【投稿】政権交代と地方分権改革
<三位一体改革の「結末」>
昨年来、突如とした「地方共同税」の提案、地方の側の反発、地方分権改革推進会議の「分裂」など、迷走に迷走を重ねた、税源移譲・地方交付税・国庫補助負担金のいわゆる三位一体の改革は、2004年度政府予算案において、ようやく一定の「芽出し」が行われた。
所得譲与税の創設や税源移譲予定交付金など税源移譲に踏み込んだことなど、一定の前進をみたところではある。しかし、その前提となる国庫補助負担金の一般財源化も、義務教育費国庫負担金や公立保育所運営費負担金など、即座に柔軟な施策実現に使えるような類のものではなく、いわば自由度の低い税源移譲となっている。
また、地方の歳出見直しを前提とした地方交付税総額の削減も、税収の減少などによる厳しい財政状況にある地方自治体にとっては、傷に塩を塗る事態となっている。
2006年度までの4兆円改革の端緒としては、あまりにひどい内容であり、地方の側には反発と落胆が広がっている。
この「結果」を見るにつけ、昨年の総選挙で民主党を中心とした政権交代が実現しなければならなかった、という感を改めて強くしている。
<分権のスタンスの違い>
我が国の地方分権が「中央集権体制の制度疲労」や「行政改革の一環」というあくまで国の都合、中央政府の論理によって進められてきた経過、そして何よりも、地方自治制度の骨格を形作るのは、あくまでも中央政府であり、中央国会であるという、国家体制の現実を考え併せるならば、地方の側からの改革努力のみによる地方分権には自ずと限界がある。
一方、省庁の権益と地方への利益誘導を基盤としている自民党政権では、住民による自治、地域の自立、その結果としての地域活性化、地域からの再生による国家の再生はなし得ない。
民主党のマニフェストを改めて読み直してみる。国の補助金18兆円を廃止し、そのうち、5.5兆円分を所得税から地方住民税に移譲し、12兆円を一括交付金とする。そして、その案を軸に全国の改革派知事・市町村長とも協力して、税源移譲を進めるとしている。
「5つの約束」のトップに「ひも付き補助金」の全廃と地方への財源移譲を謳っていること、ややパフォーマンスめいた点もあったが投票日直前に田中康夫長野県知事をネクスト地方分権担当大臣に据えたことなど、民主党の地方分権への「本気度」は本物であると言える。とくに、今回の三位一体改革の「結末」をみるならば、自民党政権との違いは明白である。
こうしてみると、地方分権改革の実現のためには、今夏の参議院選挙、そして「小泉後」を想定しての総選挙において、民主党を基軸とした政権交代、中央国家体制の転換がやはり必要なのである。
<地方自治体と民主党>
政権交代は、地方分権のための一つのステップであり、ある意味「手段」であるといってもよい。実際に改革を担い、住民サービスの向上を進めるのは、あくまでも地方自治体である。いくら民主党中心の政権が成立し、三位一体改革を実行したところで、地方の側が旧態依然とした利益誘導政治を続けていけば、移譲された権限、税財源をもって、地方版のミニ田中、ミニ竹下ができるだけである。
現在、改革派といわれている知事・市町村長の手によって、行政の透明性、住民参加、住民との協働などを基軸とした様々な自治体改革が実行され、成果を挙げているとともに、絶大な住民の支持を得ている。そのほとんどが、既成政党の支援は受けずに、「無党派」を標榜して選挙戦を勝ち抜いてきているのである。
民主党は、概して、地方議会等の議席数などをみれば、国政レベルでの強さに比して、地方自治体での基盤が強いと言えるような状況ではない。一方で、首長選挙などにおいては、改革派にコミットしている場合もあれば、逆に自民党との相乗りも目立ち、守旧派・既成政党として扱われている場合もある。いわば、地域における基盤は脆弱であり、まだまだ足腰は弱いのである。
今後、改革の担い手としての地方自治体の存在意義が益々高まっていくことになるであろう。民主党がそこでどういう役割を果たしていくのかが、改革の実現のためにも、政権交代のためにも問われてくることになる。
<政党の課題>
昨年の総選挙は、民主党の躍進といっても、実態としては、社民党や共産党の議席数を「喰った」だけではないのか、そういった労働者の利益を代表する政党が消滅の危機にさらされ、二大政党に収斂していくのは本当にいいのか、という意見もある。
私も、民主党がいくら議席増を果たしたとはいえ、与党は絶対安定多数を得ており、「勝利」とはとても言えない実態であり、小政党が消えゆくことに危機感を感じている。
しかしながら、分権を基軸とした政権交代を実現させるためには、現実的な可能性として民主党を中心とした勢力と与党勢力との選択にならざるを得ず、中央国会における小政党の相対的な位置が低くならざるを得ない。
むしろ、分権改革が実現し、住民に密着した施策実現の担い手が地方自治体となった場合、政策議論の舞台、「階級利益」のぶつかり合いは、必然的に地方議会に移されることとなる。社民党や共産党はまだまだ地方議会には基盤があり(特に共産党は政党としては地方議員数が最も多い)、その存在意義が失われることはなく、地域に密着した政治勢力として存在意義を見いだしていくべきではないだろうか。むしろ、民主党にこそ、地方における基盤強化が問われているのである。
「市民派」議員も増え、改革のネットワークも広がっている。政党も含め、首長、議員が住民の目の前でどのような態度をとるのかが問われている。中央政府における政権交代を見据えながら、いかに地方に改革の裾野を広げていけるのか。民主党の課題はまだまだ多い。
(大阪 江川 明)
【出典】 アサート No.316 2004年3月20日