつある。
アメリカ国内の反発も依然として強く、AP通信の世論調査では、約7割が増派に反対していることが明らかになった。ブッシュの支持率も同調査で政権発足以来最低の32パーセントに落ち込んだ。ワシントン・ポスト紙とABCテレビの緊急電話調査でも、反対が61パーセントに上っている。
焦りを深めるブッシュはシーア派武装組織の背後にはイラン政府(革命防衛隊)がいるとし、イラク国内でイラン外交官を拘束、ペルシャ湾へ空母機動部隊を増派するなど、アフマデネジャド政権に対する挑発も強め、中東全域での一層の緊張激化を煽り、イランへの軍事行動も懸念されている。さらにブッシュ政権は、新たな地域統合軍として08年中に、エジプトを除くアフリカ大陸を管轄する「アフリカ軍」を創設する方針を明らかにした。
この主要な目的はソマリアなどアフリカ各国に浸透する、イスラム原理主義勢力に対抗するためであり、インドネシアやフィリピンなどで進めるイスラム武装勢力制圧作戦と軌を一にするものである。中東に軸を置きながら、両腕でアフリカ、アジアを押さえ込もうというのが新たな対テロ戦争戦略の一環としてうかびあがる。
<「下駄の雪」の安部政権>
こうしたなか、2月20日にはチェイニー副大統領が来日、安倍に対し、イラク新戦略と対テロ戦争への一層の協力を求めた。アメリカの対テロ戦費は、01年9月の同時多発テロ以降、累計で約5000億ドル規模に達している。さらに、新たに示された向こう3年間で総額約2950億ドルの追加支出を加えれば、約6000億ドルのベトナム戦費を大きく超過することとなる。これからも北朝鮮問題で新たな支出を捻出することが困難なことが判る。
安部は「新イラク政策への理解」を表明しており、経済的負担に加え、今後新たな海外派兵を求められることになるだろう。内閣の看板である拉致問題では6カ国協議に於いて事実上切り捨てられたにも関わらず、表面上のアジア重視外交のメッキがはがれた今、アメリカの要求を丸飲みし、対北朝鮮支援についても追従していく他に選択肢は無くなっている。
「瀬戸際内閣」化が顕著な安倍に対し、イラク開戦を批判した久間防衛大臣に加え、ポスト安倍を狙う麻生外務大臣もアメリカのイラク占領政策を批判、距離を置き始めている。
統一自治体選挙、参議院選挙では内政問題に加え、破綻した外交政策も争点として、安部政権を追いつめていくことが野党、民主勢力に求められている。(大阪O)
【出典】 アサート No.351 2007年2月24日