【投稿】混乱する「ガイドライン論議」

【投稿】混乱する「ガイドライン論議」

 核兵器、ミサイル開発疑惑で米朝協議が難航するなか、アメリカの核関連施設への先制攻撃や、第2次朝鮮戦争の危険性が取り沙汰されている。
 戦争を回避し、平和裡な交渉で事態の打開をめざすのは当然であるが、一方で最悪の事態に対する準備を進めることも必要であり、両者は何ら矛盾するものではない。
 そのために「新ガイドライン」の問題が浮上してきたわけであり、国会で、「ガイドライン関連法案」の論議が行なわれているが、特別委員会の設置もできないままとなっている。
 これまでの国会での論議を見る限り、「周辺事態」の定義を巡る論議に象徴される様に、要領を得ない人間が、要領の得ない質問、答弁を繰り返しており、このままでは今後、「特別委員会」設置されたとしても、国民にとって訳が判らないままに、事態が進みかねない状況がある。
 その要因は小渕総理を代表とする国会議員の認識不足と、あまりに抽象的な「周辺事態」像と、具体的な個々の協力内容が交錯し、整合性に欠ける論議が行なわれている事、さらに混乱に輪をかける様にマスコミが、想像、思い込みで、あり得もしな事態が起こるかの様に、煽り立てるためである。
 いくつか例を挙げると、まずガイドラインの論議の前に、国連の平和維持活動(PKO)の論議を持ち出したことがある。
 PKF本体業務への参加凍結解除と言う一般的な課題は、差し迫った問題ではないのだから、ガイドライン論議を先行させるべきであった。
 ところが、自自連立という党利党略を優先させたため、「内戦」や「戦後処理」に関する任務を遂行するPKFの活動が、「周辺事態」における協力であるかの様な誤解を与えた。
 次に「周辺」「事態」に関する論議も、地理的概念をベースに事態のランクによって整理されるのが当然で、例えば台湾空域で、中国軍機と台湾軍機が交戦した場合でも、それが1~2機の場合と、数十機の場合とでは、「周辺事態」かどうかの判断が違ってくるのは当たり前である(発生確率的には「周辺事態」は「第2次朝鮮戦争」であり、中・台戦争ではない)。
 それを中国への刺激を避けるため、「地理的概念ではない」と説明するものだから、矛盾が生じて、「朝令暮改」の様相を呈するのだ。
 また野党、とりわけ民主党も自らのスタンスが曖昧なものだから内容を整理して、「この点はこうすべきではないのか」と詰め寄るのではなく、ただ与党の見解の相違をつくことに終始したのは無責任のそしりを免れない。
 さらに、米ソ冷戦時代の遺物である「有事法制」を、一部の政治家や「制服」サイドが持ち出し、悪のりしたマスコミが「地権者の許可が無ければ自衛隊は陣地も作れない」「道路交通法で戦車も走れない」と書き立てている。
 そもそも、「新ガイドライン」とは、米ソ対決を前提とした日米安保が、冷戦崩壊で情勢にそぐわなくなったのを改定しようという話であるのに、ソ連軍の日本上陸を想定した、日本国内での「陣地構築」や戦車の作戦行動を持ち出すのは、現在の論議と全くズレているし、自衛隊法の不備を補うのではなく、文民統制を否定しようとする意図が見え隠れするのである。
 また、ガイドラインの内容とは直接関係はないが、「周辺事態」が発生すれば「大量の難民が日本に押し寄せる」と言うのもナンセンスである。難民は、飢餓や内乱で発生する。すなわち支持を失った政府や、国内の敵対勢力から逃れるために、国を捨てる「遠心力」的な現象である。しかし対外戦争の場合は「求心力」が極限まで高まる事態である。逆に言うなら「敵に向かって誰が逃げるのか」と言う事である。
 そんな事態が発生するなら、平時の今こそとっくに飢餓の北朝鮮から難民が押し寄せてなくてはならないが、日本に漂着するのは無残な死体だけではないか。
 以上述べた様に、ガイドラインについては、本質的な部分以外の、瑣末な問題で混乱、消耗する嫌いがある。
 冒頭指摘した様に、全体像を明らかにするとともに、「基本計画」の内容をさらに踏み込んで体系的に、できれば、時系列的、数量的に整理して、可能な限りオープンにしながら、国民の判断を仰がなくてはならない。
 その意味で、「アメリカの先制攻撃に協力するのか」と最も分かりやすい論議を提供しているのは、皮肉にも日本共産党である。

