【投稿】なぜ、大企業の事故は続発するのか?

【投稿】なぜ、大企業の事故は続発するのか?
                    福井 杉本達也

 昨年は大企業などの大事故が相次いだ。2003年8月のエクソンモービル名古屋油槽所の石油タンク火災、三重県のゴミ固形燃料(RDF)発電所の燃料貯蔵タンク爆発、9月の新日鐵名古屋製鉄所の水素ガスタンク爆発、ブリジストン栃木工場の火災、出光興産北海道精油所の原油タンク火災、11月のイオン大和ショッピングセンターの生ゴミ処理室爆発,12月のJFE岡山製鉄所の爆発など枚挙にいとまがない。出光北海道精油所火災では泡消化剤も消防車も足りず、ついには全国から消防車をかき集め、泡消化剤を積んだ自衛隊機が出動するまでとなり、さらには、わずか2基のタンク火災で全国の泡消化剤約1年分の生産量:1,600キロリットルを消費してしまい、米国、韓国、中国や在日米軍からも緊急輸入するはめとなった。

 2003年10月7日付けの朝日新聞社説は連続する事故に対し「日本製品の品質を支えてきたのは、しっかりした管理体制だったが、その根元が腐り出しているような不安を感じる」とし、企業のコスト減らしを事故の原因とし、①安全投資の削減、②外注・下請けまかせ、③現場情報が経営陣に上がっていないことなどを例示している。また、9月30日付けの日経新聞社説も原因を「バブル期以降、急速に進んだコスト削減」にあるとし、①プラントの老朽化、②現場の人手不足・経験不足、③安全管理面での慢心などをあげている。

 経済産業省は「産業事故調査結果の中間取りまとめ」を、さる12月16日に発表した。調査数100件のうち、人的要因が76件と事故の発生要因の多数を占め、誤操作・誤判断・マニュアルの不備などによるとしている。人的要因の内訳としては、マニュアルの不遵守が66件を占めている。さらに、人的要因の分析において、「製造現場においてはこの10年間で生産労働者の人的構成が大きく変化しており、保安技能の伝承や保安教育が問題となっている。」としている。また、協力会社を含めた保安体制では、ヒアリング対象事故100件中、自社従業員の死者48人に対し、協力会社社員50人とほぼ同数となっており、「協力会社等を含めた業務の確認体制や保安体制の構築・強化が必要である。」と指摘している。また、調査は設備的要因についても分析を行い、「製造業全体の設備の平均年齢は1991年の約9.3年から2002年には約12.0年と上昇し、米国に比較しても高い状況にある。」こと、「事故が発生した設備の設置年からの経過年数の平均は約22.2年であり…高齢の設備であること」から「設備ごとの状態に応じた劣化診断等を適切かつ確実に行っていくことが重要である。」としている。

 事故は人的要因によることが多く、マニュアルを遵守しなかったり、現場の経験不足のため判断ミスをした場合に発生することが多い。しかも、合理化による人手不足の中、下請けまかせとなり、事故情報の共有化ができず、新たな設備投資も出来ず設備が高齢化している。コスト削減の嵐の中、安全管理は個々の企業まかせとなり、したがって、トップは安全意識を高めようという精神論が幅を利かせることとなる。

 しかし、こうした事象の裏にさらに根本的な問題が潜んでいる。まず、どの事故も事故の極限状況を想定していないことにある。出光精油所の原油タンク火災も、タンク浮き屋根と側壁接合部のリング火災しか想定せず、タンクの全面火災対策を一切とってこなかったこと、特に消防庁は大規模火災を想定せず、消化剤の量を2倍放出できる米製消化剤放出装置を許可すらしてこなかったことが災害をさらに重大なものにしている。まして、タンク崩壊などは夢想だにしなかったことである。1999年9月の東海村JCO事故について、技術評論家の桜井淳氏は「定められた手順なら安全だというのではいけない…多重事故と人為ミスをともに想定し、なおかつ確立の低い事故も想定しなければならない。…経済性を考えて安全面の『スソ切り』をするような20世紀型安全規制では…安全性を考えるレベルが高くなった時代には対応できなくなった」(『サイアス』1999年12月号)と述べている。今回の事故の連鎖を考えるならば、日本の企業のトップ・技術者も原子力安全・保安院も「20世紀型安全規制」の枠内をいまだに徘徊しているといえる。

 次に、「規制緩和」と称して、安全の根幹である行政・第三者による保安検査をやめ自主検査と称する実質無検査体制へ改悪していたことである。原子力安全・保安院は昨年12月11日付けで協和油化の高圧ガス法に基づく認定保安検査実施者としての認定を取り消した。処分の理由は「保安検査(耐圧試験(開放検査)、肉厚測定、安全弁の作動試験及び圧力計の検査)の一部を実施しなかった。特に、全ての配管の肉厚測定については検査台帳上に記載されず、検査対象から脱落していた。これにもかかわらず、検査が適正に実施されていたとする虚偽の内容の検査記録を千葉県知事に届け出ており」ということである。ようするに、検査らしい検査はなにもしていないのである。これは、協和油化だけの問題ではない。日本ゼオン、東ソー、新日本石油精製、三井化学等々(東洋経済2003年12月6日「続発する製造業の不祥事」)7年前の保安検査の規制緩和以降石油化学業界の“常識”となっていたのである。事故の再発を防ぐには原子力安全・保安院は早急に現在の保安検査のやり方を再検討すべきである。

 さらに気がかりなことは、企業全体に法律順守意識があまりにも希薄なことである。先にトヨタ自動車において小型自動車整備士技能検定試験問題の漏洩が明らかとなったが(日経2003年12月13日)、一昨年の東電の事故隠しをはじめ、雪印食品等々、数多くの企業に法令順守の片鱗も見られないことが明らかになっている。法律は経済性を考慮したその時点での最低限の規制である。最低の規制すら守らない企業に安全性を確保出来るはずはない。そして、この法令順守意識の希薄さをさらに行政・学者が後押ししている。昨年11月14日に福井県の「もんじゅ安全性調査検討専門委員会」(委員長:児嶋眞平福井大学長)は高速増殖炉もんじゅについて「工学的には十分安全」だとし、「放射性物質により周辺に深刻な影響を与える可能性は無視できるほど少ない」と結論づけている(福井新聞2003年11月15日)。昨年1月の名古屋高裁金沢支部の控訴審判決が指摘した『炉心崩壊事故の可能性』についても「検討の結果起こらないと判断した」と切り捨てている(日経2003年11月11日)。調査委の報告書では、18年もの長きにわたり、国・推進側学者・原告・反対側学者が法廷の場において証拠・証人を出し合い闘わされた議論と判決を真摯に検討した様子は見られない。控訴審判決は「高速増殖炉に大きなリスクがあるととらえ、高度の注意義務を必要とする『予防原則』の視点」(吉岡斉九州大教授判決コメント・福井新聞2003年1月28日)から画期的な判決を組み立てたが、報告書はいまだ「20世紀型思考」に停止している。EUでは「持続可能な発展」への関心の高まりから、2007年にはCSR(Corporate Social responsibility:企業の社会的責任=企業経営に法律順守や人権といった社会的公正や環境への配慮を取り込むこと)をISOで国際標準にする動きが急ピッチで進んでいるが(日経2003年10月19日・2004年1月14日)、日本はまだあまりにも遠いところに位置している。

 【出典】 アサート No.314 2004年1月24日

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