【投稿】負けたのは民主党ではなく「タカ派」?「左傾化」する?小泉政権

【投稿】負けたのは民主党ではなく「タカ派」?「左傾化」する?小泉政権

 第44回総選挙は、自民党の歴史的大勝利、民主党の壊滅的大敗北に終わった。この結果は選挙中から予想されていたことであり、さらに参議院での郵政関連法案否決時点で、この結末は決定していたともいえる。
 小泉純一郎総理が差し出した踏み絵を踏まなかった候補者には、磔、火炙りに等しい地獄が待っていたわけである。そして296議席という圧倒的な議席数を背景に小泉独裁の恐怖政治が始まる・・・。
 以上が一般的な評価であるが、ここでは郵政選挙という視点を変えて論じてみたい。

<「片山さつき」の衝撃>
 まさに衆議院本会議で、郵政関連法案の投票が行われようとしていたとき、本会議場の後方、議員出入り口付近で、自民党の安倍晋三幹事長代理は城内実衆議院議員を説得していた。元警察庁長官の息子である城内は雑誌(「月刊現代」8月号)に「人権擁護法案反対」の論文を寄せるほどのタカ派若手のホープであり、安倍の子飼い中の子飼いである。その親分安倍の留意に対し城内は「安倍総理の誕生に全力を注ぐので、ここは自分の信念通りにさせて欲しい」と振り切り、反対票を投じた。
 この時点では城内は、まさか解散総選挙までは行かないだろうと思っていたに違いないが、不安に駆られた安倍は小泉に対し「郵政法案は解散、総選挙で問うべき問題ではない」「自民党内反対派への対抗馬擁立はすべきではない」と再三再四訴えていたという。
 小泉が安倍を重要視、すなわち総理後継候補と考えていたなら、他候補の手前城内に「刺客」をたてるにしても、本当の泡沫候補を送っていただろう。しかし小泉が白羽の矢を立てたのは、片山さつき元財務省開発機関課長というダークホースだった。片山は主計官として臨んだ今年度防衛予算査定の際、「この時代に潜水艦などいらない」(「中央公論」1月号「自衛隊にも構造改革が必要」)などと持論を展開、バサバサ軍事費を切りにかかった官僚である。
 このような防衛庁はもとより、自民党国防族からは蛇蝎のごとく嫌われていた片山を、城内に当てるとは常識では考えられない行動であった。このことは小泉が軍拡より軍縮、族議員より官僚を選んだ象徴的な行動ではないだろうか。
 さらにこれは、ポスト小泉と自惚れ、外交問題などで挑発的発言を繰り返す超タカ派の安倍に対する絶縁状、とも考えられる。また、小泉支持で当選しながら、最近は手の平を返したように小泉批判を繰り返している、舛添要一参議院議員に対する最大限の当てつけとして、離婚した元配偶者を擁立したとすれば、一石二鳥である。

<落選あいついだタカ派候補者>
 それはともかく、静岡7区は大激戦の末片山が勝利した。「片山の応援には行かない」と最大限の抵抗をしていた安倍は、自民党勝利のなかで笑顔を取り繕ってはいるものの、心中穏やかではないだろう。他にも多くの「同士」が消えていったからだ。
 城内が事務局長を務めていた人権擁護法案反対派の「真の人権擁護を考える懇談会」では会長の平沼赳夫と座長の古屋圭司が当選したものの郵政法案の対応で無所属となった。
 「拉致議連」の事務局長でもあった古屋は、安倍がかつて事務局長を務めた自民党の「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」会長。「つくる会」教科書の採択を目論む、同会幹事長の衛藤晟一は落選した。
 「教育基本法改正に関する検討委員会」の保利耕輔座長も無所属となり、影響力はなくなった。安倍が顧問を務め、反韓行動を推進してきた「国家基本政策協議会」会長の森岡正宏も郵政法案に反対し落選した。
また安倍が中心となり設立した「平和を願い、真の国益を考え、靖国参拝を支持する若手国会議員の会」は、会長の松下忠洋と事務局長の古川禎久氏が郵政法案に反対したため、公認を得られないまま立候補、古川氏は当選したが無所属になり、松下は落選した。
 さらに参議院議員でも郵政法案に反対した亀井郁夫、中曽根弘文らのタカ派の多くは小泉の軍門に降り、影響力を低下させている。 
 一方、小泉チルドレン、シスターズあるいは「喜び組」とまで揶揄されている、女性を中心とする新人議員はどだろうか。先の片山や元国連軍縮大使の猪口邦子はともかく、何を考えているか判らない人物が多いのは確かだ。しかし無派閥、小泉直系である限り安倍らにオルグされるとは思えない。このように自民党タカ派は大勝利のウラで惨憺たる状況になっている。