「周辺事態」のアウトライン

 私も11月号の「テポドンが落ちる日」で、第2次朝鮮戦争の発端をアメリカ軍の先制攻撃と想定した。
 ただ違うのは、共産党は米朝協議決裂後の核関連施設への先制攻撃を想定しているのに対し、私は非武装地帯への兵力集中など、北朝鮮が開戦準備を完了したという、物理的な兆候を判断したうえでの、ミサイル基地への先制攻撃を想定している(もちろん同時に核関連施設への攻撃もあり得る)事である。
 前者については、起こり得る可能性は否定しきれないことは事実である。ただ、それだけでは連続的に第2次朝鮮戦争には発展しないというのが私の考えである。
 戦争準備が整っていない段階での限定的な攻撃に対し、政治的、軍事的な意味で直ちに全面的な反撃が不可能なのは、昨年末のイラク攻撃でも明かである。
 その後の選択として、北朝鮮が全面的な戦争準備を進めるか、テロなどの限定的な報復を仕掛けるかは、それとも政治交渉を再開するかは、断定できない。
 これに対して後者は、もう戦争準備は完了しているので、アメリカの攻撃があれば、連続的に即時に、大規模な衝突に発展するという状況である。
 こうした事態が、前者を経て惹起するか、それなしに進行するかは判らない。ただ、核関連施設への攻撃が必ずしも「周辺事態」を意味しないと言うことは、認識しなくてはならない。
 現在のところ第2次朝鮮戦争勃発の可能性は低いと思われるが、仮定として話を進めよう。第2次朝鮮戦争はどの様な段階を経るにせよ、北朝鮮軍の休戦ライン突破から本格化する。
 開戦直後の山は、ソウルを巡る攻防である。北朝鮮軍のソウル奪取が阻止できたなら、米韓連合軍(多国籍軍の可能性もある)の本格的反抗が始まる。
 日本が本格的な支援を求められるのはこれ以降となる。主要には①機雷掃海②武器、弾薬、燃料、食糧の輸送③捜索、救難等である。 これらを具体的に検証するとこうした支援内容は、「後方支援です」と政府の言うほど単純ではないことがわかる。
 機雷掃海は、公海上のものはさして問題になならず、「連合軍」の上陸予定地近海(元山)や補給拠点港(釜山)付近に敷設された機雷が対象となる。こうした場所に海上自衛隊の掃海艇を単独で行かせる訳にはならず、米軍や護衛艦がつくとしても、北朝鮮の攻撃を受ける可能性がある。
 また政府は、輸送任務にしても、「公海上での米軍艦艇への物資補給」などを挙げているが、狭い海域でロスの大きい洋上補給などやってられないだろう。現実には自衛隊の輸送艦が日本海を突っ切って釜山や元山まで行くことになるが、やはり攻撃を受ける可能性は否定できない。
 捜索、救難とは、脱出した米軍機のパイロットや、撃沈された艦艇の乗員を助けにいくことである。この場合、どの地域であれ、そこは直前に戦闘が行なわれた地域であり、再度交戦が行なわれる危険性がある。
 これらの場合確かに「米軍の武力行使と一体化」するものではないし、攻撃を受けた自衛隊が反撃するのは、自衛権の問題となってくる。
 そうなれば、まさに「日本の戦争」になるのであるが、そのまま日本がいわゆる戦場になるわけではない。
 この間日本本土では、西日本の空港、港湾の使用制限が行なわれるため、関係自治体の協力と一般市民の旅行の自粛程度は求められるだろうが、昭和天皇のXデー前後の自粛ほど、日常生活に大きな変化は起こらないだろう。
 「テポドン」「ノドン」の問題については、11月号でも述べたが、現時点では湾岸戦争時、毎夜「スカッド」の攻撃を受けたイスラエルの様な事態になるとは想定されず、大した脅威にはならないだろう。
 ただ、本土で注意すべきは基地や原発に対するテロ攻撃である。これについては開戦前から、警戒しなくてはならないのは事実であるし、周辺地域では、夜間外出の差し控え等で、多少の不便は被るだろう。
 戦争自体は、休戦ラインや、朝鮮半島の東西から進攻した「連合軍」が、平壤を制圧すれば収束に向かうが、日本にとって本当に大変なのは、戦争が終わってからである。
 いずれにしても、「周辺事態」の具体的なイメージ無しに、「空中戦」を演じても、時間の浪費に終わるだけであり、国民に対する政治の責任を果たしたことにはならない。
 共産党や社民党は別として、各党が安全保障に関し、基本的な認識と枠組みで一致して、論議を進める限りは「周辺事態」の様相をも共有し、何をすべきかを明らかにしていかねばならないのである。
 そして、今は「周辺」の環境の変化に対応するため、とりあえずガイドラインだけの論議が進められているが、これはあくまで緊急避難的なものであり、安全保障政策を全面的にカバーするものではない。
 したがって、今後は日米安保そのもの、国内法である自衛隊法、さらには憲法の見直しも、積極的に進めていく必要があるだろう。(大阪 O)

 【出典】 アサート No.255 1999年2月20日

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