【投稿】中国脅威論の台頭 -「友好国」から「仮想敵国」へ

【投稿】中国脅威論の台頭 -「友好国」から「仮想敵国」へ

<高まる反日、反中感情>
 今夏、中国で開かれたサッカーアジア杯で大規模な反日騒擾が勃発。「小日本」を叫び日の丸を燃やす中国人サポーターの姿は、中国における反日感情の高まりを見せつけた。
 これ以前にも昨年9月には、中国珠海市で日本人観光客による集団買春が発覚。さらに翌月、西安市の西北大学文化祭で、日本人留学生らがわいせつな寸劇を行ったとして、同大学の中国人学生による弾劾デモが発生している。
 中国の社会科学院日本研究所が11月発表した、国民の対日意識調査結果でも、「日本に親しみを感じる」がわずか6%なのに対し、「感じない」が54%と2年前に比べて約10ポイントも上昇、対日感情が悪化していることが明らかになった。
 一方日本では、中国海軍の原子力潜水艦が石垣島近海で領海を侵犯。また排他的経済水域での海洋調査、東シナ海でのガス田開発などが継続されている。さらにこの間、福岡での一家殺害など来日中国人による凶悪事件も続発、02年におこなわれた日本世論調査会の調査でも、中国に「親しみを感じない」との回答が43%に上っており、現時点では日本人の対中感情も悪化の一途をたどっている。

<反日感情の深淵>
 こうした状況のなか、APEC、ASEAN首脳会議の場を利用し、小泉首相と胡錦濤国家主席、温家宝首相が相次いで会談、関係修復、事態打開を試みたが、お互いの主張を繰り返したのみで芳しい成果はなかった。このなかで中国側は繰り返し小泉首相の靖国神社参拝中止を要求。これに対し小泉首相は「靖国参拝は戦没者慰霊のため」と強弁、今後も参拝を続けるかについては明言しなかった。
 先述した中国の調査では靖国神社参拝について、「どのような状況でも認められない」が42%、「侵略を謝罪すれば可能」が19%、「戦犯を分祀すれば可能」が17%であった。
 また同調査では「親しみを感じない」理由として、「中国を侵略した」が26%、「侵略の歴史を反省していない」が62%で、合わせて9割近くを占めた。すなわち中国では侵略無反省の象徴として靖国参拝が見られているわけで、この問題を回避し続けるなかでは、日中首脳の相互訪問再開も不可能なことが明確になった。
 日本政府は反日感情の原因について、1990年代に進められた江沢民政権時代の抗日闘争を強調する「愛国教育」と、国内の経済格差に対する民衆の不満の矛先を逸らすためと分析している。中国共産党が反日感情を利用していることは一面事実であるが、総体的にはあまりに皮相的な解釈である。

<偽りの友好とその崩壊>
 そもそも1972年の日中国交回復、78年の日中友好条約締結は、東西冷戦、中ソ対立という状況下で行われた、自民党政府と北京指導部との政治的野合の側面が強い。「反覇権」の名のもと日本としては東アジアにおけるソ連包囲網に中国を組み込み、市場化を進める。中国も反ソである限りにおいて日米安保を黙認し、日本からの経済援助を獲得する、という利害の一致が合った。この流れのなかで日中友好が演出され、日本の本質的な戦争責任総括と中国民衆の反日感情は封印、三木首相以降の歴代総理の参拝や1978年のA級戦犯合祀も見過ごされてきた。
 しかし、1985年のゴルバチョフ政権発足による冷戦構造変革が流れを変えた。中国政府は同年8月15日に行われた、当時の中曽根首相による公式参拝に対し強く抗議、翌年の公式参拝は見送られ、1996年の橋本首相までの間、参拝は途絶える。
 その間に冷戦構造、そしてソ連までが崩壊し日中野合の政治的目的は消滅し、封印は解かれ始めた。そうして噴出したのが「愛国教育」なのである。経済的にも中国の成長は著しい。先の首相会談では、温家宝首相が日本のODA打ち切り論を批判し、「ODAを中止すれば両国関係は”雪上加霜”(泣きっ面にハチ)となる」と述べたものの、一方的に円借款、政府開発援助を施される立場ではなくなっている。これらが「経熱政冷」と言われる状況の本質である。

<「仮想敵国」にシフト>
打開の糸口が見つからないまま、小泉政権は「日中関係は重要」といいつつ、両国関係悪化を口実として、一層の軍備拡充を進めようとしている。12月10日、新たな「防衛計画の大綱」、「次期中期防衛力整備計画」が閣議決定された。新大綱では「中国は、核・ミサイル戦力や海・空軍力の近代化を推進、海洋における活動範囲の拡大などを図っており動向には注目していく必要がある」として、北朝鮮と共に仮想敵国視していることをあからさまに示した。
 これら軍拡計画では、とりわけ弾道ミサイル対策を重視、アメリカと共同での弾道ミサイル防衛(MD)を推進、イージス艦やパトリオット・ミサイルのグレードアップを行うと、
している。さらに当初は敵国内の基地や「占領された離島」を攻撃できる「長射程誘導弾」=巡航ミサイル、弾道ミサイルの開発も計画に盛り込まれようとしていた。
 これまでミサイル防衛については「ノドン」や「テポドン」といった北朝鮮の弾道ミサイルが対象と説明されてきた。しかし存在するかどうか不確実な北の核ミサイルを口実に、オーバースペックのMD計画を進めるのはあまりに非合理であった。そして今日にいたり、その範囲が拡大され中国も含まれたことが明らかにされたのである。

<東アジア安定のために>
 小泉政権は日本人の対中感情の悪化を利用して、軍拡を一気に進めようとしている。これではとても「中国政府は反日感情を利用している」と批判できたものではない。両国関係の「政冷」は冷戦を意味するものになり、熱くなるとしても「経熱」とは違った意味合いになる危険性が増大してくるだろう。
 過去を封印してきた責任は両国政府にあるが、まずは侵略国であった日本がけじめを付けなければならない。そのため靖国参拝の中止にとどまらず、新たな戦没者慰霊施設の具体化を進めなければならない。こうした「しきり直し」抜きには、真の友好関係構築はもとより、6カ国協議や、来年からの東アジア首脳会議での日中協調は不可能だろう。
(大阪 O)

 【出典】 アサート No.325 2004年12月18日

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