【投稿】「自民圧勝」と地方分権の行方
<地方の評価>
「自民圧勝」に終わった衆議院選挙の結果は、地方分権の推進にどのような影響を及ぼすのであろうか。全国知事会の麻生渡会長(福岡県知事)は、「(三位一体改革が)やりやすくなった。追い風になる」「小泉内閣の改革の中身は、『官から民へ』と『国から地方へ』。第一の改革の象徴が郵政民営化であり、第二は三位一体を中心とする分権改革」「首相は党首討論などで、明確に地方分権、三位一体改革をやると言っており、われわれは首相と一緒に改革を具体的に実現しなければならない」と述べている(2005/9/12時事通信)。果たして本当にそうだろうか。
一方で、高知県の橋本大二郎知事は、「地方への風当たりは間違いなく強くなる」「三位一体改革などで地方への圧力となった官僚、財界と考えを同じくするもの。風の吹き返しで地方の厳しさは増す」と懸念を示している(2005/9/14時事通信)。
<小泉―財務省のホンネ>
財務省は、選挙結果に対して「かなりの事が進められそうだ」(官房幹部)と自身を深め、実際、財務事務次官は「選挙結果を受け止め、この一年の間に財政再建に向けた選択肢、工程を示していくことになるが、難しい課題に腹を据えてしっかり取り組んでいきたい」と述べている(2005/9/13時事通信)。ここに大蔵族たる小泉首相のホンネが見て取れるのではないだろうか。
そもそも三位一体改革とは何か。一言でいうならば、権限委譲に続き税財源の移譲を求める地方の側と、国庫補助金負担金や交付税の重荷をとり財政構造を見直したい財務省との妥協の産物であるといえる。いや、更に厳しい見方をするならば、財務省の積年の課題、念願の一つを地方分権に乗じて達成してしまおうとしているともいえる。
いずれにしても、今回の「自民圧勝」で国―財務省が勢いづき、決着が先送りされている義務教育国庫負担金や生活保護費の補助率引き下げ、そして公務員の総人件費削減、そして何よりも交付税の総額削減へと、一気に突き進もうとするであろう。基幹税の移譲などは、増税の議論にスリカエられ、またもや民間企業のサラリーマンと「役所」との対立が煽られることになるであろう。確かに、各省庁の「省益」は一定押さえ込まれるであろうが、地方の側にとっては、それは決して利益となる結果を生み出さないのではないだろうか。
小泉内閣は、厳しい地方財政の状況の中にあって、まるで唯一の解決の手段であるかのように市町村合併を進めてきた。その合併が成功だったかどうかは、「アメ」である財政措置の特例が切れる10年後、15年後に評価されるべきものであるが、今回の合併に「乗り遅れた」自治体には、いよいよ「ムチ」が待っている。三位一体改革もその文脈から読みとらなければならない。
<民主党再生と地方自治>
地方自治制度の枠組みが中央政府によって形作られる以上、地方分権の推進のためには、やはり地方の意を汲んだ政権の樹立が必要である。民主党は、前回の総選挙でマニフェストのトップに地方分権を掲げ、ネクスト地方主権大臣に長野県の田中康夫知事を据えるなど、スタンスを明確にしていた。今回の総選挙では、地方分権の政策順位はやや下がったとはいえ、北海道比例区の1位に改革派首長の一人、前ニセコ町長の逢坂誠二氏を据えるなど、マスコミ受けばかりを狙う自民党に対抗するかのように、「シブイ」感覚を見せていた。
確かに「負け」は「負け」である。しかしながら、得票総数の上では、小選挙区制度の結果生み出された程の大差がついているわけではない。「強い」と勘違いしていた都市部も含めて、今一度しっかりと足腰を据えて、地方組織の強化に努めるべきである。
とくに、地方議員の数に至っては共産党より少ない議会が多い中で、地方議会が地方分権を担う重要なアクターの一つであることを改めて認識し、より一層対策を強化すべきである。(選挙のためだけというわけではないが、「郵政造反組」の当選者を見ると、中央の圧力に屈しない強固な地方組織があったことも事実である。)
さらに、自治体改革にも、もっとコミットすべきである。むしろ改革派首長からは、守旧派と見られたり、既得権益にしがみついてるかのように捉えられることが多々あるのは嘆かわしい。中央では地方分権を掲げながら、実際の地方自治体では「追いついて」いない現状があるのである。
このことは自治労にもいえる。これから始まる公務員攻撃に対して如何に対抗できるのか。自らを厳しく律し、自治体改革のアクターとして、地方分権の担い手として、組織を確立しなければ、小泉の扇動にいとも簡単に負けてしまうであろう。公務労働の質の向上に果たす役割は大きいのである。
前原新代表が、地方自治や地方分権にどのような見識をもっているのか、今後に期待したいところである。これから迎える「冬の時代」の中で、足元をしっかりと固めながら、小泉自民党の総攻撃に耐え、自治体との統一戦線の砦を築きながら、次期決戦に備えなければならない。ましてや小泉のように、労働者の不満を対立にスリカエ、自らの支持に扇動していくことなど、あってはならないのである。
(大阪 江川 明)
【出典】 アサート No.334 2005年9月24日