【投稿】自公政権の危険な綱渡り—対イラク自衛隊派兵閣議決定—

【投稿】自公政権の危険な綱渡り—対イラク自衛隊派兵閣議決定—

<<憲法のつまみ食い>>
 ついに日本は小泉政権の下で、「自衛隊」初の「戦地」派遣に決定的な一歩を踏み出した。12月9日午後4時すぎにイラク復興特別措置法に基づく自衛隊派遣の基本計画が閣議決定されたのである。交戦権を明確に放棄した平和憲法を踏みにじるこの歴史的に重大な決定にもかかわらず、国会に問題提起することも、首相の所信表明すら行わず、2日間だけの予算委での総括質疑で逃げ回ってきたあげく、小泉首相が行ったことは、閣議決定後の一方的な記者会見だけであった。
 しかもあろうことか、「憲法改正」を国会で公言し、自民党公約として2005年までの改憲案づくりを踏み出した本人が、日本国憲法前文の一部を読み上げて、派兵の正当化をはかったのである。憲法前文には「われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて…日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ」とある、だから「まさに、日本国として日本国民として、この憲法の理念に沿った活動が国際社会から求められている」と、目を吊り上げてまくし立てた。笑止千万である。「日経」12/10日付によると、首相は記者会見に向けて「この一週間、憲法の前文を暗記していただけ」だという。
 12/11付け朝日社説は「だが、それは前文の一部を取り出して都合よく解釈したに過ぎない。前文全体を読んでいただきたい。そこには、国連憲章に通底する紛争の平和解決という理念がどれほど深くにじんでいることか。逆に、9条には一切触れることがなかった。前文と9条には『すき間』があるとかねて言ってきた首相だが、もはや9条の存在を忘れ去ろうとしているかのようだ。こんなことで『国民の精神が試されている』と鼓舞されてはたまらない。首相に求めたいのは、見かけの気迫ではなく冷静に国際社会を見て判断する力である。」と手厳しい。

<<完全な「戦争モード」派遣>>
 首相が目もくれなかった憲法第九条第一項は、「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。」と明示し、第二項において「前項の目的を達成するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」と国内外に向けて宣言し、この徹底した「恒久平和の希求」をもって「名誉ある地位を占めたい」と誓ったのが、憲法前文の精神である。首相の手前勝手な憲法の引用は、抜き差しならない泥沼の論理に落ち込み、破綻した首相の姿勢を浮き彫りにしただけである。
そもそも憲法はおろか、イラク特措法自体においてさえ、自衛隊が活動する全期間を通じて戦闘行為がないと認められる地域(非戦闘地域)にしか派兵できない定めである。この「非戦闘地域」の設定については、憲法が禁じる海外での武力行使を避けるための「法的な担保」(石破防衛庁長官)としてきたにもかかわらず、政府は「非戦闘地域」を特定できないどころか、米占領軍のサンチェス現地司令官が明言しているように、イラクはいま、「全土が戦闘地域」なのである。
しかも、政府答弁においてさえも、フセイン残党による組織的計画的な攻撃は「戦闘行為だ」とし、さらに「フセイン残党(の攻撃)と確認できない、その可能性が排除できない」場合であっても、「(戦闘が)予測される地域になる」(6/27石破防衛庁長官、衆院イラク特別委)として、派兵できないとしてきたのである。
 ところが、今回発表された基本計画は、「戦闘行為」を前提とした無反動砲や対戦車弾、装輪装甲車など、自衛隊の海外派兵ではかつてなかった重武装の完全な「戦争モード」である。このような派兵は、「非戦闘地域」で活動するのなら不必要な武力行使を想定しており、派兵される場所が「戦闘地域」、「戦闘予測地域」であることを自ら語っている。これはまさに米英軍の国連をも無視した不法・不当な軍事侵略と占領に加担し、それを正当化するための軍事戦略としての派兵なのである。

