【投稿】「自・自・公」路線と経済指標
<<ニューヨーク株価の変調>>
「もう落ちる、もう落ちる」と言われ続けながらも上昇を続けてきたニューヨーク株価も、いよいよ変調が現れてきたといえよう。今のところ5/13につけた1万1107ドルを最高値として、1万ドル台割れが焦点になりつつある。5/27にはNYダウ平均株価は前日比235ドルの全面安となり、1万466ドルへ急落、株、債券、ドルのトリプル安となった。その後再び持ち直していたが、6/11、またもや急落、前日比130ドル安、1万490ドル、再びトリプル安で、1ドル=117円のドル安円高となった。今回は大手ヘッジファンドのタイガー・マネジメントの危機説が浮上、顧客からの解約が相次ぎ、資金引き出しが噂され、「FRBが救済を検討する緊急会合を開いている」といった情報まで流れ、大揺れとなる事態をもたらしている。
このダウ平均株価、96年平均株価5742ドルから、99年1万1千ドル台まで急騰してきたのであるが、99年、今年に入ってからの急騰ぶりはバブルの絶頂を記録するかの勢いであった。今年、3/29に1万ドル台の大台を破って以来、わずかに24日という短期間で、5/3、ついに1万1千ドル台を突破している。これまでの1000ドル上昇に要した最短日数は85日(1997/2、6000ドル→7000ドル)である。実に3倍以上の猛スピードである。
ここには明らかに、株価上昇→キャピタルゲイン増加→消費・投資の拡大→株価上昇というバブル循環の過熱化が見て取れる。実体経済を無視した、債券と株式の間で資金がキャッチボールされている、いわゆる「過剰流動性相場」なのである。この過剰流動性は、新興諸国の金融危機で、日欧を中心とする海外の投資家が米国投資に方向転換したことによってさらに拡大されている。
<<FRB議長の「不健全」警告>>
しかしこれによって、昨年のアメリカの経常赤字は2330億ドルであったが、99年はこのまま行けば3500億ドルまで拡大する見込みである。これまではこの赤字を日本と欧州が主としてファイナンスしてきた。しかし日欧合計の経常黒字は2500億ドル程度である。このギャップは簡単には埋められるものではない。すでに米国は増え続ける経常赤字を補うために中南米投資を手控え、さらには引き揚げざるを得ないところに追い込まれようとしている。すでにNY株価の変調以来、ブラジルやアルゼンチンの株価が同時に下落、通貨切り下げ観測が出始め、南米市場が再び動揺し、世界経済撹乱の不安定要因として注視されつつある。
一方で、米経済の成長は、低金利と株価の高騰に支えられて、第1四半期のGDPは予想をはるかに上回る4.5%を記録(98年第4四半期は6%、98年年間成長率は4.3%)、11年ぶりの記録的な消費の上昇を示し、第1四半期の増加率は6.7%という高さである。しかし所得の根幹をなす労賃の上昇率に関しては、99年第一四半期は、当初の0.3%から0.7%に上方修正されたが、この上方修正された労賃上昇率でも、97年第三四半期以来の最低数字であるという。つまり、労働報酬は一貫して低く抑えられたままなのである。それでも「時給の上昇率が4月には0.2%だったのが、5月には0.4%上昇しており、金融市場ではこれをインフレの兆候と予測、懸念している」(6/7付けウォールストリート・ジャーナル)という、それほど危なかっしい曲がり角に来ているということであろう。
5/24、グリーンスパン米連邦準備理事会(FRB)議長が、「個人貯蓄率はマイナスなのに株高で人々は貯蓄が増えたと勘違いしている。現在の消費は、個人が保有する株価の上昇で強気になって消費を拡大する資産効果に支えられている。米国の個人貯蓄率が最近、可処分所得を消費が上回る状態のマイナスになっており、不健全である」、「これまで生産性の向上で、労働報酬の値上がりを抑えてきたが、それにも限度がある」と警告せざるを得ない状態である。