<日朝正常化が隠された狙い?>
 こうして見てくると、小泉は表では郵政法案に対する賛否を争点にしながら、実は自民党内のタカ派を追い出したかったのではないかと思えてくる。タカ派を尊重するなら郵政法案賛成のタカ派を「刺客」として擁立すれば問題はないからだ。女性でそんな人物はいくらでもいるのに、あえて片山らを擁立したのはそうした狙いがあったからではないか。そしてその大きな目的は日朝国交樹立だろう。言い換えれば、今回の総選挙で小泉は「郵政」「日朝」という表と裏の二兎を追い、まんまと一羽を仕留め、二羽目を虎視眈々と狙っている、ということである。
 小泉は「任期内の日朝国交正常化」を再三公言している。郵政民営化のように「殺されてもいい」(郵政問題で本当に殺されることはないが、日朝問題では判らないので)とは言わないが、粘着質の小泉は相当執念を持っている。それを妨害する安倍や同調する議員が邪魔だったことは想像に難くない。
 投票日直前の「週刊文春」は「ヒトラー小泉「独裁」を喜ぶのは池田大作と金正日だけ」という記事を掲載した。要は与党大勝で公明党の主張する人権擁護法案や、北朝鮮が望む国交正常化が実現するというのである。危機感を募らせるタカ派の主張そのものであるが、あながちはずれてないのではないか。さらに別の記事では飯島総理秘書官が、自民党候補者に拉致問題解決を求める集会に出席するなと圧力をかけたと報じている。また藪中三十二局長の拉致被害者「遺骨」に関わる「念書」が流出したのは、外務省の対北朝鮮強硬(反田中均)派に対する牽制だとも述べている。そう考えると、強硬派とつながる元外務官僚の城内に対する執拗な攻撃も理解できる。こうした事態をふまえてか、総選挙直後に再開された六カ国協議では、選挙前とは明らかに日朝間の雰囲気が違ってきている。

<タカ派の冠は民主党に贈呈?>
 総選挙では小泉は郵政法案反対の反改革派として民主党を叩いた。しかしこれまでの流れをみると、民主党攻撃もタカ派追い落としの一環だったのではないかと考えられる。民主党には松下政経塾出身者や旧自由党出身者を中心に、自民党以上の右翼政治家が多数存在し、党の対北朝鮮政策にも影響を及ぼしている。小泉はこうした議員も行きがけの駄賃で落選させたかったのではないだろうか。しかし民主党で落選したのはどちらかといえばハト派の議員が多く、西村慎吾や河村たかしなどの極右政治家は生き残った。
 これは誤算だっかかもしれないが、少数野党ではたいした影響力は持てない。逆に民主党がこれらを抱えたまま政権を獲得していたらもっと困った事態になったかもしれない。いずれにしても民主党は、マイノリティや労組の出身者が少ない衆議院ではタカ派的色彩を強めていくだろう。ある意味自民党と民主党が入れ変わったともいえるだろう。
 そこで今後小泉はどう動くのか。日朝交渉とともに注目されるのは靖国参拝である。選挙中日本経団連の奥田会長は、異例の自民党支持を表明、民主党王国といわれた愛知での自民党勝利に貢献したといわれている。ここでも表向きは構造改革推進を要請したわけであるが、ウラではかねてからの奥田の持論である靖国参拝中止を求めたことは、間違いないだろう。自民党の既存集票組織が没落する中で唯一影響力を拡大させたのが経団連、トヨタである。遺族会からの圧力が軽減した小泉がどう判断するか、である。さらに特別国会終了後の閣僚人事も注目しなければならない。
 以上考察してきた小泉政権の動きの中で、日朝国交正常化、さらには人権擁護法などが実現するとしても、それは副産物かもしれない。小泉が進めてきた「弱肉強食」の構造改革、日米同盟強化、イラク派兵などは継続されるであろう。しかし自・公政権が当面継続することが確定した以上、野党との連携を前提としつつも、与党内の力関係を巧みに利用しながら、半歩でも個別の民主的改革を前進させることが、民主勢力にできうる最大限の作業ではないだろうか。(大阪 O) 

 【出典】 アサート No.334 2005年9月24日

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