【討論】衆議院選挙についての意見交換会(その2)

【討論】衆議院選挙についての意見交換会(その2)

<本当の意味での「官から民へ」が必要>
E:今回の選挙でも自民党も民主党も「官から民へ」という事を言っていたわけです。ところが小泉も規制改革ということで「官から民へ」と言うわけだが、実際自民党の本流は官主導勢力であるわけですね。既存の利権団体との結びつきも強い。自分の現在の仕事分野の事にも関係あるわけだが、例えば福祉の分野では官がすればコストも時間もかかる課題を、障害者や家族、ボランティアがしっかりすればNPOという形でコストも抑えて事業化することは可能であるし、そういう意味での民を支援していくというのは正しいと思うわけですね。かつて私も労働組合の役員時代に、民間委託反対と言ってきたわけだが、むしろ民の中身が問われていると思いますね。そして、それらを支援していくシステムが求められている。市民のイニシアティブをどう創るかということですね。社会の仕組みをどう変えていくのか、ということを民主党ははっきり主張すべきだと思います。
 「民主党は第二自民党だ」とか共産党は批判しているけれど、国家予算の40%が借金で組まれているという事態に国民は危機意識を明らかに感じているし、その変革を民主党に期待している事は事実ですね。
 
<よりマシ論でだけで評価でいない民主党>
A:民主党と自由党の合併について、政権交替をめざす民主党に重厚感が出た事は事実だと思いますが、「類似商品じゃないか」という評価も当たっているとも思うわけです。確かに違いがあることは認めますが、本質的な違いかということなんですね。階級闘争論まで持ち出す気持ちはないけれど、政党というのは、ある程度社会的階層の代弁者であって、依拠する社会階層があると思うのです。民主党は連合とも組んでいてリベラル的であるとは思うけれど、本質的に「勤労者・労働者の利害を代表する政党か」と言えば、そこまでも思えないわけですね。そう考えると、民主党をよりまし論で評価できるとは思いますが、それ以上に高くは評価できるか?-という意見です。また私は、二大政党論も積極的に肯定しない立場ですから。
C:Fくんの意見なんですが、選挙ということでも合併したのは効果がでていますね。得票も増えているし、その事で勝ったということも言えます。
 私も今回の選挙の争点は非常に曖昧なものだったと思っています。特にイラク問題についても、歯止めをかけるようなカウンターパワーを発揮しているか、と言えばそうでもない。例えばイギリスでは20万人のデモとか報道されているけれど、民主党がデモを組織するとか、対抗軸として行動を提起しているとかは全然感じられないわけですね。
E:物理的な力??

<民主党のイラク問題への対応について>
C:60年安保じゃないけれど、選挙でやっているだけだったら、それだけの事になる。自民党を引っ張りだしてきて国民の前で白黒はっきりさせるとか、そういうことがないと選挙で票や議席が伸びたといっても、ズルズルいきそうな気がしてしょうがいない。
D:イラク問題で民主党はもう少し後退した言い方になるかと思っていましたが、はっきりと出したというのは評価していいと思うよ。
F:ものすごくはっきりしていますね。
D:遅かったとは言え、評価していいと思う。それが争点になっていった。よくやったと言うべきじゃないのかな。
A:選挙後半に争点として、はっきりさせたということは認めるけれど、だからと言って民主党は、積極的に「平和の党」とは言い難いわけだ。
D:それは期待してもしょうがないことなんじゃないの。
A:出したことは評価するけれど、出したからと言ってそれ以上の評価はできないということかな。つまり、出さなかったらもっと(民主党を)ぼろくそに言っているということ。出したからと言って民主党を過大に評価するつもりはないという意味なんだけれど。
D:そう短絡に評価するものではない。だから小沢と横路の話が前提にあるからね。