<<ジョブレス・リカバリーの可能性>>
米国の経常赤字とは逆に、日本の経常黒字は過去最高を記録している。98年度国際収支統計(大蔵省、5/17発表)によると、前年度比17.6%増の15兆2271億円の黒字を記録、過去最高を6年ぶりに更新している。輸出が4.5%減少したとはいえ、アジア向けが低迷したものの、欧米向けは増加、政府や財界の競争力弱体化論や高コスト構造論とは逆に「マクロ的には我が国産業の国際競争力は極めて強いといえるのではないか」(5/11日経)と指摘される実態である。一方、輸入は国内消費の低迷と原油価格の3割以上の下落を受けて、12.5%も減少、リストラ、コスト削減による輸出主導型のひずみがここにも如実に現れているといえよう。
さらに6/10、経企庁が発表した国民所得統計速報によると、99/1-3期の国内総生産(GDP)の実質成長率が前期比1.9%(年率7.9%)増と、6期ぶりにプラスに転じている。寄与度が最も高かったのは前期比10.3%増となった公共投資、その他は個人消費が1.2%増、設備投資が2.5%増である。公共事業の大盤振る舞いと、超低金利ならびに住宅ローン減税による住宅取得優遇策に支えられたものである。しかしこれらはいずれも5期連続にも及んできたマイナス成長の反動増であると同時に一時凌ぎの短期的性格を色濃く持ったものでもある。これらを持続させようとして計画されている5~10兆円にも及ぶさらなる補正予算は、国債の増発を余儀なくさせ、それは直ちに金利の上昇を招きかねないし、打ち出の小槌どころか逆に今後の増税と財政破綻をより一層鮮明にし、マイナス効果となる。企業が声高に叫ぶ「債務、設備、雇用」の過剰とそのリストラ策はこれからが本番である。最悪の失業率のもとでのジョブレス・リカバリー=「雇用なき回復」は、ドル垂れ流しの特権を持ったアメリカでは成立し得ても、日本ではさらに事態を悪化させるだけであろう。
<<「諸勝公明」>>
ここにきて、景気の上昇気運が垣間見えた今の内に懸案を一気に処理し、「GDP速報→補正予算処理などを名目にした会期延長あるいは臨時国会招集→衆議院解散・総選挙」という、経済指標が政局と直接連動する策動が急浮上している。
そうした動きと同時に進行しているのが、「自・自・公」政権誕生の策動である。野中官房長官が公明党に閣内協力を要請し、小渕首相も「参院で数が足りない以上、公明党の協力を得ないといけない。閣外もあるが、閣内に入ってもらえば一番いい」と表明、公明の入閣、内閣改造、党役員人事を行い、加藤前幹事長もその中に取り込んで、自民党の総裁選そのものを止めて、小渕政権の長期安定化を狙おうというものである。
すでに地域振興券以来、公明党は露骨に閣外協力を鮮明にしており、いわば自・自・公の「翼賛体制」のもと、問題法案がろくな審議もなしに、駆け足で次々と通っていく事態である。まさに公明さまさま、「諸勝公明」(6/15『エコノミスト』)である。
憲法違反が明々白々のガイドライン関連戦争法、組織犯罪対策3法、いずれも公明が慎重姿勢のポーズを見せ、つじつま合わせの修正案を提出、審議したとの形式だけ整えて強行可決するやり方である。この後には、国民総背番号制を目的とした住民基本台帳法改正、、憲法調査会設置のための国会法改正等が控えている。
当然、自由党は自公連携に危機感を持ち、自公だけで参院も過半数を超え、公明が入閣すれば自由党は御用済みとなる。すでに盗聴法、住民基本台帳法の修正などは、自由党抜きの自公で決められ、小沢党首は「自由党は政策の一致なしで公明党と連立を組むことはありえない」(6/13、京都での記者会見)と表明、「闘う政策集団」としてよりタカ派的政策を前面に出し、さらに公明が強力に反対している衆院比例区の50議席削減という自自連立の際の合意事項の実行を自民に迫っている。
