【投稿】日本の新型コロナウイルスの強制隔離は「こうしてはいけない」という教科書に載る見本

【投稿】日本の新型コロナウイルスの強制隔離は「こうしてはいけない」という教科書に載る見本
                            福井 杉本達也

1 米国人退避―日本政府のクルーズ船の強制隔離政策に愛想をつかす
 共同通信によると「在日米大使館は15日、米国務省が新型コロナウイルスによる肺炎を巡り、横浜港に停泊するクルーズ船『ダイヤモンド・プリンセス』から米国人乗客らをチャーター機で帰国させると発表した。チャーター機は16日夕に日本に到着し、米国人はバスで移動する。日本政府当局者は、17日に羽田空港から出発する予定だと明らかにした。世界保健機関(WHO)は中国国外での感染拡大は同船だけに『劇的な増加』が見られると指摘。米国内では船内に乗客乗員を待機させ続ける日本政府の対応を疑問視する声が高まっており、米政府は早期の帰国が必要と判断したとみられる。」(2020.2.15)
クルーズ船という医療施設もなく、感染症対策も不十分な狭い空間に、3,700人もの乗客・乗員を他の人々より感染リスクは高いという理由だけで、2週間も監禁することは、最も不合理的であり・人権無視を甚だしい。既に、カンボジアでは日本が寄港を拒否し2週間海上をさまよったクルーズ船「ウエステルダム」の乗客の下船を開始した。また、イタリアはわずか12時間で乗客の下船を認めている。日本だけが時代錯誤的に、「水際作戦」と称して、巨大な動く国際都市ともいうべきクルーズ船の訳のわからない強制隔離政策に突っ込んでしまった。国際的な大非難を受けたことは至極当然である。国内的には強権や官僚の忖度で押さえつけていた安倍政権も、その無能さを国際的に晒してしまった。

2 「トランプ、私たちを助けて」―「こうしてはいけない」という教科書に載る見本
 1週間以上も前から、クルーズ船に監禁された米国の新婚カップルは“Donald Trump, save us”(ドナルド・トランプ、私たちを助けて) 、”Get us a government-based airplane. Get us off the ship,”(私たちのために政府チャーター機を用意して。私たちをこの船から降ろして)とツイートしていた。アメリカの有力紙ニューヨーク・タイムズ紙は専門家の見方として、「公衆の衛生に関わる危機について、『こうしてはいけない』と教科書に載る見本だ」と伝えた。ニューヨーク・タイムズ紙は、日本政府の広報の仕方について「信頼を低下させた」とした上で、「すでに汚染されたクルーズ船にこれほど多くの人を閉じ込めておく以外に他の手段があったのではないかと思わせる」と批判した。
 また、台湾人の男性は蔡英文総統宛てに書いた手紙を公開。「太陽の光も新鮮な空気もない個室で多くは望みません。先に父を外に出してください」とつづった。別の男性も蔡総統への手紙を記し、自身は障害者だとして救出を求めた。
ロシアのザハロワ報道官は「ロシア・ラジオ」の番組内でコメントし、「正直言って、日本政府は我々が期待していたイノベーションの奇跡を発揮しなかった」と所感を述べたうえで、日本政府の対応は「カオスで無秩序、大いに疑問がある」として(Sputnik:2020.2.11)、日本政府の対応を酷評した。
 米紙ワシントン・ポストによると、船でコックとして働くインド人男性は「なぜ乗客のように乗員を離さないのか」と述べた。乗員の多くは2~4人の相部屋で、食器や食事のスペ ース、トイレを共用。コックが調理した食事が客室の乗客に運ばれる。体調不良の乗員がいるが検査をしたかどうか分からないという。乗員全員の検査を求める声も上がっており、別のインド人乗員は「船内に閉じ込められ、生きて帰れるのか分からない」と恐怖を訴え、下船を求めた。同紙は、船内に全員をとどめる現在の対応では健康な乗客乗員を感染者に接触させる恐れがあり、感染の拡大防止には効果的でないと指摘する専門家の意見を紹介した(東京新聞:2020.2.13)。
 世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は12日、ジュネーブで記者会見し、肺炎を引き起こす新型コロナウイルスの感染拡大を恐れてクルーズ船の入港拒否が相次いでいることについて「エビデンス(根拠)に基づくリスク評価がされていないことが多い」と批判した。その上で、WHO憲章が定める国際保健規則にのっとり、船舶や乗員乗客を適切に扱うことを各国に求める声明を出すことを明らかにしている(時事:2020.2.13)。
日本政府が現在もなお「検疫法」に基づく「水際対策」としての「検疫」に固執しているが、上昌弘医療ガバナンス研究所理事長によれば、1347年の黒死病(ペスト)大流行以来、疫病がオリエントから来た船より広がることに気づいたヴェネツィア共和国が、船内に感染者がいないことを確認するため、疫病の潜伏期間に等しい40日間、疑わしい船をヴェネツィアやラグーサ港外に強制的に停泊させたことに始まるということである(文春オンライン:2020.2.13)。それを日本も幕末の開国以降に採用したものであるが、日本だけでも日本人の海外旅行と訪日外国人の合計で年間5,000万人が航空機で飛び交うグローバル化社会となった現在でもなお採用し続けるというのは時代錯誤も甚だしいものである。

