【討論】衆議院選挙についての意見交換会 (その1)

【討論】衆議院選挙についての意見交換会 (その1)

(12月7日に在阪の編集委員が中心になって、総選挙について意見交換会を行いました。以下は、佐野の責任において編集したものです。今月号と次号に分けて掲載します。表層的な選挙結果分析をはじめ、底流で進んでいる政治をめぐる変化について議論ができました。ご意見などお寄せください。)

E:それでは先日執行された衆議院選挙について、意見交換会を開催します。最初に、それぞれの立場での感想を述べていただきたいと思います。また選挙後、イラク情勢も動いておりますので、後ほど取り上げたいと思っています。

<自民党はマニュフェスト選挙に対応できなかった>
A:まず今回の選挙は、盛り上がりの欠ける選挙だったと思いますし、私自身、さめていたという感じです。
 しかし、その中でもあった争点と言えば、「マニュフェスト選挙」とも言われましたが、民主党が政権を担うことを問うた選挙であったと思います。しかし、実際には政権を展望する決意を示した程度であったと思いますが。
 これに対し自民党は、この民主党が仕掛けた「マニュフェスト選挙」に十分、対応できなかったということですね。「自民党は政権を取っているのだから、今、実行している政策がマニュフェストだ」等と言って。結果的に自民党が追い詰められた感じとなった。
 では、それでは民主党のマニュフェストがどれだけ国民に理解されたかと言えば、それも十分ではなかった思う。道路公団問題、年金問題が争点になったかといえば、そうでもなかった。
 もう一つ、言っておきたいことは、私にとっての選挙の焦点は、イラク派兵問題でした。現実に日本が、実質的にアメリカの軍事行動に加担する状況の中で、何よりも増して重要な争点だと思うのです。自民党は圧倒的多数を得て「イラク問題でも国民的信任を得た」と言っている。私は、野党がイラク問題を、もっと早い段階から全面的に訴えていくべきだったと思っています。民主党も当初は十分ではなかった。後半にはかなり前面に出ていたようだけれど。まあ、自由党と合併した直後であったし、西村慎吾のような者もいる中では、すぐには言いにくかったのかなとも思いますがね。
 
<憲法を守るというだけでは不十分だった社民党>
 最後に社民党の後退についても一言。イラク問題でも社民党がしっかり訴えていたかというと、そう見えていない。ぼやけていなかったか。社民党は「護憲、憲法を守る」と主張していた。「憲法を守るのか、改憲なのか」という問題の立て方でね。そうではなく、今、イラク派兵を前にして、「どう主張するのか、具体的に何を為すべきか」という提起の方が、良かったのではなかったかと思います。社民党は、現時点では政権を展望できる党ではないわけだから、マニュフェスト選挙に張り合わずに、専門店的に「イラクと平和」に焦点を絞った選挙にすべきではなかったか。
  
<存在感を増した公明党>
B:今回民主党が政権獲得をめざしたということ、マスコミも二大政党時代の到来という報道もあったわけですが、投票率は思ったより伸びなかった。大きく動いた選挙であったかというと、自民党も追加公認などもあり安定多数という結果となった。トータルでは社共が減少して、その分民主党が伸びた。民主党は伸びたけれども政権を取れなかったという意味では敗北ということになる。マニュフェストも今回導入されたけれどどれだけの人間が読んだのかということになるとね。これから定着すると思われますが、道路公団ひとつとっても、突然の無料化提案ということも国民は冷静であったのかな、と思います。
 公明党ですが、安定的に議席を確保し、自民党議員当選のキャステングボードを握っている。この影響が、いい面として年金問題などで自民党を制御する面が出てくることを期待するわけだけれど、いずれにしても公明党の存在感が大きくなった選挙であったと思います。大阪では従来からいろいろな意味で公明党との関係が重要という民主党の地方議員も多いという事情がある。投票日の三日前に公明党(学会)がこちらに来たみたいな話が多んですね。
 
<バブル的状況の民主党>
C:選挙結果を見ていつも思うのだけれど、非常に絶妙のバランスというか、一人ひとりが投票しているんだけど、バランスのある結果が出てくるんですね。マニュフェスト選挙ですが、それはよかったと思います。議論になったし、関心も高かった。実際に私の選挙区でも9000部くらい作ったわけだけれど、即なくなってね、倍の増刷をしてもそれもすぐに無くなってしまった。(具体の地元のお話–略–)現実問題としては、民主党も地方の段階で見れば、候補者がいないということや組織がしっかりしていない状況にはあまり変わりがなく、民主党も今の状況はバブル的状況にある。
 イラク派兵問題が私も気になっていて、淡々と何か進んでいるという感じでね。歴史に一線を画すような問題なのに、淡々と進んでいることに対して、これでいいのかな、という気持ちですね。
D:いろんな経過でポッ出の候補者でも、そこそこの票を獲得したということは、やはり民主党にかなりの風が吹いたということですね。私は比例区では社民党に入れたのは、あぶないだろうと言われていた(土井)党首のためにね、その程度だったんですが。

