【投稿】小泉政権の「言葉の軽さ」と背後で進む危険な動向

【投稿】小泉政権の「言葉の軽さ」と背後で進む危険な動向

<<「ブッシュでないと困る」>>
 11月2日の米大統領選を目前にして、小泉首相も気が気ではなくなってきたのであろう。10/14、記者団から「第3回テレビ討論があり、各社の世論調査でケリー氏勝利という結果が出たが、盟友であるブッシュ大統領にどういった言葉をかけたいですか。」と問われて、首相は、「世論調査と選挙の結果が違うことはよくある。結果を見ないとわからないですね。他国の選挙には干渉したくないけど、ブッシュ大統領とは親しいから、頑張っていただきたいね。」と思わず本音を漏らした。民主党から「特定の人を応援しているという表現は、民主主義の観点からも外交的観点からもおかしい」と批判されると、細田官房長官はあわてて、「親しい関係にあるブッシュさんに『頑張りなさい』という意味でエールを送ったんだと思う。そのような(選挙応援の)趣旨で言われたと解することは誤解だ」と釈明の記者会見。
 ところがさらに、10/15、首相に忠勤を売りにして自民党幹事長になった武部幹事長が「ブッシュ大統領でないと困ると思う。ケリーさんなんか北朝鮮問題を(米朝の)2カ国(間協議)でやろうと。とんでもない話ですよ」などと言ってのけた。今度は政府・与党内からも疑問の声が上がったが、「政党政治家としての意見を述べたもの」と居直る始末。農水相時代、狂牛病対策に際して、「感染源の解明は大きな問題なのか」と失言し、「感染牛はまだまだ出るので驚かないでください」といった暴言にまで及んで、ついに農水相失格となった人物だけに、自らの発言の政治的意味が理解できないのであろう。

<<「勉強をサボったりしないように」>>
 続いて、10/16、沖縄を訪れた町村外相が、米軍ヘリが沖縄国際大学本館に衝突、墜落炎上した事故現場を視察して、「(米軍の)操縦士の操縦がうまかったこともあって、ヘリ事故で重大な被害が出なかった」などと、事故直後の在日米軍発表をそのまま受け売りした発言で、沖縄県民の反発を招き、あの発言は「不適切だったかもしれない」と釈明に追い込まれ、これまたその政治的資質が問われている。この人物、沖縄国際大学の職員に対して、「事故当時は夏休みで、学生はほとんどいなかったんでしょう」「ヘリは爆発したんですか」と、質問するなど、そもそもヘリ事故の基礎的事実や、放射能漏れという重大な事実についてはまったく把握もしていなかったのである。その上、自らの不勉強を棚に上げて、「事故を機に学生が勉強をサボったりしないように」などと発言する無神経さである。
 問題はこの外相の沖縄視察の前の10/12に、政府は首相官邸で米軍ヘリ沖国大墜落事故に関する第3回関係閣僚会合を開き、米側から要請があれば、事故機と同型のCH53Dヘリの飛行再開の容認を確認し、日米が設置した事故分科会で結論が出ていないなかであるにもかかわらず、翌10/13には米軍はすぐさま住宅地上空での飛行を再開し、政府はこれをを容認したことである。当然、沖縄県側は「納得できない。政府に対し説明を求める必要がある」(比嘉茂政沖縄県副知事)、「県は事故原因の究明と公表、実効ある再発防止策が示されるまでは飛行停止を求めている。米側から報告書が示されただけで、県としては、現在も事故原因の究明が行われている過程の段階との認識だ。再発防止策を日米間で確認した上で県民に説明が必要だ。それがまだ説明されていない」(府本禮司知事公室長)と、不満を表明し、飛行停止を求めている県の方針に変わりがないことを強調している。
 町村外相はこうした県民の要請を無視して、「被害を最小限に食い止めるため、乗員3人が行ったことは大変すばらしい功績だった」という在日米軍司令官の発言をそのまま後追いしただけであった。