<特定利害か、市民・国民の立場か>
F:小沢さんの議論を聞いていると、一番最初から自衛隊のイラク派遣に反対なわけです。もちろん彼の反対は、Aさんの言うような「平和の党」としての反対ではなくて、一国の軍事力を行使するなら、国連の枠組みの中で派遣すべき、つまり「きちんと筋をとおして」派遣すべきだという内容ですね。先ほど「原理原則や行動基準を示す」ことの重要性を指摘しましたが、逆に言うと、自民党と公明党という今の連立与党は、まさに「個別利害」で組んでいるにすぎないということです。特定業界の利害、公明党の場合は特定階層の利害ですが、それで連立している。ところが、菅さん、小沢さんのそれはもう少し抽象的なんですね。キーワードは、「市民」という言葉と、「国民」という言葉。菅さんの場合はずっと「市民党」たらんとしてきたわけですが、小沢さんの場合は、純粋な意味で「国民政党」をめざすと言っている。朝日新聞の論説委員が、「市民の党」と「国民の党」は一致できるのかと疑問を呈していましたが、僕から言わせれば、それは同じです。つまり、「市民」と言おうが「国民」と言おうが、抽象的存在を重視して考える点が同じなんですね。要するに特定の個別利害ではなくて、公共の利害、全体のバランスを考えてどこに着地させるのかということを議論しましょうということ。ただ、この違いを見えるようにできるかどうかが問題なんですが。
 では民主党を支える労働組合はどうなのかということになるんですが、労働組合は元々は特定の個別利害を代表する組織。ところが、段々そうでは済まされなくなっている。それに、労働組合の組織する階層自身が分化し、内部に利害の分岐も広がりつつありますよね。そこで個別特定の層の利害に関心を特化するのではなく、組織としてはより幅広い対象としての市民や国民全体の利害を考慮するようになってきた。その結果として、労働組合員の支持政党も分散傾向にあるわけです。となると、労働組合は特定業界利害や特定層の代弁組織ということではないわけですから、市民や国民的立場で行動や方針の合意形成を図るというアプローチについていけると思いますよ。民主党としては、この差を明らかにできればいいわけですが、それは非常に分かりにくい。だからこれは、抽象的なスローガンでも勝てる都市部、それでは勝てない地方という構図にも繋がる問題でもあると思うな。
B:投票率でも都市部では低調でも、田舎では高い投票率できっちり選挙に行かせますよね。

<自民党集票構造に変化が>
D:先ほどの投票率なんですが、今回の選挙で戦後最低の投票率になった県が青森、山形、茨城、山梨、石川、福井、長野、奈良、和歌山、鳥取、島根、広島、香川、愛媛、高知、福岡、佐賀、熊本。戦後最低を記録したそうです。ある意味で、これまで自民党の利益配分にあずかってきた部分で、票が逃げているとも評価できるわけですね。そういう意味での支持構造は崩壊しつつあると言ってもいいのではないか。

<公明党は自民党の生命維持装置>
F:一区現象、つまり地方の県で一区と言われる県庁所在地の若干都市化した所で特に自民党が弱いという構造ですね、郡部では勝てるけれど、都市では勝てない。長期低落傾向と言われてきた自民党だけれど、本当はもっとすごい事になってきているわけです。今、自民党の延命装置になっているのが、公明党ですが、この生命維持装置が外れると、もう終わりというところまで来たんですよ。
A:その構造変化を促進させたのは、小泉自身だよ。
F:公明党がひっくりかえったら、自民党も終わりですよね。
D:公明党もだいたい都市が基盤なんだ。
E:公明党は難しい政党ですね。自民党を助けているから駄目と単純に評価するのか、それとも公明党さん、よく考えた方がいいですよ、みたいな姿勢を取るのがね。
B:彼らの出自から言えば、そうじゃないのと違うのか、という意味でね。
C:本当に大阪の地方選挙での公明党の位置は大きいものがあるね。

