【投稿】ユーロ誕生雑感
明るいニュースが少ない中で、1月1日のユーロ誕生は久々に未来への明るい展望を垣間見たような、興奮するニュースだった。ユーロの誕生は、現在の世界の唯一の基軸通貨であるドルに対抗し、アメリカの一人勝ちという世界の経済地図を塗り替える可能性を持っているわけだが、このことの経済的な評価は生駒さんにまかせるとして、このニュースの様々な報道を見ていて私は「なるほど」と二つのことに感心した。一つは、「ユーロ」誕生の背景にあるヨーロッパの思想であり、もう一つは現実に「ユーロ」を生み出したヨーロッパの人々の「構想力」についてである。
金融ビッグバンやヘッジファンドによるマネーゲームを見ていると「ドル」が体現している思想は、まさに資本主義そのものの、「弱肉強食」の「競争」そのものではないかとつくづく思う。これに対し、「ユーロ」の背景には、「連帯」があると言う。「ユーロ」誕生の背景には、常に戦火にみまわれ続けたヨーロッパの不幸な歴史があり、統一通貨、統一経済圏の形成はこのような戦争の可能性をできるだけ減らす効果があるだろう。一方で、ヨーロッパのそれぞれの国には長い歴史によって築かれた豊かで多様な文化がある。この多様性を大切にしながら、統一を達成するのはまさに「連帯」だとヨーロッパの指導者達は言っている。
また、これは、連合大阪の新春の集いで前川会長が挨拶で述べていたことだが、ヨーロッパの統一市場、統一通貨への努力はECの結成以来40年以上にわたって続けられてきた。最初は、本当に理想論から出発し、誰もそんなことが実現できるとは本気で思っていなかったかもしれない。まして、その間、各国の政権は次々と変わり、ベルリンの壁の崩壊など大きな国際情勢の変化もあった。にもかかわらず、参加各国は不動の目標を目指して努力を積み重ね、この夢のような「大構想」を実現した。そして、この構想が実現した時には、参加国のほとんどに社民政権が誕生しているというのも意義深い。
現在の日本本の政治、自治体の行政、そして労働組合にもこのような「連帯の思想」と「壮大な構想力」が求められているのではないだろうか。 (若松一郎)
【出典】 アサート No.254 1999年1月25日