<<「市中感染、必ず起きる」>>
2/25、ニューヨーク株式市場は、新型コロナウイルスによる肺炎の世界的な拡大・パンデミック危機への懸念から、前日に続き大幅に下落、ダウ平均株価が▲3.56%、1031ドル、ナスダックの下落率はそれ以上で、▲3.7%という大暴落となった。欧州もドイツの▲4.01%、イタリアに至っては▲5.43%の暴落、ストックス欧州600指数の終値は▲3.8%下落となった。東京株式市場も大幅に下落、下げ幅は▲4%を超える事態となった。韓国総合株価指数も▲3.87%の下落、アジア太平洋の株式市場も軒並み大幅に下落、タイ証券取引所のSET総合指数は▲3.98%下落している。
2/25のニューヨーク株式市場は、実は取引開始直後は、前日の1000ドルを超す急落の反動で上昇していたが、買いが一巡する
や、一挙に下げに転じたのであった。きっかけは、米疾病対策センター(CDC)が、新型肺炎の世界的な大流行「パンデミック」に備えるよう警告したことであった。同センターのナンシー・メッソニエ国立予防接種・呼吸器疾患センター(NCIRD)所長が、記者団との会見で、「米国内で市中感染が起きると予想している」、「起きるか起きないかという問題ではなく、いつ起きるかの問題だ。必ず起きる」と強調したのであった。トランプ大統領は25日、このCDCの注意喚起に先立ち、新型ウイルスの米国内の感染拡大リスクは小さいとの見解を示し、「米国内では非常によく封じ込まれている」と発言していたが、市場は大統領の楽観論を無視、これまでの浮かれたような株高バブルが実体経済を反映しておらず、米総合購買担当者指数(PMI)の50割れなど、根底に流れるファンダメンタルズ・基礎的経済条件の悪化と直面するパンデミック危機が結びついた結果が、この暴落を招いたと言えよう。「空気」が一変し、世界同時株安へと一挙に波及したのである。反転・揺り戻しがあったとしても、事態は楽観できないと言えよう。
この結びつきの厄介なことは、たとえFRB(米連邦準備制度)=中央銀行が低い金利をさらに引き下げたり、マイナス金利を導入して金融市場に流動性資金を大量に供給したとしても、パンデミック危機への進行は、病原菌の拡散という明らかに別要因であり、金融市場操作のようには対処できないことである。
しかも経済のグローバル化によって、中国経済の果たす役割が決定的に高まり、パンデミック危機が製造業基地としての中国、巨大な消費市場としての中国に依存してきた世界のサプライチェーンを大きく損ない、人とモノの交流がグローバルに拡大した結果として病原菌もグローバルに拡散し、結果としてその人とモノの交流が遮断され、実体経済に大きな損失をもたらす可能性が否定しえない局面に直面していることである。まさにパンデミック危機と経済危機の結合が進行していると言えよう。
<<「官状病毒」>>
そして問題は、この新型コロナウィルス感染がいよいよ世界的規模での拡大に進行していることである。今やアジアのみならず、欧州や中東でも感染が広がっており、イタリアでは少なくとも6人が死亡、新たな感染者229人が報告され、金融の中心地・ミラノの一部と同市を州都とする工業地域のロンバルディア州およびベネト州が事実上封鎖されている。スペインとオーストリアでも感染症例が報告されている。イランでも「公式」死者数は14人に達し、66人の感染症例が確認され、14の州が学校と大学を閉鎖している。 こうした事例は今後ともさらにグローバルに広がるであろう。
アメリカのCDCの発表では、2/21現在の感染者数は35人とされているが、CDCの職員は、ショートメールの中で「実態は、発表情報よりも深刻だ」と述べ、「米国ではすでに患者が1000人以上出ている。CDCでは32州に感染者がいると疑っている」「ニューヨーク州バッファローからは、公表していない新型コロナウイルス感染者が6人いると報告されている」「彼ら(CDC)が不透明なため、状況はさらに悪化する」と述べている。
ここで問題なのは、ウィルス感染をできる限り隠蔽し、不透明化し、過小評価する、当然なされるべき緊急対策を実行しない、あるいは遅延させる当局・権力者側の意向である。このウィルス感染の場合、未確認の事例や症状が軽い事例、感染していても検査がなされず放置される事例、感染していても症状が現れてはいない事例、感染していても他の症状として報告されなかった事例、等々は当然含まれないし、今回のように潜伏期間が長い、あるいは無症状期間まであることから、相当多数の発症が限りなく隠蔽されていることである。CDCの内部情報はその端的な証左と言えよう。
そして安倍政権の対応はまさしくこの典型的な事例となった。クルーズ船ダイヤモンド・プリンセスに対する対応は最悪であり、日本が各国から「新たな震源地となった」「新型ウイルスの培養器」と批判されて当然な事態を自ら招いているのである。
しかもこの期に及んでも、感染を確認するウィルス検査の拡大をまであくまでも拒否しているのである。TBS「NEWS23」に出演した上昌弘・医療ガバナンス研究所理事長は、この検査の「異様な少なさ」を指摘し、「PCR検査というのは古い検査で実は非常に簡単。ウィルス感染を診断するのに必須の検査でもある。韓国と比べてここまで少ないというのは何かウラがあるというのか・・・。厚生労働省がよほど(検査を)やりやくないのだなあと。そういうニュアンスを感じます」「どうしてこんなに入院を要する肺炎まで待たなきゃいけないのか。これはもう医療倫理にかかわる問題だと思います。ちょっと私は常識ではありえないと思います。」という、言語道断な事態を指摘されているのである。
2/18付け中国共産党機関紙・人民日報一面下段の評論員の論説の見出しは「警戒冠状病毒也要警戒❝官状病毒❞」である。「冠状病毒」=コロナウィルスに警戒するとともに、「官状病毒」にも警戒しなければならない、と訴えている。コロナウィルスに対する戦いにおいて、官僚・権力者の病毒こそが問題であることをはしなくも指摘したものと言えよう。事態を隠蔽、病毒を拡散する「官状病毒」は、情報公開と透明性を忌み嫌い、上からの指令・指示待ち、上にのみ責任を負う、下からの民主的コントロールを排除する病毒である。安倍政権の「官状病毒」も、今や「病膏肓に至れり」、病がひどく治療しようもない事態と言えよう。
根本的な民主主義の欠落が、このパンデミック危機においても問われているのである。
(生駒 敬)