<小泉バブルがはじけた>
F:前回の総選挙の後、「オランダモデル」のことを書きました(ASSERT 272号)。オランダにおいてはキリスト教民主主義政党が、戦後長らく政権の座にあったわけですが、政権崩壊したという話です。その時には政界再編があって、「紫連合」と言う「右派自由主義・左派自由主義・社会民主主義の連立政権」が政権をひっくり返すんですね。その政権の基本的な政治路線は「小さな政府」路線です。要するに社民的大きな政府の破綻の下で、反既得権益で社会的枠組みをどう変えるかという大きな観点での政権合意ができたわけです。その時私は、日本でも民主党をある種の左派自由主義政党に脱皮させ得たら、自由党、あるいは自由民主党から自由主義的政策志向の強いグループを分裂させて連立政権を樹立し、「自公保」的な「国家財政私物化政権」を崩壊させることができるのではないかと書きました。実は今、それに似たトレンドが進行しているのではないか、そんな気がしているんです。
E:前回の選挙では、小泉改革ということで、自民党が都市部にウイングを広げたという事がありましたね。あれは一時的なことで、元に戻ったですね。
F:小泉バブルがはじけたと言う事じゃないでしょうか。そして、森内閣の時代の構造に戻って、さらに崩壊が進行したということ。その時に比べると、社民、共産などが薄れて自公保と民主党との対置関係が、はっきりしてきたということではないでしょうか。
E:大阪の自民党って本当に最低の水準の自民党なんですね。選挙も下手だし、見識もない。それで民主党も助かってるんだけれど。
F:結局、自民党を支えている人材も全部選挙地盤の安定している地方出身の議員なんだね。大物議員ね。
E:加藤も福島県出身だね。
F:近畿で言えば、谷垣がいるけれど京都の田舎の方ですね。

<薄れる消費税増税への反発>
B:国民の関心が、誰のために予算を使うのかと言う面より、どういう使い方をするのかという面が中心になってきているのではないか。年金財源の問題にしても、消費税増税によって年金財源に充てるという議論にも違和感が薄くなってきている。どの党がどの層を代表しているという議論よりも、どういう使い方をするか、という意味でマニュフェストが出てきた背景があるのではないか。
A:僕はちょっと違う。国民政党的な傾向はあると思うけれど、二大政党的枠組みがそれを促進している面もある。
B:労働者のためにだけ、金を使います、ということはありえないでしょう。
A:そうは言っていないよ。少なくとも、そもそも政党とは何ぞや、という議論をすると、どの層に依拠しているのか、ということが基本だと思う。自民党は農村と大企業を基盤にしてきたわけだね。

<小選挙区制導入の経過>
F:今の議論について言えば、政党という存在に対する仮説の違いがあるよね。従来言われてきた社会的階層であったり、階級的な一般利害を代表する形で政党が組織されるという前提を認めるか認めないかということですが、そういう性格で政党が構成されるというのは、今やあり得ないと私は考えているわけです。
A:それはね、二大政党と小選挙区制という枠組みの中では、そうならざるを得ないのではないか。中選挙区制が良かったかどうかは別にして、複数政党を選べる制度であれば、違う選択肢もできるのではないか。
F:政治の設計としてありえない事だと考えますね。中選挙区制のシステムで特定・個別の利害を代表する多種多数の政党が存在して、時々の課題で連合して政権を取るという方法では、大きい利害集団を代表している政党が永続的に長期政権を形成するわけです。そこに反対政党が存在して若干の譲歩を引き出して終わり、という構造になるだけじゃないですか。そんな政治が繰り返されてきたわけですね、戦後50年間ね。特定・個別の利害をどう反映させるかという政治ではなくて、Bくんが言ったように、政治そのものの、日本の意思・国家としてのガバナンスを行う政治が必要だという理解の上に立って、違う仕組みにしましょうということで小選挙区が導入されたわけですから、それはそれで何としても完結させる必要があると思います。
A:「いろいろな階層の利害のコーディネイト機能のある政党-政権(が求められている)」と言っているように思いますが、では、それが果たして民主党なのか-とも思います。いずれにしても問題なのは、その時の基本的理念は何なのかという点です。結果的には、その中で多い(強い)勢力の利害が優先されていくのではないでしょうかね。

