【書評】『アソシエーション革命へ──理論・構想・実践』
(田畑稔・大藪龍介・白川真澄・松田博編著、2003.3.25.発行、社会評論社、2,800円+税)
1年半以上も前に出版されたものの、本書についての書評はこれまでにお目にかかったことがなかった。しかし本書には、「アソシエーション」にかかわる社会変革の運動の将来的な方向への重要な諸点が詰め込まれている。そしてこれらは現在の運動の状況から見て、ますますその比重を高めている。本書を紹介する意義がここにあると考える。
さて本書は、「序」「第1部 アソシエーション革命の構想」「第2部 アソシエーションと経済システム」「第3部 アソシエーションの実践へ」から成る。その流れとしては、「アソシエーション革命」の議論のための理論的課題、論点を押さえた上で、現代社会システムとの関係を考察し、そして具体的な諸実践へというかたちを取っている。
「序 『アソシエーション革命』について」(田畑稔)は、本書および今後の議論のために、「アソシエーション革命」の前提となる諸事項、歴史的経過、問題意識、課題を鳥瞰的に概説する。筆者には『マルクスとアソシエーション』(1994年、新泉社)という著作があるので、アソシエーションの用語等についてはそちらも参考にしていただきたいが、ここでは、「アソシエーションの波」が歴史的諸文脈–①「近代主権国家」の再編成、②地域経済と協同労働による雇用創出、③「モラル・エコノミー」と「ステークホールダー・ビジネス倫理」、④国境を超えた世界市民的な意識と運動の台頭、⑤家族および近隣社会の危機への処方箋、⑥社会主義の再生、という諸文脈–で押し寄せていることが強調される。そして社会の4類型–(a)自生的共同体類型、(b)権力社会類型、(c)商品交換社会類型、(d)アソシエーション–の比較において前者3類型とアソシエーション過程との対抗関係が示される。すなわち(a)に対しては「閉鎖的共同体への対抗過程」として、(b)に対しては「権力過程への対抗過程」として、(c)に対しては「物件化(物象化)への対抗過程」として、アソシエーション過程が「自由な個人を前提に、市民的、世界市民的開放性の地盤で共同性を再構築する営み」とされる。しかし同時にこれとは正反対の方向の運動(「脱アソシエーション過程」)が絶えず存在していることも看過されるべきではないとされ、現存システムとの関係として、「中間集団」、「ヘゲモニー」、「市民社会」の問題が論じられる。
「第1部」では、「国家とアソシエーション」(捧堅二)で、近代国家の機能拡大とそれが抱える矛盾の拡大という歴史的経緯の考察やアンソニー・ギデンズ等の理論とイギリスの政治状況の検討から、その「ラディカルな分権化」による「多元的民主主義」が探られる。そしてこれとの関連で、ポール・ハーストの「結社型民主主義」の詳細な内容紹介がなされる(「P.ハーストの『アソシエーティブ・デモクラシー論』」形野清貴)。また「過渡的時代とアソシエーション」(大藪龍介)は、20世紀社会主義の破綻の教訓から、マルクスの過渡的社会・国家構想(「協同組合型志向社会と地域自治体国家の接合」)の検討を通じて、アソシエーションの革命路線について提唱する。それによれば、社会革命中心、対抗する異質の権力体系の攻防・競合としての革命過程、高次民主主義革命がその特徴とされる。
「第2部」では経済システムとの関係が論じられる。「協同組合と社会経済システム」(河野直践)は、資源・環境問題への対応において協同組合の機能発揮がとりわけ有効であることを強調し、「私的セクター」を中心とする資本主義経済と、「公的セクター」に重点を置いた社会主義経済に対して、「非営利・協同セクター」の拡大による新しい経済体制を提唱する。「現代資本主義におけるアソシエーション的調整」(宇仁宏幸)では、市場的調整と比較してのアソシエーション的調整の特徴を明らかにしつつ、現代資本主義ではこれらに加えて「国家的調整」という三種の調整が複合的に展開していることが指摘される。そして公共的サービスの問題解決にとっては「国家的調整」のアソシエーション的補完が、また公共投資や経済規制の問題解決にとっては「市場調整の国家的補完の内実」をアソシエーション的補完に変えるような試みが有効であることが示される。
「第3部」は実践編で、「イタリアにおけるアソシエーションの歴史的背景と可能性」(松田博)では、現実の運動としての代表的なアソシエーションとして、「人民の家」がルポルタージュを含めて紹介される。また「生涯学習時代のNPO–市民社会の再生のために」(黒沢惟昭)では、NPOなどの活動を通じての「市民社会的論的」アソシエーションの形成が説かれるが、その際に市民(団体)・アソシエーションと行政側との協働(コ・プロダクト)の機能の意義が強調される。
「フェミニズム・家族・協同組合」(榊原裕美)は、フェミニズムの視点から、歴史的に女性を従属的地位に押し下げた家父長制の特質が、戦後家族(核家族)においても貫かれてきたこと、このことはこれまで主婦が中心であった生活協同組合運動においても例外ではなく、性別役割分業については問われることなく置かれてきたと指摘する。これに対して80年代から始まった新しい働き方であるワーカーズ・コレクティブ(労働者生産組合、略称ワーコレ)が注目される。それは雇用–被雇用という関係ではなく、一人一人が出資して平等な経営者として事業を行う主体的な働き方であり、現在の資本主義的な流通の仕組みに対抗できる可能性を持つ。ワーコレについては今のところ必ずしもプラスの評価ばかりでなく、矮小化される危険もあるが、しかし新たなアソシエーションとしての可能性が検討される。そして最後の「現代の社会運動と新しい政治」(白川真澄)では、「新しい社会運動」に焦点を合わせて、その特質–多様性と「非政治性」–を検討し、その「シングル・イッシュー」的な運動が「制度化」によって矛盾を含むものとなることを指摘する。その上で「制度が引いた境界線を内と外から同時に越える運動」の創造と、「持続する抵抗闘争と対抗社会形成と制度的変革の三つの要素」が不可欠であると主張する。
以上本書を概観してきたが、「アソシエーション革命」の流れは多様化、多方面にわたっており、本書だけで到底そのすべてを網羅できるものではない。また現実の社会的諸条件の変化に応じて、さまざまな新しいアソシエーションの可能性が展望されるであろう。本書はこの将来を見据えての基本的視座を確認できる一歩としてある。遅ればせながら紹介する次第である。(R)
【出典】 アサート No.325 2004年12月18日