<<「驚天動地発言」>>
 ところがそれでも、首相は「日本は戦争に行くんじゃない。自衛隊は復興人道支援に行く」とシラをきり続けたのであるが、勢いあまって記者会見で、自衛隊による武器・弾薬の輸送は「行わない」と明言した。しかしこれまで政府は、イラク特措法の国会審議で、自衛隊による武器・弾薬の輸送も行うとしてきたところから、首相の発言は、政府内で「驚天動地の発言」(外務省幹部、「朝日」12/11付)と受けとめられたという。石破茂防衛庁長官は同日の記者会見で「法的に不可能だとは認識していない」と補足したが、首相は自ら提出した「基本計画」さえろくに読まず、理解さえもしていない底の浅さを露呈したわけである。首相は、武器・弾薬の輸送は「行わない」と明言したが、その意味することなどには無頓着であり、それを守る気などさらさらない。
実際にこの「基本計画」では、派遣される航空自衛隊の任務を、クウェートの空港とイラク国内のバグダッド・バスラ・バラド・モスルなどの各空港間の空輸としており、空輸する物資は「内実は米英軍向けがほとんど」(「日経」12/10)で、カタール駐留の米空軍の輸送調整のもとで空自も活動することが歴然としており、政府は、武装米兵の輸送も可能だとしている。
 さらにこの「基本計画」には、自衛隊の「安全確保支援活動」として米英軍など占領軍への軍事支援が明記されているにもかかわらず、「復興人道支援」の名目上、首相は一切言及しなかったというか、言及できなかったのであろう。翌日12/10の福田官房長官の記者会見では、記者から「総理は(九日の会見で)、安全確保支援活動について一言も触れなかった」と指摘され、「治安を維持する他国の支援をするということは、間接的に復興に役立つ」などととってつけた言い訳に四苦八苦である。
 このいい加減さ、無責任さが小泉という人物の本質的な特徴であろう。首相は、とってつけたように「国際社会の一員としての責任を果たす。これは憲法の前文にも合致する」、「必ずしも安全でないことは認識しているが、テロに怯えて屈してはいけない」、「自衛隊は一般国民にできない仕事ができる」「(戦闘が)泥沼化する時は自衛隊が手を引いた時だ」などと語るが、このような粗雑な論理では、底知れぬ泥沼に引きずり込まれ、自らテロと混乱を呼び寄せているようなものである。首相にとっては、何が何でもとにかくブッシュと約束した以上、早く派兵したい、本心はこれだけであろう。結局、イラク派兵の理由として残るのは「日米同盟の重要性」だけである。

<<「考え直すべき機会」>>
 「基本計画」を閣議決定したその日、12/9、イラク統治評議会のハミド・カファイ報道官は、カタールの衛星テレビ・アルジャジーラとのインタビューで日本政府の自衛隊派兵閣議決定について「これ以上の外国軍はいらない」と否定的な立場を表明し、「外国軍に関する統治評議会の立場は明白である。われわれはイラク国民こそがイラクを統治すべきと考えており、イラクの問題はイラク人自身で解決すべきである」と述べ、「復興支援」の対象である当事者から、日本の自衛隊派兵が歓迎されざるものとして拒絶されていることを銘記すべきであろう。
 そして同じその日、バグダッド国際空港を離陸した米軍のC17輸送機が、ミサイル攻撃を受け、被弾している。同じ空自のC17輸送機も当然レジスタンス側の攻撃対象となることは明らかであろう。
 小泉首相の必死の特別記者会見にもかかわらず、その後の世論調査はすべてイラク派兵反対の声が圧倒的多数であることを明らかにしている。小泉首相は大義もなければ説得力もない自らの立場を反省も出来ずに、「政府の批判とか自衛隊(のイラク派兵)反対ばかり言わないで、マスコミのみなさんも激励してあげてください」(12/11)と体制翼賛報道を要請する始末である。福田官房長官にいたっては、世論調査で過半数を超えた自衛隊のイラク派兵反対の声を「考え直すべき機会ではないか」と述べて(12/12)、世論の動向を考慮するどころか敵視し始めたのである。石原・東京都知事が「平和目的で行った自衛隊がもし攻撃されたら、堂々と反撃して、せん滅したらいい。日本軍というのは強いんだから」と語った(12/2)のと同じレベルである。危険極まりない綱渡りを即刻取りやめ、「考え直すべき機会」を与えられているのは、自民・公明政権の当事者たちなのである。

 この投稿執筆後、12/14、フセイン元大統領の拘束が発表され、福田官房長官が「自衛隊派兵の追い風になる」と歓迎を表明したが、そのような皮相な甘い認識をこそ「考え直すべき」であろう。
(生駒 敬)

 【出典】 アサート No.313 2003年12月20日

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