3 パンクしつつある「感染症病床」と救急医療体制
 新型コロナウイルスは第二種感染症に分類される。日本国内における感染症病床は約400の指定医療機関に1,871床ある。1医療機関で4床程度であり、ちなみに福井県の感染症病床は6医療機関で、計18床となっている。茨城県は全部で46床あるが、このうち8床がクルーズ船の感染者で埋まってしまった。既に関東圏の感染症病床だけでは足りず、福島県や長野県でもクルーズ船の感染者を受け入れざるを得なくなってきており、2月15日現在、クルーズ船の感染者は285人となっており、「感染症病床」は完全に物理的な限界に近づいている。しかも、感染者をヘリなどの航空機で福島県や長野県などの遠くの医療機関に運ぶわけにもいかず、十数時間もかけて救急車で運ぶという、当初はほとんど考えていなかったような荒業で行っている。本来は30分圏内で発生した感染症患者を収容するために感染症病床が設けられたものである。重症患者なら十数時間も救急車に乗せられていれば死んでしまう。こうした中で、15日には横浜市消防局の救急隊員が感染したという報告もされている。厚労省は11日に「『感染症病床』だけでなく、一般病床での入院も認める」との通知を出したが、わが国の感染症対策はほぼ崩壊しつつあるといえる。横浜市消防局も全国での屈指の消防局であるが、このままでは救急体制の崩壊も免れない。

4 ついに院内感染―和歌山県済生会有田病院
 和歌山県は2月15日に「13日に陽性と判明した医師と同僚の医師、その濃厚接触者及び1例目の医師が勤務する医療機関に入院中の患者の計3名が陽性であることが判明しました。これで、県内で新型コロナウィルス感染者が確認されたのは5人となりました。」と、済生会有田病院で新型コロナウイルスの院内感染の疑いがあるとの発表を行った。これを受け、同病院では「当面の間、感染防止のため外来の診察を停止させていただきます。救急的対応や薬の処方に関しては医事課までご相談ください。」また、「当面の間、当院では、面会を休止させていただきます」との広報を行った。同病院は病床数184床・他に介護老人保健施設などもかかえている地域の中核病院であり、同病院が閉鎖となれば有田地区の75,000人の人口を抱える二次医療圏は崩壊である。

5 「水際作戦」の泥沼からいかに撤退するか―インパール作戦とならない為に
 上昌弘氏によれば、国立感染症研究所は、2008年に首都圏の鉄道に1人の新型インフルエンザ感染者が乗れば、5日目に700人、10日目には12万人に拡大すると予想している。こうなると「水際対策」など何の意味もない。ここ数日で、東京、北海道、愛知、千葉などで相次いで感染者が“発掘”されたのは、既に新型コロナウイルスが日本で流行していことの証である。それは、厚労省が先の一般病床を認める通知と同時に、感染が強く疑われる場合は、国の検査基準に該当しなくても自治体の判断で柔軟にウイルス検査するよう求める通知を出したからである(日経:2020.2.12)。そこで、各県・医療機関で検査したところあちこちで感染者が“発掘”されただけである。加藤勝信厚生労働相のように「『国内で流行、まん延している状態では ないという従来の見解を変更する根拠はない』として、現時点での 国内流行を認めていない」(福井:2020.2.15)、などと言っていると、済生会有田病院のような院内感染があちこちで発生し、それこそ国内の医療体制は崩壊してしまう。クルーズ船の「検疫」というばかげたインパール作戦(第二次世界大戦中の日本軍のビルマからインド東部への無謀な作戦)から即時撤退し、日本の医療体制が「白骨街道」とならないような体制を構築すべきである。
 日本の厚労省官僚は「疫学」に関する考え方が弱い。というか、水俣病にみられるように「疫学」に関するエビデンスを意識して無視し、チッソよりの姿勢を貫いてきた歴史がある。それはまた、福島第一原発における甲状腺がん検診結果の評価にも貫かれている。「疫学」的に考えれば、閉鎖空間のクルーズ船という巨大人口密集都市に突っ込めばどうなるかは始めから想像がつくはずである。それを、医学的エビデンスを無視して、盲目的に突撃することで大きな悲劇が生まれてきているのである。「疫学」的には、感染防止策として、中国からの帰国者の隔離に加えて、中国を訪れたことがある外国人の入国を禁じる措置は、WHOや専門家からは、「何らの移動や交易の制限」に効果はないと疑問の声が上がっている。感染拡大を止める効果がほとんどなく、むしろデメリットのほうが大きいと考えられる。現段階で、発生源の中国政府の初期対応を批判しても何の益もない。日本よりも中国の方がエビデンスに基づいた対応をしっかりと行っている。中国の初期対応への評価は感染症が収束してから行えばよい。日本政府は医療体制が「白骨街道」化しないよう、早く政策転換を図るべきである。日本政府を無視した米国人救出作戦はそのことを示している。今後、国際的には安倍には誰も寄り付かないであろう。なにやら3.11の状況に似てきている。

カテゴリー: 医療・福祉, 新型コロナ関連, 杉本執筆, 歴史 パーマリンク