<マニュフェストの有効期限>
F:それもね、固定的に確定していけるものではないわけで、マニュフェストも何年かの期限をつけて、政策を提案していくという形になってきている。今の利害対立というのは勤労者の利害か、企業の利害かという切り口だけで説明できるものではないわけで、例えば、高齢者と若年層の世代間利害の対立もある。労使を含む業界間の利害対立もある。国家レベルの課題では、中央政府重視か、分権国家をめざした地方の重視かというのもありますね。一番大事なのは、国家としての外交戦略だとか、セイフティーネットをどう作っていくのかという点ですし、その話もどこに財源を調達するのかという議論抜きにできなくて、さらに各論の話になっていくわけです。それをマニュフェストにまとめて、有効期限を決めた政策を出していくんですね。絶対的な政策はないわけだから、あくまでも暫定的な調停案です。そういうものを提示して合意形成をして実行する、政治とはその繰り返しではないでしょうか。政治を「力関係」で決まるものという大雑把な理解をするのではなくて、対話と調整、折衝の世界で決まっていく過程として理解する必要があるのではないうか。
B:国会議員選挙なんかでいうと、国家に任せるのか地方なのかという問題がある。まだまだ実際の争点というわけではないけれどね。地方分権の理念ね。イラク派兵問題などはまさに国政選挙の課題なんですね。
D:マニュフェストというのもそうだったんだね。これまでの「ズルズル」したものに対して、このまま続いたらマスイと、こういう政策体系で政権交替した方がいいということが支持を広げて、基盤もできたということではないか。
F:あとは政権を構成できる判断と深まりを形成できるかどうかですね。道路公団の民営化議論もまだ枝葉の議論のような気がしますね。

<マニュフェストを出したのは民主党だけ>
D:事実上マニュフェストを出したのは、民主党だけなんだね。深まるところまで行かなかった。それでも提起した事の意味は大きかった。
A:それは「政権担当能力」というような言い方で、これまでも問題にされてきたテーマではないのかな。マニュフェストで初めて出てきた問題ではない。かつての社会党にしても言われてきた。ある意味、強制的に二大政党にして、かえって抽象的な選択肢の範囲での設定になってしまったとも言える。現実に階層の利害対立は熾烈なものがあって、その議論を回避・阻害する役割を果たしてしまったのではないかという考えを持っている。それも小選挙区制という強制装置を用いてね。
D:具体的な政策のあり方を巡って、政界再編は有り得ると思うよ。実際に公明党は自民党に対して規制をかけているわけだ。彼らは都市部の低所得階層の利害を反映しているが、その存在感を増した。これは連合政権なんだね。しかし、この連合政権は自民党主導であるために優位性を持てないことに対して、民主党がマニュフェストで対抗しているわけだ。公明党も内部では揺れざるを得ない。さらに公明党は二大政党制に移行することはできない、小選挙区に10人しか立候補させられないから、あとは比例区で通さざるを得ない。圧倒的多数は自民党を支える役割をしている。単純に階層別に云々というのではなく問われ方が違ってきている。

<二大政党志向に異議あり>
A:21世紀における日本の政治の基本的なあり方として、小選挙区制によって二大政党にすることが本質的に正しいことなのかという点に疑問を持っているわけです。
D:今の政権を倒すためには、それも有りではないのか。
E:僕は二大政党が望ましいと言っているわけではないよ。民主党が生まれた経過を考えると、社会党が政権を取るためにはどうするのか、という議論から始まっている。自治労内の議論でいうと政権交替可能な政党として社会党を変えようという議論があった。その結末がここまできた。二大政党というのも、二大政党連合が政権を争うというパターンもありうる。イタリアなどは与野党とも政党連合なわけ。日本でも自公は政党連合ですね。野党の側も最小限の政策連合で政権を争うこともできる。たまたま自公対民主党での二大勢力による選挙になっただけ。10年前、細川政権がもし2年でも3年でも自民党から予算編成権を奪っていれば、違う可能性があった。そういう意味で自民党を政権から放り出す必要があると思うわけで、その可能性があるのは現在民主党しかないのではないか、というのが僕の意見だよ。こうした環境下で、共産党、社民党の生き残りはどこに見出されるのか関心があるわけだね。