公明にとっては小選挙区比例代表並立の現行選挙制度では惨敗必至で生き残れないとして、中選挙区制の復活、最低限都市部に二人区を作る、それまでは解散・総選挙は絶対に阻止することを自民に迫っている。自民は両者を使い分けながら事態を切り抜けようとしているわけである。
6/9、政府・自民党は、「日の丸・君が代」法制化法案を今国会に提出することを決定した。広島や長崎、沖縄などの創価学会の反発によって、公明党はこの法案への賛成から一転して慎重審議にに態度を変えていたのであるが、これも入閣条件の一つとして最終的には公明党の賛成を得られるとの見通しを持ったことを明らかにしている。
大阪では、卒業生を名乗る右翼男性が中学校長室に押し入り、日の丸の掲揚を要求して重傷を負わせるという事件が発生している。
盗聴法反対を続ける中村敦夫議員に対して「ハジキでやるぜ!」という脅迫電話が執拗にかけられ、それをを公開した同氏は、「(盗聴法には)与党の中にも疑問を持っている人はいる。時間をかけては造反が相次ぎかねない。それもまた採決を急ぐ理由の一つでしょう。君が代・日の丸法制化だって、なぜこんなに急ぐのか? 結局は、ガイドライン関連法案に関わるものとしてこれが出てきているとしか、私は思えないのです。いわば、準戦時体制の構築に必要なシステムを整えるということです。ガイドラインに合わせ、国内の反戦派の団体や個人、ジャーナリストを封じ込めることが目的なのです。戦時体制を前提においた法案と考える以外に、審議の異常さを説明することはできません。」と述べている。
<<「正体見たり 翼賛会」>>
「自自公の 正体見たり 翼賛会」、これは民主党の菅代表が詠んだ川柳だという。確かにそのとおりである。しかしここまで彼らを野放しにしていた民主党の責任も問われるべきであろう。
6/3に民主党の国会議員十数人が、「阪神タイガースを応援する議員の会」を発足させたという。「活動方針は阪神が優勝したら国会で六甲おろしを歌うこと」とし、すでに関西出身議員を中心に20数名になり、他の党にも働きかけ、「とりあえず東京ドームと甲子園球場に行って野村監督と選手を激励したい」と意気盛んであるという。阪神人気に便乗した魂胆丸出しの姿勢は、何か事態をはきちがえているのではないだろうか。自民党との対決のために、共産党との共闘にまで言及し出した鳩山幹事長代理が、「菅代表にオンブにダッコの政党からの脱皮」を言い出したことなど、もっと真剣に議論されるべき課題が山積しているのではないのか。
日の丸・君が代法制化ではそのきっかけを作り出した共産党の不破委員長が、6/9「戦争法を発動しない」政府を提唱、安保の承認はもちろん、今回強行成立したばかりのガイドライン関連の周辺事態法の存続を前提とした政府を提唱し出した。現実的といえばそれまでだが、これまでの姿勢ばかりか、今後の基本姿勢までが疑われる路線転換である。こうした基本戦略にかかわる路線転換、民主主義の欠如に反対して党内に発信し続けている『さざ波通信』は、6/10付け『しんぶん赤旗』に、「日の丸・君が代、10代、20代の思いは…」と題して掲載された意見の中に、「そのなかで、かつての侵略戦争を自衛のためのやむをえない戦争であったとし、『日の丸・君が代』を全面的に肯定する男子高校生の恥知らずな意見がそのまま掲載されている。この高校生の意見はおそらく小林よしのりらの自由主義史観派の影響によるものであろう。しかし、それにしても、このような反動的意見が堂々と『しんぶん赤旗』に掲載され、しかも批判的なコメントすらまったくつけられていないとは驚きである。『国民的討論』の名を借りた、反動的意見の垂れ流しに、われわれは断固抗議する。」(6/10『さざ波通信』トピックス)と表明している。われらが『アサート』にも思いをはせながら、同感を禁じ得ないところである。
(生駒 敬)
【出典】 アサート No.259 1999年6月19日