【投稿】「ミサイル防衛」と武器輸出三原則問題
<<「初詣では日本の伝統」>>
年明け早々、小泉純一郎という人物は、相当にたちの悪い政治家であることをまたもや内外にさらけ出してしまった。正月早々、よりによって元日を選んで、小泉首相が突然、これみよがしにはおり袴姿で靖国神社を参拝し、いかにもしたり顔で「初詣でという言葉があるでしょ。日本の伝統じゃないですかね」、「初詣では日本の伝統で、多くの方が神社にお参りしている」、「どこの国でも、その国の習慣を尊重することに異論はないと思う。(私は)毎年参拝している。だんだん理解いただけると思う」などと平然と言い放ったのである。
3年前の01年4月 自民党総裁選の討論会で「総理大臣に就任したら8月15日にいかなる批判があろうと必ず(靖国神社を)参拝する」と“公約”し、首相に就任するや「総理大臣として参拝したい」「よそから批判されてなぜ中止しなくてはならないのか」と居丈高に答弁(01/5/14衆院予算委員会)、実際には隙をかいくぐるように8月13日に靖国神社に参拝、これが1回目であった。翌年はこれまた隙をうかがうように4月21日に突如2回目の参拝、この時は「終戦記念日やその前後の参拝にこだわり、再び内外に不安や警戒を抱かせることはわたしの意に反するところだ」と弁明。3回目の参拝は、昨年の1月14日、この時は「平和のありがたさをかみしめて、二度と戦争を起こしてはいけないという気持ちで参拝したい」と言いながら、「死者に生前の罪まで着せて、死んでもなお許さないという気持ちは、あまりなじまないのではないか」と開き直った。
そして今回の四回目である。よほど唐突な抜き打ち参拝がお好きな方ではあるが、今回には特別な意味とねらいが込められていると言えよう。目前に迫った自衛隊のイラク派兵を何にも増して意識し、国会で「(派兵の結果)殺すことも、殺されることもあるかもしれない」と平然と言ってのけた小泉首相である。戦死して「靖国の英霊」になることが最大の美徳とされ、侵略戦争推進の精神的な柱となってきた靖国神社、そして戦後はA級戦犯として処刑された東条英機元首相らを「昭和殉難者」として合祀している靖国神社に「殺されることもあるかもしれない」自衛隊員を、再び「英霊」としてまつりあげることを夢見ているのであろう。とんでもない危険な「初詣で」「初夢」である。
<<「所詮日本はこんな国か」>>
直ちに中国外務省は、小泉首相が靖国神社に再び参拝したことに強い憤りを表明し、戦争被害国の人民の感情を傷つける行動だと非難し、「小泉首相が侵略の被害を受けた中国とアジアの人民感情と、国際的な共通認識と良識を無視し、再三にわたってA級戦犯を祭る靖国神社に参拝したのは、首相自身が侵略の歴史を反省するとした言明に反するだけでなく、中日関係の政治的基礎を損なうものだ」と述べ、程永華駐日代理大使は、「中国の国民感情を何度も傷付けたばかりか傷跡に塩を塗るようなものだ」と強く抗議している。韓国の外交通商省も深い憂慮と強い憤りを表明している。
翌日の1/2付けの韓国の朝鮮日報社説は「所詮日本はこんな国か」と題して、「日本首相がこれ見よがしに堂々と参拝した今回の姿は、日本が引き起こした戦争で多くの国民が銃弾の盾となり、強制労働に駆り出され、異国の地で息絶えたアジアの被害国家に対し、日本が一体どう認識しているのかを再び確認させてくれた。首相は参拝後、「どんな国であれ、歴史、伝統、習慣は尊重されるべき」と語った。日本が自国の歴史と伝統、習慣を尊重する方法は、最高指導者が被害者の視線はさて置き、侵略戦争を引き起こした戦犯を追悼することしかないのだろうか。だとすればいっそのこと、日本は過去の侵略戦争に関してその立場は変えられないと、初めから宣言した方がよっぽどいいのではないか。」と手厳しく論評し、「日本の歴史認識とそれに伴う行動が日増しに逆行しているという事実は、日本だけではなく、北東アジアの未来に極めて不幸なことだ。政府の強い対応を求めてやまない。」 と結んでいる。
さらに元従軍慰安婦の女性たちが共同で生活している京畿道・広州の「ナヌムの家」は2日声明を発表し、「小泉純一郎首相がA級戦犯の位牌が安置された靖国神社を参拝したことは、目に見えないテロ行為」だと非難し、「毎年繰り返される参拝行為に対し、根本的な治癒なしに論評だけを行っている韓国政府と各政党もやはり、このテロの共犯者」とし、「われわれが求める同伴的な韓日関係は、清算されない過去の正しい解決と、日本政府の強い意志によって形成されるということを小泉首相に警告したい」としている。
<<軍事オタクに同調する人々>>
こうしたアジア諸国の人民感情をわざわざ逆なでするような行動や発言を唐突に“初詣で感覚”で平然とやってのける、しかもまったく独り善がりで直情的、自らの立場を客観的に冷静に考えることが出来ずに意固地になって誤りを繰り返す、こんな思慮も分別もない人物は首相失格であり、危険でさえある。ところがこんな人物がえてして世の中を闊歩するものであろう、同じような性格のブッシュ米大統領と肝胆合い照らす仲であり、底知れぬ泥沼の危険な戦争に付き従うことに懸命である。