<政策議論が回避されていないか>
A:しつこいようだけれどね、二大政党による政権交替があり得るということを頭から否定しているわけではない。ただ、それが果たして、言われるほど理想的にそうなるのか。そこに吸収されない課題も多いわけだ。「国民の-市民の党として」というけれど、二大政党によってホームレスの問題、労働者の実態の問題、社会的マイノリティの課題なども含めて反映・コーディネート機能が持ちうるのかということですね。
F:どうも出発点が違うように思えるなあ。今の社会における政治制度に、これが絶対に正しくて「あるべき制度」だというものはないんですね。よりましな状態をどう作りだすか、仕組みをつくるかというアプローチしかないわけです。現在の選挙制度が導入されたのは、自民党の長期安定政権の下で腐敗が起り、ダイナミズムがなくなり、日本の国家としてのあいまいさが出てきて、それをどう改革するのかという議論の中で、政権を延命させない制度、政権交替可能な制度は何かという問題意識に対する「解」だったはずですよね。但し、完全小選挙区制ではなく、少数政党にも議席が与えられるという意味で比例区も残されたわけですが。こういう制度を作った以上、掲げた目的は完結する必要があるわけで、それが「政権交替」なんです。
A:出発点の違いというより、(政権交替までの)戦略論であり、プロセス論の違いということかな。

<宮沢の危機感>
F:自民党がズルズル状況に流される体質を持っている中で、今、本当に問題なのは対米関係ですね。アメリカでネオコンと言われる人々が出てきた。新聞で宮沢さんが、「我々の知っているアメリカと今のアメリカは違う。思慮深いアメリカが傲慢で乱暴なアメリカに変わった」と言っていましたが、これは非常に深い危機意識なんですね。これまでのようにズルズルと安心して付いて行けたアメリカと、今のアメリカは違うわけですから、日本の主体的な判断が問われているという事ですね。とは言っても孤立主義は取れないわけで、世界平和や秩序維持にどう貢献するか、自ら判断することが必要なのです。
E:昔はいっぱい政党が出たよね。
A:もう出られないよ。
E:それだけ成熟してきたとも言える。

<少数政党の未来>
A:成熟という評価ができるのかな。共産も社民も、あと1,2回選挙をすれば議席がなくなってしまう可能性がある。それが本当にいいのかという事なんだよ。「二大政党によって政権交替を可能にする」ということの結末としてね。仮に、やむなくもそのプロセスが進行しているとしても、評価をしておく必要がある。例えば自民党と民主党との関係において、改憲などの妙な動きが出てきても歯止めが利かないという事態も起りうる。そうした動きに左翼バネというか、ブレーキをかける装置を用意する必要はないのか。比例区があるから少数政党として生き残るというもののね。
D:比例区は定数が180なんだよ、これはかなり大きな数字だ。
A:例えば共産党が、改憲などの動きに対して議会選挙だけに頼らず、あらゆる集会やデモなど大衆運動に力を入れることを決定したという話もあるが、そういう動き・世論と二大政党下における議会内での改憲論議と乖離することもある。二大政党化によって政権交替を可能とするという流れが全く間違っているとまでは言わないけれど、これで結果的によかったと評価する気にもならないわけです。
B:結果的によかったとは誰も思っていないし、民主党だけを評価しているわけでもないけれど。しかし、もし自民党が敗北して民主党が地方分権を大胆に推進したら、それは大きな激動になるとは思っていましたよ。自民党ではできないわけだから。

<長期政権を崩壊させるため>
F:議論が噛み合っていないような気がします。Aさんの問題意識を選挙制度に絡めるからややこしくなっているのでは?今、問題にされていることを、誰が政策化し、誰がそれを代弁するのかという課題は、選挙制度の問題ではなくて、そのことの利害を代表する社会的存在とか社会的代表などという基盤的な話なんですね。それを選挙制度の問題にするから話がずれるのでは?
A:選挙制度(小選挙区制)ということも通じて、僕の問題意識が出てきているのでしょう。
F:「勤労者階層」の利害を代弁するような政党が出てきて、この選挙制度の中でも一定の位置を占めるようにならないか、という話ならば、それは甘いと思いますね。本当は逆の話で、政策ややるべきことが固まって、政党に影響を与えるようになった時に初めて政党が取り上げるという事ではないのかな。
A:それもそうだけれど、それなら一緒のことでしょう。つまり「政党の中で大きな勢力になれば取り上げる」ということなら、結局、政党の内部でも階層の利害対立はあるということになるわけだ。
F:中選挙区制というのは近しい政策を持っている複数の政党が乱立して、ワアワアやったけれど、自民党の長期政権という構造を変えることはできなかった。二大政党に近い今の制度であれば、政権を取ったところが、国民の中の利害調整をしなければならないわけです。どっちが政権を取ろうがね。ただ、自民党・公明党というグループと他のグループがあったとしたら、どちらが今の既得権益とは違う利害調整の可能性があるかと言うことを見る必要があるし、その点を明確にする必要があるわけです。長期政権を続けている政党には変革の芽があるかどうかが疑わしい。それを一旦崩さないと、本来必要な利害調整どころか、まともな議論をする状況すら生まれてこないですよ。

