【投稿】事故経験の継承よりも金がそんなに大事なのか?

【投稿】事故経験の継承よりも金がそんなに大事なのか?
     -関電美浜3号配管破断事故から2年-
                           福井 杉本達也

 5人が死亡・6人がケガを負った関西電力美浜3号機事故から、8月9日で丸2年がたった。当日は森詳介関西電力社長らが美浜発電所内の事故慰霊碑に参り、事故発生時刻の3時22分には本店を含め全社員が黙祷をしたが、関電の「稼働率優先」「安全無視」の体質はこの2年間で変わったのだろうか。
 
<再稼動に遺族が反発>
 既に関電は同原子炉の再稼動に向け、燃料装荷作業を終え、原子炉圧力容器の組立作業に入っている。9月下旬には一度出力を100%に上げる「試験起動」を予定している。その後、一旦原子炉を停止し、再度安全確認をした上で営業運転に入りたい考えである。
 そもそも「試験起動」というややこしい手続きを関電が踏まざるを得なくなったのは、5月26日に福井県知事に対し運転再開を申し入れた時点で、事故で死亡した遺族に全く説明していなかったことにある。事故で死亡した亀窟勝さんの義母・田中多磨さんは、福井新聞の取材に対し「県も美浜町も、運転してもらわないとお金が入らないという魂胆が見え見え。われわれ遺族の感情には全く配慮がない」(福井:2006.5.27)と、一斉に反発したことによる。

<遺族の心情を逆撫でした県の拝金主義>
 遺族の言葉を待つまでも無く、県が5月26日に3号機の運転再開を認めたのは、法定外普通税の核燃料税率を10%から12%へ2%の引き上げを行うことと引き換えであった。県は5月末に再開を認め、6月県議会で核燃料税の改正条例を提案・可決し、11月より税率を引き上げる算段でスケジュールを描いていた。そこには、安全性に対する思慮も、遺族に対する配慮の欠片もなかった。同税の引き上げによって、今後5年間の税収は373億円と見込まれ、直近5年間の実績よりも66億円増える計算をしている。
 これまでも、事故のたびごとに5%から7%、そして10%へと税率は増加してきたが、その度毎に、関電をはじめ事業者側の強い抵抗があった。しかし、事故を受けた今回はほとんど無抵抗の状況で引き上げが決められたといってよい。税率アップの「千載一遇のチャンス」とばかりに金に目のくらんだ県には「原発の安全性」も「遺族の心情」も目にはいるはずはなかったのである。

<破断配管の交換工事の刻印改ざん事件もうやむや>
 破断した配管の交換工事中の昨年11月、三菱重工業による交換配管の刻印改ざん問題が起きた。破断した配管の交換工事を請け負った三菱重工業が配管をつなぎ間違えてしまい、気付いた後に配管に刻印されていた固有の製品番号を削って正しい配管の番号に改ざんしていたのである。事件に対する関電側のコメントは「技術基準上は配管を当初の計画通りに取り付けているので問題はないと考えている」(「関西電力地域共生・広報室」福井:2005.11.10)という能天気なものであった。刻印は取り付けに当たって作業員が誤らないように、また、設計通りに取り付けているかどうかを第三者も後から確かめることができるためにある。固有の製造番号を削っていたということは、作業者・技術者としてはあるまじき行為・犯罪であり、日常的にそのような行為が行われていた(いる)ということであろう。刻印が改ざんされてしまっていては、設計どおりのものが取り付けられていたかどうかの確認はできない。品質管理=原子力プラントの安全性の根本を揺るがすものである。
 原子力安全・保安院は、「品質保証についての教材を作り、社員全員に浸透させる」との関電の再発防止策を12月7日に受け取って一件落着としてしまった(福井:2005.12.8)。しかも、関電のこの問題に対する対応策を受け取る前々日の12月5日に美浜3号機の「交換配管は技術基準に適合している」として運転停止命令を解除してしまったのであるから何をか言わんやである。「技術基準に適合している」かどうかは、改ざんせず、設計どおりのものが取り付けられていて始めて言えることである。原子炉の再稼動を急ぐあまり、ろくろく検査もせず取り付けたものであろう。関電も三菱重工も保安院も結局、事故からは何も学んではいない。

<進まぬどころか逆行する「高経年化対策」>
 事故を受け2004年12月に、経済産業省は「高経年化対策検討委員会」を設け、その後、核燃機構内に「高経年化調査研究会」を立ち上げたが、事故等にかかるデータベースの蓄積といったものに留まっており、根本的な高年化対策は打ち出せていない。それどころが、「国の定期検査を廃止し、電力会社の計画に基づく自主検査に変える」(2006.3.2)とか、現行13ヶ月ごとに行われている定期検査間隔の延長、「原発運転中の点検や補修をタービンなど一部について認める」稼働中検査の解禁などを観測記事として相次いで日経紙上に載せ(2006.3.6)、高年化対策に逆行する動きを強めている。
 結局、保安院は定期検査間隔の延長は断念したが、「従来は定検停止中に分解して調べているポンプなど機器の一部で、運転中の音や振動などを常時監視する方法で健全性が確認できるか、試験的にデータを収集する」として稼働中検査については諦めていない(福井:2006.5.17)。
 このような状況で起きたのが6月15日に発生した中電浜岡5号機と北陸電力志賀2号機の低圧タービン羽根破損事故である。浜岡5号は事故の起きた12段目のタービンの羽根840本中、実に662本が(脱落した1本を除く)、志賀2号は同840本中258本が破損していた(経産省・第4報:2006.8.3)。もし、1本の羽根がたまたま脱落せずに事故に気づかず浜岡5号を動かし続けていたらタービン全体が吹っ飛んでタービン建家を崩す大事故を起こす可能性もあった。経産省の発表によると、破損が目視で確認できたのは、浜岡5号で268本、志賀2号ではわずか5本にすぎない。残りは非破壊検査によってはじめて破損を確認できた。いかに運転を停止した状態での検査が重要かがわかろう。
 高経年化対策は、これまでの高圧ガス法・コンビナート規則・ボイラー規則対象施設の事故経験からも明らかなように、1次系ばかりか2次系も含め、主要配管を全てステンレス鋼化する・15年に1回は全面的に交換する・熱交換器など応力のかかりやすい部品は特に重点的にそっくり交換する、交換することが不可能な部材は検査の頻度を大幅に高める以外にはない。技術とはそのように1つ1つを積み上げる地味なものである。いくら「高経年化」を研究しても永久に使える機械や部材は出てきはしない。しかし、原発の場合、問題なのは放射能の存在である。上記のようなことを繰り返せば、その作業は驚くほど高価になり、また定期検査を含む停止期間も膨大にならざるを得ない。それでも採算が取れるのか、国も関電も三菱重工も、金に目のくらんだ福井県も事故の犠牲者を放っておいて、未だ結論を出そうとしない。

 【出典】 アサート No.345 2006年8月26日

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