【投稿】切迫するイラク攻撃とイージス艦派遣

【投稿】切迫するイラク攻撃とイージス艦派遣

<<「臨戦態勢が整った」>>
 米軍のイラク攻撃の火蓋がいつ切られてもおかしくない情勢に突入している。12月9日には、米軍は対イラク攻撃拠点基地となるペルシア湾岸・カタールで大規模な実戦配備と軍事演習を開始した。対イラク包囲網は、はバーレーン、ディエゴ・ガルシア、ジブチ、クウェート、オマーン、カタール、サウジアラビア、トルコ、アラブ首長国連邦にまでおよび、インド洋からアラビア海、ペルシャ湾に至る海上戦艦配備も含めすでに10万人以上の兵力が配置されているという。12/8付ニューヨーク・タイムズ紙は、「ブッシュ大統領が決断すればいつでも攻撃できる臨戦態勢が整った」と報じている。
 一方、イラク政府は12/7、約1万2000ページに上る公式文書を国連安全保障理事会などに提出し、「大量破壊兵器は所有していない」と申告している。これに対しブッシュ政権は、「文書は偽り」と主張し、申告書の分析に当たった米中央情報局(CIA)など情報当局者は、「申告書にはほとんど新味がない」とし、これまでの分析の結果、イラクが過去数年、アフリカから輸入していたとされる、相当な量のウランなどについては一切記載が無い、また、マスタード・ガスを搭載した砲弾550発や、生物兵器を積んだ爆弾150発など、4年前までの査察を担当した国連大量破壊兵器廃棄特別委員会がすでに問題視していた兵器についても、全く説明がない、など「遺漏は膨大なものだ」との1次評価を固めたという。そして12/13付ニューヨーク・タイムズ紙は、米当局者は、イラクの大量破壊兵器に関する申告書について、重大な記載漏れがあった、とする暫定的な結論に達したと報じている。 ブッシュ政権側は、自らの「独自資料」とつき合わせて、なんとしてもこれが虚偽申告であることを立証する構えなのである。虚偽の内容が明らかになった場合、11月に採択された国連安保理決議1441は、イラクに対して、化学、生物、核兵器計画について完全な説明を申告書に盛り込むことを義務付けており、武力行使につながる「(安保理決議)履行義務のさらなる重大な違反と見なす」としている。申告に遺漏があった場合、国連査察団は12/23までに作業を開始し、その後60日以内(2月21日まで)に報告書を国連に提出する予定となっている。しかしアメリカは「決議は大統領の手を縛らない」と公言し、最終的な評価作業を経て、イラク側の「重大な違反」を宣告する――そして対イラク先制攻撃に踏み切るという選択肢を既定のものとして推し進めているのである。