<階層間の利害対立と政党>
A:例えば二大政党になって、少数階層の利害を独立した政党がなくて、大きな政党の中で政策を決める時には、結局、その政党内で利害対立があって、その上で政策が決まっていくという事になる。民主党でも連合が多くの議員を生み出せば、労働者的な政策が重視されるとということですかね。政党間の意見の違いという形なのか、大きな政党の中の利害対立という違いになるのか、いずれにしても、そこで決定的なのは、やっぱり階層の利害ということだと考えるべきなのではないか。
F:いろんな利害を調整するということが政治の機能にはある。しかし調整だけに留まってられない問題もあるんです。外交や国家の成り立ちを決める問題とかはね。また、限りのある財源の中で何かを具体化し、何かを決めようとすれば、何かを捨てなくてはいけない。もちろんその場合は利害調整が必要となる。しかし、その時に、どこに重きを置いて利害調整するのかという問題になると、理念の問題となる。例えば、アメリカ型の競争社会をめざすのか、それともセイフティーネットに重きを置くのか、ということですね。もしアメリカ型をめざすのなら、議論の余地はない。セイフティーネットの理念を重視するならば、利害調整が必要になる。その差が出てくるんです。中選挙区制の下では、長期政権を許すことはあっても、政権交替によって政治にメリハリを付けることはできない、それが戦後の日本の政治の歴史ではなかったのか。民主党が今後どういう政策を出してくるか、純化された新自由主義でいくのか、社民的要素を残してセイフティーネット型でいくのか、それも中央と地方の国家システム上の変革問題とも絡んで、まだ見えていない段階なのに、高速道路問題だけやけに突出しているところが、よくわからないんですね。
 民主党も基本路線がまだ固まっていないわけですが、国連待機軍の話とか、地方分権の推進の話とか、少なくとも民主党は既得権益との関係でがんじがらめではないわけだから、制度政策設計において自由度が高いわけですよ。まして、自治労や連合という影響力を行使できる力もあるわけだから、それを自覚して絵を描いていく必要があると思います。

<自民党を復活させた旧社会党>
E:私個人の意見だけれど、社民党については自社連合を組んだ時点でバツなんです。あの選択をした時点でね。護憲や平和の問題について賛同できるとしてもね。政権離脱して、労組にも逃げられて総選挙で大敗したあと、市民と女性の党として再生をめざしたわけで、元々大衆運動の政党なんだから、運動を作れなかったという反省から、次の再生に注目したいわけ。そして共産党です。地方議員も多いし、組織はそこそこあるわけで、独自の運動を形成する力は持っている。しかし、統一戦線志向は未だに皆無に近いし、高齢化は進んでいる。このままの路線では先がないわけだね、もっと介入政策を取るべきだと前月号にも書きました。

<統一戦線的な視点から>
A:二大政党の流れに対して、僕が批判的な意見をもっているのも、元々、中選挙区制のときから野党間の統一戦線を進めるべきとの考えがあるからだ。実際、中選挙区制の時代も自民党は議席数では過半数を取っていたが、得票では過半数を取っていなかった。要するに連合政権志向が日本の政党に弱いわけだね。四大政党、五大政党があって連立すればいいわけね。諸外国にはあるのに、なぜ日本にないのか。各政党の基本原則はあっても、政権交替のために、当面の大局に付くという連立志向が弱い。
 それを「一票の格差」などの他の重要な選挙制度の問題もあるのに、そこに抜本的メスを入れることなく、「政権交替が可能な」ということで、安易に小選挙区制が導入されたとの思いがある。