首相をさらにいびつに変形させたのが石破防衛庁長官であろう。「危険地域に自衛隊派兵する理由」を問われると、「自衛隊が行くところが非戦闘地域だ」と応え、危険地域と言うなら「東京でも女子中学生が突然襲われた」と反論する人物である。このいかにも目つきの悪く、テレビに出ても意味不明の発言を繰り返すこの軍事オタクは、自宅、議員会館、防衛庁長官室に戦艦、戦闘機の模型を所狭しと飾りたて、さらに武器輸出で潤う三菱重工などの「防衛関連株」を多量に持っているという。だからであろう、同長官は1/13、訪問中のオランダ・ハーグ市内で、ミサイル防衛(MD)の共同研究を進めている米国とだけではなく、欧州やロシアとも兵器の開発や生産をしたい。古い自衛艦を東南アジアに輸出したい。そのために武器輸出三原則を見直すという、何とも物騒このうえない見解を公然と披瀝した。
官邸筋はこの発言の火消しにおおわらわであるが、福田官房長官自身が12/18の記者会見で、12/19に政府として導入を決定する「ミサイル防衛」に関連して、武器輸出を事実上、全面禁止した「武器輸出三原則」の見直しを検討する考えを示しおり、明けて今年の1/4放送のNHK番組「日曜討論」の中で 安倍幹事長は「他国との共同作業で新しい防衛システム、新しい武器をつくっていくなかにあって、(武器輸出)三原則が今までの解釈で支障が出てくるのであれば、見直すことが政治家の責任だ」と主張しており、公明党の神崎代表も「ミサイル防衛構想の開発・配備の段階になると、(日米の)共同研究の成果を具体化する必要がある。その限りにおいて、三原則の例外をつくることは、検討の余地がある」とのべているのである。そして民主党の菅代表までもが、「ミサイル防衛については、必要性は感じている」として、「そういうものを進める上で見直しが必要か、検討する余地はある」とのべている。
<<「ビジネスチャンス」>>
この「ミサイル防衛」への参加と武器輸出三原則の見直しに関連しては、すでに昨年11/20の「日米安全保障戦略会議」で相当露骨な発言が繰り返し表明されており、国防族を代表する自民党の久間章生幹事長代理などは「(武器輸出三原則のために)日本の防衛産業は、保有している技術力を生かすビジネスチャンスを失っている。武器輸出制限政策は、一部見直してもいいのではないか」、「十年あまりにわたって減少を続けている防衛庁の正面契約額を、増加に転じるときがきていると思う」などと発言しており、民主党の前原誠司衆院議員に至っては、「(周辺事態で米軍の)武力行使と一体化し、(自衛隊が米軍への)後方支援活動を中止すれば(日米の)同盟関係、信頼関係はずたずたになるだろう。ミサイル防衛を(日米)共同でおこなっていくこと、また、シーレーン(海上交通路)防衛が必要になってくると思うし、そういったことをやっていく上では、憲法の問題でブレークスルー(突破)しなければいけないところはある。憲法を改正し、九条に自衛権を明記して、集団的自衛権の問題もブレークスルーしなければいけない」とまで発言している。
将来的には数兆円の予算がかかるという「ミサイル防衛」の共同技術研究には、すでに三菱重工をはじめ、国内の主要軍需企業が参加。防衛庁と契約を結んで、「海上配備型ミッドコース防衛システム」の試作に参加し、ノーズコーンなど四つの部品の試作を請け負っている。内外の軍需企業.防衛産業は鵜の目鷹の目で今後の軍事費の増大に期待をかけている。
しかし、このように不用意で軍事費膨張志向の危険な事態の進展は、近隣諸国との信頼関係を大きく損ない、日本をアジアからますます孤立させるものである。今日本に必要とされているのは、「ミサイル防衛」への参加でもなければ、武器輸出三原則の見直しでもない、むしろ武器輸出三原則の徹底であり、国内国際を問わず武器取引及び生産の全面禁止、軍事予算の削減、軍備の縮小である。このようにしてこそ日本が平和へのイニシアチブを取ることができるのであり、アジア近隣諸国との友好善隣関係を築くことが可能となるのである。自公連立の小泉政権は逆の道を今年からさらに一歩も二歩も進めようとしているのである。
日本とは反対に、ドイツのシュトルック国防相は1/13の記者会見で独連邦軍再編計画を発表し、今後十年ほどで現在の年間軍事予算を上回る約260億ユーロ(約3兆4千億円)を削減し、兵力も現行の28万5千人から向こう二年間で25万人に削減し、軍事基地も現在の621カ所のうち約百カ所を減らすことを明らかにしている。軍事費の削減は可能なのである。
今年は何としても何よりもまず小泉政権を退場させることに全野党勢力が結集し、それを現実のものとすることが最大の課題と言えよう。
(生駒 敬)
【出典】 アサート No.314 2004年1月24日