<小選挙区選挙の特徴が出てきたね>
E:私の場合は、96年の旧々民主党結成から、近いところで民主党を見てきた経過がありまして、小選挙区選挙が3回目ということで感じるところが多かったですね。小選挙区で一度当選した現職は、比較的強い候補となる傾向にあることが多いということ、そして小選挙区で勝てる候補が増えれば、比例区でも勝てる傾向が出る。選挙区で落選したからと言っても比例区で当選できれば、議員活動を通じて支持を広げられてる、次の選挙では選挙区で勝てる可能性が強まる、というように上向きの波に少なくとも近畿の民主党は今回乗っているという感想を持ちましたね。政党組織などほとんど無いに等しい組織実態にあるにも関わらずでね。
 前回の比例区で20議席を取った政党も、200万票近く落とした結果、9議席しか取れなかったで、大変こわい選挙制度でもあるわけです。ウォッチャー的な見方に留まらず、しっかり解明する必要があると思います。
 (自分の選挙区の話–略–)共産党の低迷は深刻かな、という感想を持っています。とにかく元気がないんですね。従来のように全戸ビラも少なく、今回初めて新聞折込で共産党のビラを見ましたね。バッシング的にどうしようもない政党なんだから、という意味ではなく、心配しているんです。
 自治労で言えば、社民党として組織内または推薦候補で当選したのは、沖縄の照屋さんだけ。彼は民主党の推薦を受けた候補ですね。そして民主党系は8名が当選した。当然、流れは民主党に一層傾くことになる。社民党系県本部でもはや自力で、また比例であっても議員を当選させることがほぼ不可能になっているわけですね。労組内のバランスも影響を与える結果となったわけですね。来年の参議院選挙まで、この傾向は続くと思いますね。

<都市部と地方に分岐が出てきた>
F:この意見交換会は、これまで何回かやってきてますね。先ほどCさんも言われたように選挙結果そのものには、そんなにドラスチックな展開があったわけではないですね。僕がずっと関心を持ってきたのが投票率なんですが、投票率は全然変わっていない。マニュフェスト選挙と名付けられて関心が高まったかのように言われていたわけですが、かなり低い投票率でした。私はそこに、表面的な選挙上の対立とか結果というものよりも、政治全体の仕組み、今の政治制度をめぐる危機を感じているわけです。
 ただ、今回少し違う流れになってきているなと思うのは、都市部と地方に流れの分岐があるという点です。例えば近畿における小選挙区の結果を見ても、都市化されたところでは民主党が勝っていて、所謂「田舎」的なところで自民党が勝っているわけです。比例区の投票を見ても同様な二極分解が出てきている。そもそも、今の時代、選挙を通して行われる選択というのは、かなり抽象的な議論を判断基準にしなければ選び難いものになってきている。そういう意味で、今の自民党政権の抱えている問題、それを変えないといけないという危機感はやはり都市部の方が多い。それは一つの芽だと思っているんです。ただそこに、明確な議論が立てられていない所に、これまでの限界があるのではないかと感じているわけです。

<「テロ」なのか「ゲリラ」なのか>
 我々が考えなくてはならない一番のポイントなんですが、政治というのは「状況の定義を巡る争い」だと思うんです。一番広義の意味で政治をあらわすとね。どういうことかと言うと、今のイラクの問題でも、現状を「テロ」と表現するのか、「ゲリラ戦」という言葉で表現するのかという違い。あるいは、今、イラクで求められているものは、「戦後復興」なのか、米英軍を中心にした占領下における「治安対策、治安強化」なのかということですね。どう状況を捉えるか、定義するかで次の対応策が変わってくるんです。そういう意味で、あらゆるものについて、問題の立て方と打開策を明示していく必要があるはずで、マニュフェストは本来その体系だった整理が前提になるはずなんです。ところが、今回示されたマニュフェストは、問題の下部にある具体的な話がぽっと出てきている感じがします。例えば、高速道路料金の無料化という提起にしても、単に無料・有料というレベルだけで議論されると、大した問題ではないような感じがするんですね。
 その辺で、もう少し政治や政党政治のダイナミズムを取り戻すプロセスとそこにおける限界なりを、今回の選挙を通じてを考えてみたらどうかと思っています。
 
<マニュフェストの修正はじめた公明> 
E:今回の選挙では、自民党には一度休憩していただくという選択肢もある、ということをより現実的に認識させたものとして民主党のマニュフェストがあったのなかと考えています。昨日アサートの掲示板に書き込みがありまして、マニュフェストというけれど公明党はすでに年金改革でマニュフェストを変更しようとしているという指摘なんですね。
 マニュフェストで国民はチェックしやすくなったわけですね。
A:Fさんと意見が少し違うかも知れませんが、ー小沢が民主党のマニュフェストを見て、「もっとわかりやすくしないとだめ」と言った。国民に争点をわかり易く伝えることは必要だ思いますね。Fさんの言う「問題の立て方」や「打開策」というよりもね。道路公団民営化、無料化提案というのは、それなりに違いをわかりやすくした、と言う意味では面白いと言う評価はできると思いますね。ただ、争点にまでになったかというと別だけど。