 <低成長期の政治スタイル>
C:僕も元々はAさんのように政党を考えてきたわけ。議論を聞いてきて、二人の姿勢が全然違うなと感じるわけね。これまでのように階級の利害を代表する政党としての政策の作り方と市民とか国民とか抽象的な立場から政策を作るというのは全然違ったものになる。一方の利害対立を中心に考えてきたのは、成長期の利益の配分をめぐる勝った負けた時代の話で、二大政党では、勝った負けたではなく、政策の中身は問題であるにしろ、階級の利害を離れて全体から受け入れられるトータルなよりましな政策を打ち出さなければならないのかなとも思うわけですね。
D:長期政権の自民党政権を倒すという事が大前提なんと違うの。そこを変えないと。
F:なんか古い郷愁を感じる議論だね。
B:まだまだ社民党も地方議員をもっているし、共産党は最大数の地方議員をもっているわけで、代議士のレベルの議論ではなく、地域を基盤にした本来の政党という見方をすれば市民運動をベースに意見反映していく回路は社共も十分に持っているのではないか。

<二大政党制を国民は支持しているか>
A:そもそも国民は、本当に二大政党制を支持しているんだろうか。
D:今回の選挙では、現政権・自民党政権を倒すという意味において、それは支持されたのではないか。
A:今回の選挙議論で、二大政党化における政権交替の枠組みについての議論はあったとは思うけれど、政権枠組み議論だけで、個別の利害対立や議論を回避しているのではないか、という危惧を僕は強く持っていますけどね。
F:「二大政党」というのはあくまでも象徴的な言葉でね、政権交替を可能にするには、こちらからこちらへというわかりやすい受け皿が用意されないといけない。問題は二大政党が固定的な二大政党なのかどうかということです。そもそも戦後の日本で、社会階層の中に本当に深刻な対立が生じていたのかという疑問があるんですね。確かに高度成長期に新たに出てきたパイ、新規の利益の配分をめぐる対立は、勝った負けたの世界になる。この配分を給料に積むのか社会保障に積むのか、他に使うのか、ぶんどり合戦という意味でね。けれども、これが縮小して全体の再調整が必要な時期には、勝った負けたの単純な二項対立の世界ではなく、複雑な調整の世界になっているのではなかろうか。また、今の二大政党も、自民党と公明党が袂をわかって、自民党の凋落が始まれば、また違う組み合わせが生まれる可能性もある。結局、二大政党の区分線も、政策の区分線も変動していくという前提で対応していくべきで、政策の実現における政権交替の重要性を過小評価してはいけないんです。また、区分線をどう引くのかが中心になってくると、現状維持の与党に対して野党の側には、区分線の線引きについて新しい考え方を設定できるイニシアティブがある。小泉は政権政党にありながら改革やら、自民党をぶち壊すなどという発言をして大衆受けをしてきたが、極めて特殊なケースだし、もう賞味期限も切れてきたと思うよ。

<新しい投票行動は生まれるか>
C:その時は投票行動も変わってくると思う。自分の利益ははっきりしているけれど、区分線の右か左か、全体の利害・判断で大局的な判断の投票行動が出てくるかもしれない。これまでの既存の政党への投票行動というパターンからの変化がね。
F:そう、マニュフェストという形で政権選択と線を引かせることがリンクしたという意味で今回の選挙は意義があったと言えるわけ。まだ結果は出ていないけれどね。細川政権から10年を経過して、条件が整ってきて、次へ繋がる、変化させられる条件がやっとできてきたように感じます。(終了)
(遅れて参加のGくん:今回の選挙も、巻き込まれることもなく一市民で過ごせたんです。イラク情勢がどうなるか、イラクで斃れた外交官の葬儀がありましたが、自衛隊が派遣されて、こうした事態が日常茶飯事になるような情勢になると公明党から異論が出てくるし、政権の不安定性が一層深刻になるのかなと感じています。)

 【出典】 アサート No.314 2004年1月24日

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