【投稿】公的資本注入論議の盲点
■増額査定のくれてやり方式
金融再生委員会は、2/12、昨年98/3に引き続く、二度目の公的資本注入の仮決定を発表した。昨年の21行、1兆8000億円から、今回は15行、金額は4倍以上の計7兆4500億円もの公的資本注入である。各行が提出する「経営健全化計画」の最終的な内容を見極めた上で、3/10をめどに正式決定するという。昨年と同様、今回も申請全銀行が合格審査でパスし、しかも当初の銀行側の申請額は合計5兆円に満たなかったのに、無理やり増額査定のくれてやり方式で2兆7200億円も上積みしたのである。
とりわけ問題なのは、すでに信託、長信銀と都市銀行との垣根が取り払われ、その役目が終わったと言われる信託銀行6行(安田信託は富士の子会社化)への資本注入である「生き残れる」信託はせいぜい2社といわれ、いずれも格付けも株価も最低ラインを低迷、自己資本比率も悪く、いつ行き詰まってもおかしくはない状態の各行に一律2000億円以上、三井信託には2500億円も上積みして3500億円も注入しようとしている。この三井信託、すでに「日債銀の次か」とささやかれており、来年4月の中央信託との合併を発表したのも束の間、長銀、日債銀と全く瓜二つの不良債権飛ばし、ペーパーカンパニーのダミー会社への不良債権移し替えが続々と発覚している。このままでは、失敗した昨年春の資本注入の二の舞を演じかねない事態である。
■承知していたが、中立的な立場だった
実はこの間題、昨年3月の一律横並び資本注入で、金融不安の抑制どころか、かえって銀行の財務実態への疑念、不良債権隠し、公的資金の騙し取りへの疑惑を深め、その後の長銀、日債銀の連続破綻をもたらした、あの構図が何らの反省もなされていないことと深く絡んでいるといえよう。それどころか、大蔵・日銀・政府自民党の意図的隠蔽工作が国会審議の場でさらけ出されても、それらが深く追及されることもなく、臆面もなくまかり通っているという情けない実態である。
2/12の衆院予算委員会で、97年春の日債銀(日本債券信用銀行)に対する救済をめぐって、当時大蔵省が「奉加帳方式」で日銀や34の民間金融機関に対して出資を引き出すために、日債銀の不良債権は「7000億円」、「日債銀は再建可能」と説明していた問題が取り上げられた(民主党・仙谷議員)。
当時大蔵省が実施した日債銀への緊急検査の結果(97年春)、第三分類額(回収懸念債権)が実際は1兆1212億円で実質的に債務超過状態であった。ところがこの事実が明らかにされたのは、昨年12/13の日債銀を一時国有化するという金融監督庁の記者会見の場であった。実に1年半以上にわたって意図的に隠しつづけられてきたのである。
この間題を追及された日野・金融監督庁長官は、「7000億円は日債銀が勝手に、自分達の感触として出した数字が一人歩ぎした」と無責任極まる答弁をし、中井・大蔵省銀行局審議官らが「日債銀は再建可能、純投資対象としても、いい話だ」と説得に回っていた事実についても、大蔵省も金融監督庁もそうした要請をした事実を示す記録はないと逃げ回り、あげくの果てに日野長官は「日債銀に検査結果を示達したのは97/9。その前に7000億円という数字が流布していたのは大蔵省も承知していたが、それを否定しなかったのは、認めたわけではなく中立的な立場だった」と自ら共犯者であることを暴露する始末である。おまけに日銀から送り込まれていた日債銀の東郷頭取が、1兆1212億円という数字を知りながら、日銀には「第三分類は7000億円」と報告していたという。
98/11時点 99/2/12 上積み額
住友 4000 5000 1000
三和 6000 7000 1000
富士 5000 10000 5000
第一勧銀 5000 9000 4000
さくら 4000 8000 4000
東海 3000 6000 3000
あさひ 4000 5000 1000
大和 3000 4000 1000
日本興業 5000 6000 1000
三菱信託 2000 3000 1000
住友信託 2000 2000 0
三井信託 1000 3500 2500
中央信託 1300 2000 700
東洋信託 2000 2000 0
横浜 0 2000 2000
15行計 4兆7300億円 7兆4500億円 2兆7200億円 (単位:億円)
■事実上の国有化
そこでさらに問題なのは、昨年の98/3、日債銀に600億円の公的資金注入を決めた金融危機管理審査委員会(佐々波委員会)にこうした債務超過の実態については「具体的には報告されなかった」(松田・預金保険機構理事長、2/12衆院予算委員会)という事実である。日野長官のいうように日債銀に検査結果を示したのがたとえ97/9であったとしても、それから半年以上も後の98/3に至ってもなお、これら関係者のすべてが実態を隠し、日債銀は「健全銀行」として公的資金の投入を決定し、実行したのである。当時の松永蔵相は「日債銀は債務超過ではない」と断言していたのである。彼らはすべて事実を知りながら意図的に公的資金を投入し、どぶに捨てられた資金に何の痛痒も責任も感じない犯罪者だと言えよう。徹底的にその犯罪性と責任が追及されるべきであろう。
今回は、早期健全化法をもとにまたもや「健全銀行」向けに25兆円の公的資金注入枠を用意した。こうして投入される公的資金が個々の銀行の資本金に占める割合は、富士銀行で59%、第一勧銀で実に64%、さくら57%、三和58%、中央信託は何と66%という事態になる。)優先株の制限により株主総会での議決権がないとはいえ、「事実上の国有銀行」、国有化であるともいえよう。)にもかかわらずそこには、情報開示も民主的管理も、第三者機関による公的監査体制も提起されていない。米金融当局は、通常でも大手主要銀行に対して、検査官を常駐させ、常駐検査官は、各種報告を求めるだけでなく、財務に関する行内会議などにも参加するという(1/17日経)。日本でもようやく、「再生委員会に期待されるのは、具体的な不良債権処理を前提に各行別の、監査役や財務部門への人員派遣を公的関与策として検討してはどうか」(同、日経「公的資金注入論議の盲点」)と提起されてき出した。
しかし逆に、金融再生委員会や金融監督庁は対象となる各行を三分類して優先株の配当負担に差をつけたり、個別申請額の増額を目的に圧力をかけたり、一方では公的資金の早期返済を求めず、ゼネコンへの借金棒引きの資金にまで公的資金を使える、市場売却も認める、金融界の新たな再編の動きに対しては公的資金の追加投人で支援していくといった新たな恋意的で保護主義的な裏取り引き的な裁量行政に乗り出そうとしている。これでは失敗した昨年の公的資金注入劇の二の舞いになることは明らかである。まずはその責付の徹底究明と断罪、情報開示から始めるべきであろう。 (生駒 敬)
【出典】 アサート No.255 1999年2月20日