<民主党・自由党合併の評価は?>
F:民主党が小沢さんの自由党と合併したことは、僕は非常に評価しているんです。菅さんや小沢さんが言っていたように、「政権を取る」ということですね。それを明確にするためには、選択肢は単純な方がいいわけです。二者択一でね。世の中の物事は、そんな単純なものではないわけですが、こと勝ち負けを決める選挙の場合、特に小選挙区選挙では、単純な選択肢を示さなければならないんです。自民党から政権を奪うということは、新しい政権は自民党と違う政策を明確に、単純に示す必要があるわけですね。そのためには、自民党とは何なのか、ということも明確に定義しないといけないと思います。

<「脱官僚政治」は的を得ているか>
 民主党が一番間違っているのは、そこなんですね。今回の民主党のマニュフェストを貫く理念というのは「脱官僚政治」です。「自民党は利権構造で、政策を官僚に丸投げして官僚支配に踊っているけれど、民主党はそうではありません」と言っているんですね。これは何となく分かったように思えるし、反公務員や反官僚の意識には乗っている定義なんだけれど、実は何も言っていないのと一緒です。中身の違いではないわけです。
D:民主党のポスターは「強い日本」だったかな、これもよく分からんね。
F:そのスローガンもよくわかりませんね。ここに一番の問題があると思いますよ。いわば「気分」しか示せていないわけ。実は、自民党政治の一番の問題は、「状況追随」なんですね。事前にきちんと確立した判断基準に基づく政治ではなくて、個別業界の利害に追随したり、自民党内の力関係に追随したりするわけです。それが端的に現れているのが外交政策で、自らの意志があって行動するというよりも、アメリカの顔色を見て、ブッシュの言うとおりに動く。そういうやり方をしているから、今回のイラク問題なんかでは、状況に振り回されて、ズルズルと流れているという感じですね。何の覚悟も足元の固めもなく、体制もないままに、一国の軍隊を送り出そうとしている。先ほどCさんが言っていたように、交戦状態になった場合の対応など全く不明確なんですね。強い国家的意志でやっているという感じもなく。ズルズルとやっているわけですね。「帝国主義的野望」というような雰囲気ではなく、しょうがなしにやっているというのが実態ではないでしょうか。
C:でも、そこが怖いところではあるんだけれどね。
D:改憲勢力も、明確に「改憲」の旗を揚げだしているしね。
F:でも状況に引きずられて自衛隊を出していくからゆえの、二次的なことかもしれないけれどね。
C:むしろ争点になるのを避けているという感じだけれど。

<争点を避けて、ズルズルと進める自民党流>
F:全部避けているという感じでしょ。自衛隊派遣の枠組みについても、先ず非戦闘地域があるという前提で設定しておいて、今こんな状態になって、非戦闘地域なんてあるのか、という議論になってきたら、「どこかにあるでしょう」と官房長官が人ごとみたいに発言する。そんな言い方されたら、派遣される人はたまったものじゃないわけです。いつ送るのか、という議論についても、状況を見て、という。
 高速道路建設もズルズルとやっていくと。そのあたりに対してね、民主党は「強い日本」ということを対置するのでではなくて、ちょっと違う表現をすれば、行動原理・基準原則を明確にした枠組みの議論を提起できるのではないでしょうか。
 政治がその事をしないから官僚が勝手に暴走しているみたい雰囲気になっているんであって、官僚批判の気分から「脱官僚政治」を掲げても極めてネガティブな捉え方にとどまってしまうんですね。そのあたりを練り上げることが民主党に必要なのではないでしょうか。
B:民主党も選挙前だからマニュフェストでまとまったという状況で、落ち着けば、マニュフェストもどうなるのかなという雰囲気がある。選挙前にまとめるというのではなく、日日の常に具体的な政策のすり合わせが必要になる。その積重ねがあって、選挙前にはマニュフェストが出されるというようにね。

<小沢・横路会談の意味>
F:その点で選挙後面白かったのは、民主党内で小沢さんと横路さんのグループの間で国連派遣軍の話がまとまったという話ですね。自衛隊とは別に国連待機軍を作って、国連の要請に対応するという大筋の合意ができたという話ですが、これは画期的なことですね。
D:横路にしては意外だったね。それは小沢が踏み切らせたんだと思うけれど。自衛隊を変えてしまえばいいわけだ。
F:国連を中心とした国際貢献をする、国際政治における日本の役割を果たすということを日本国憲法の制限の中で、どういう政策的受け皿を作るのか、と言うことにおいて、昔の自社の枠組みを打ち破るものとして、とても面白いと思います。そういうものを次の選挙までに整理していって、大きな意味での自民党政権ではない新しい行動原理に基づくプログラムを作ると説得力がありますね。(次号に続く)

 【出典】 アサート No.313 2003年12月20日

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