<<流行するシナリオ分析>>
 いまや開戦Xデーがさまざまに取り沙汰されている。12月開戦説さえ出てはいるが、最も有力視されているのが1月中、とりわけ1月17日が’91年湾岸戦争の開始日であり、「サダム(フセイン・イラク大統領)を倒せず、自らが倒された(再選を阻まれた)」父ブッシュの怨念が込められた日である。3月になればイラクの砂漠の気温は急上昇し、4月以降は砂嵐が吹き荒れ、侵攻作戦の柱であるヘリコプター作戦が不可能になるおそれもあり、遅くとも2月中には開戦というわけである。まったく得手勝手なものである。ブッシュ大統領はこうして、冷戦体制崩壊後、唯一の超大国となった米帝国の威信と怨念を賭けた、無謀と危険極まりない狂気の戦争行為に踏み出そうとしており、これは、対アフガン・タリバン戦争以上に何の「大儀」もない、「ならず者超大国」の武力行使である。
 しかもイラクは、サウジアラビアに次ぐ世界第2位の原油生産国であり、イスラエル、パレスチナ、イランを結ぶ一触即発の火薬庫の線上に位置し、アフガニスタン以上の人口密集都市をかかえている。バグダッドの人口は約500万人、第2の都市モスルで約250万人の人々が生活している。こうした都市への爆撃はアフガニスタン以上の計り知れない悲劇と被害、荒廃を生み出すことになるだろう。
 予測しがたい事態に、アメリカではさまざまなシナリオ分析が流行しているという。米議会予算局の予測によれば、対イラク戦が数カ月続いた場合の財政負担は毎月60億~130億ドル。ワシントンの戦略国際問題研究所の、一つ目の「幸運なシナリオ」によれば、アメリカは短期間で戦いに勝ち、イラク軍の大半は降伏または逃走する。この場合、不透明感が払拭されて、アメリカの経済指標は戦争をしない場合よりも上向く、という。二つ目の「中間シナリオ」では、戦闘期間は最長3カ月。イラクが湾岸諸国の油田に多少の打撃を与えるという想定のため、石油価格は来年前半までに現在の1バレル約25ドルから42ドルにまで上昇する。第三の「最悪のシナリオ」では、イラクが近隣諸国の油田に大打撃を与えるため、産油量が1日500万バレル以上も激減。石油価格は1バレル80ドルに高騰する。激しい市街戦が展開されるせいで、米国内では反戦運動が活発化し、中東諸国では社会不安が拡大する。アメリカの失業率は現在5.7%だが、「中間シナリオ」では約6.5%、最悪のシナリオでは7.5%まで上昇する見通しだという。しかしこの程度の予測で済ませられるものであろうか。たとえ「幸運なシナリオ」であったとしても、政治・経済に与える影響は重くのしかかり、世界的経済不況をいっそう促進させ、中東地域全体を不安定化させ、緊張と紛争、テロの温床をさらに増大させるものだといえよう。現実はさらに複雑であり、戦争のツケは、巨大なしっぺ返しとなって「超大国」自身に跳ね返ってくるであろう。
<<「大変な優れもの」>>
 日本政府は、12/4、こうした危険なシナリオに符牒を合わせるかのように、インド洋へのイージス艦派遣に踏み切る方針を決定した。派遣の理由は、1、イージス艦以外に司令部機能を持つ護衛艦は4隻しかなくローテーションがきつい、2、派遣部隊の安全確保と隊員の負担を軽減する、3、居住性が高い、というものである。これを受けてただちに日本が保有するイージス艦「きりしま」が12/16、横須賀港を出港する予定である。
 おりしも、12/9、来日中のアーミテージ米国務副長官は、小泉首相との会談後の記者団へのコメントで、「(小泉、福田と)きわめてよい会談ができた。・・・日本はアジアでもっとも重要な同盟国であり、イラクに関する現状と査察に関する今後の計画の双方について、我々の考え方を理解していただく価値のある国であるから、(イラクに関する我々の考え方を完全に)説明するために、私はブッシュ大統領に派遣されたのだ」と述べ、さらに「インド洋にイージス艦を派遣するという、我々の考えではとてもよい適切な決定をされたことに対して、私は、米国政府よりの謝意をあらためて表明させていただいた」と、満足の意を表明している。明らかにイラク攻撃支援を前提としたイージス艦派遣が急遽決定されたわけである。
 あの核武装容認発言をした今年5/13の早稲田大学での講演の中で、安倍官房副長官は、「イージス艦というのは、アメリカと日本しか持っていない大変な優れものでございます。地平線を越えてレーダーを飛ばすことができますから。極めて大きな範囲をカバーできる。 その地域を飛んでいる飛行機とか飛行物体、あるいは船舶をただちに識別をして攻撃が可能というものでございます。これ1隻1200億円もするわけです。それを4隻もっている。こういうみなさんの税金を使っている以上、当然機能的に活用するというのが、我々政治家が納税者に対しての義務ではないか、こう思います」と、あけすけに語っている。

<<「機能的に活用する」>>
 「機能的に活用するのが、納税者に対しての義務」であるとは、よくもぬけぬけと言ったものである。今回の派遣決定で彼はほくそえんでいることであろう。そして核兵器を持てばこれまた「機能的に活用する」のであろう。危険な政治家である。問題は、この官房副長官が言うように、イージス艦は単なる情報収集艦ではなく、航空機から潜水艦まであらゆる標的に対する探知能力が格段にすぐれた高度な防空システムを搭載し、300キロ以上の範囲で、同時に最大約200個の目標をキャッチするレーダーと、12個以上の目標に対応できる射程100キロを超す迎撃用ミサイルを搭載し、多数の目標への同時・連続攻撃が可能な、攻撃型の艦隊防空用ミサイル護衛艦なのである。しかも、官房副長官はわざと触れてはいないが、収集した情報は、米軍とデータリンク・システムで結ばれ、自動的に流され、双方が軍事情報を共有し、共同対処・共同作戦が展開される。これでは明らかに憲法が禁止する集団的自衛権の行使そのものであろう。
 こうした危惧があればこそ、このように危険なイージス艦の派遣はこれまで果たすに果たせず、却下されてきたのである。そしてつい先月の11月のテロ特措法に基づく対米支援活動再延長の際にも派遣が見送られたのであった。ところが、それから約2週間での突然の派遣決定である。国会での議決もない、ただ単なる「実施要綱」での派遣決定である。切迫するアメリカ側のイラク攻撃態勢と小泉政権の思惑が一致した結果といえよう。
 この決定の意味することは、「自衛」どころか、先制攻撃に自ら参加するということの表明であり、しかもこの時期、国連決議に基づいた対イラク査察行動が行われている最中にこうした戦艦を派遣することは、国連軽視そのものであり、査察活動を軽視ないしは無視した行動であるということである。もちろん、国連に要請された、国連憲章に基づいた平和維持活動でもなければ、安保理決議に基づいた共同行動でもない、単なるアメリカ一国の要請に基づいた無謀で一方的な先制攻撃への「加担」でしかない。
 小泉内閣は、いよいよ危険な道に踏み出してしまったといえよう。
(生駒 敬)

 【出典】 アサート No.301 2002年12月21日

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