<<「司令塔」の座間移転問題>>
 小泉首相にしろ、武部幹事長にしろ、町村外相にしろ、いずれもブッシュ政権に忠実なあまり、政治や外交のイロハも見失ったといえよう。しかしその生来の「言葉の軽さ」の背後で進行しつつある、これまでとは質的に異なった重大で危険な動向を見逃してはならないだろう。
 それは、米陸軍第一軍団司令部の座間移転問題である。現在、米本土・ワシントン州にある米陸軍第1軍団司令部を、日本の座間基地(神奈川)に移転し、中東や中央アジアで展開する統合部隊の「司令塔」にしようとする米軍再編案である。
 小泉首相は10/13の衆院代表質問で、鳩山由紀夫氏(民主)の「米陸軍第一軍団司令部の座間移転は、日米安保条約第5条の極東条項に抵触し、安保条約の性格にかかわる重要な問題」という質問に、「在日米軍の兵力構成見直しは、日米安保条約の枠内で行われるべきで、憲法との関係でも問題が生じるものではない」と答弁した。首相は、在日米軍の再編は、日米安保条約の「極東条項」の枠内で行うと語る。
 ところが、9/20の日米局長級協議で日本側は、陸軍第1軍団司令部のキャンプ座間への移転案については、極東条項との整合性や地元の反発などを理由に「政治的に受け入れは困難」と米側に伝えていたものである。この「極東条項」、日米安全保障条約第6条で、米軍が日本国内に駐留し、基地を利用できる理由として「日本国の安全への寄与」に加えて、「極東における国際の平和及び安全の維持に寄与」を挙げており、この「極東」の範囲について、政府は60年2月の統一見解で「フィリピン以北並びに日本及びその周辺の地域であって、韓国及び台湾の支配下にある地域もこれに含まれる」と示してきたところである。今回の米軍再編案は、この「極東」の範囲をはるかに超えるものである。司令部を受け入れれば在日米軍の活動領域を極東に限った安保条約との整合性が問われる。そればかりか、これまでとは質的に異なった米軍の世界戦略への日本の加担という新たな問題が浮上してくる。安保条約どころか、憲法そのものに抵触する問題である。

<<「整合性にはとらわれず」>>
 すでに米側は座間に司令部を移転させることで、800名の将兵が移転(増加)するという具体案を日本政府に示している。このままでは極東条項を無視することとなり、条約違反から、憲法違反にまで発展しかねない。そこで出てきたのが拡大解釈案である。10/12、外務省首脳とアーミテージ米国務副長官らとの会談で、両者は米軍再編の協議を加速させることで一致、日本側は、日米安保体制の意義について「日本や極東の平和と安全」に加えて、「テロや中東の安定、大量破壊兵器の拡散などグローバルな脅威への対応」という言葉を付け加えることを表明したのである。
 これを受けたのであろう。10/16、町村外相は訪問中の沖縄県那覇市での記者会見で、「頭からまず安保条約、極東条項ありきということでやると狭い議論になってしまう」として、在日米軍の活動領域を「極東」に限定した日米安保条約の「極東条項」との整合性にはとらわれず、テロや大量破壊兵器拡散など「新しい脅威が伝統的な脅威に付け加わってきた」と指摘、米軍や自衛隊の使命、役割をより幅広い観点から捉えなおす必要があるとして、その観点から米政府との協議には柔軟に臨むことを明らかにした。
 首相は「安保条約の枠内で」と言い、外相は「安保条約の枠内にとらわれず」と言う。ゴールは同一の二人三脚である。しかしいくらつじつまあわせや拡大解釈をやってみても、安保条約や憲法との整合性は確保しがたい。
 だからこそ、アーミテージ米国務副長官らが「憲法九条は日米同盟関係の妨げの一つ」と発言したのであろう。憲法改訂が日米共通の急務となってきた所以でもあろう。

<<常設の「憲法委員会」>>
 これに呼応するかのように、10/14の参院代表質問で、自民党の片山参院幹事長は、「憲法第九条を見直し、とくに自衛隊の位置づけや国際貢献の明確化、さらには集団的自衛権の行使が可能となるようにすべきだ」と政府に迫った。たとえ自民党といえども、代表質問という場で、集団的自衛権の行使を可能とするために憲法を改正せよと迫ったのは今回が初めてである。これに答えて、小泉首相は「憲法九条などさまざまな議論がある。憲法が実態にそぐわなければ、改正の議論を避けるべきではない」と応じた。
 そして同じ10/14、自民党の保岡興治議員は、衆院憲法調査会で、「憲法調査会が終わったあと、両院にしっかりした常設の憲法を論ずる機関をただちに継続して起こすことが必要ではないか」とのべ、来年の報告書提出後に議案提出権をもった常設機関として「憲法委員会」を設置することを提案し、この憲法委員会については民主党議員と認識が一致していることを強調した。この「憲法委員会」は、国会の改憲発議(憲法九六条)にむけて改憲案の審議と発議提案をおこなう場と位置付けられているものである。
 この憲法委員会については、民主党の枝野幸男前政調会長がポスト憲法調査会として「恒常的な常設の機関が必要だ」(「読売」9/14付)と発言し、保岡氏が「憲法委員会を作る国会法改正案が来年の通常国会で成立することが望ましい」と応じている(同9/18付)。自民党の民主党取り込み作戦が功を奏しているともいえよう。この点では、公明党の赤松正雄氏は「常設委員会については慎重でなければならない」と述べているが、その慎重姿勢も現在の公明党指導部ではいつ豹変してもおかしくはない事態である。
 改憲勢力は、世論の動向や内外の情勢の変動に不安を抱きつつも、その危険な歩みをまた一歩進めたといえよう。
(生駒 敬)

 【出典】 アサート No.323 2004年10月23日

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