【投稿】バルカンから朝鮮半島へ –見えてきた新たな「有事」の姿–

【投稿】バルカンから朝鮮半島へ –見えてきた新たな「有事」の姿–

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3月24日から開始されたNATO軍によるユーゴ空爆=「同盟の力」作戦は、6月12日までの約2か月半にわたって続けられ、途中アルバニア系住民への迫害強化や「誤爆」というイレギュラーはあったものの、事実上ユーゴを敗北に追い込み終了した。
ベトナム戦争では精密誘導兵器を含む200万トンもの爆弾を投下しながら、決定的な打撃を北ベトナムや民族解放戦線に与えられなかったアメリカは、その後巡航ミサイルやステルス機に代表される新たな「ハイテク兵器」を次々と開発した。
そしてアメリカ軍にとって、ベトナム戦争以来の大規模な空爆となった湾岸戦争では、それら新兵器の威力が遺憾なく発揮され、戦争の様相を一変させたのである。
「北爆」では、当初ハノイはおろか、発電所、港湾施設、そして空軍基地までもが、攻撃対象とはならなかったのに対して、湾岸戦争では、世界に通用する「大義名分」があったにせよ、戦争はいきなりバクダッド空襲からはじまった。
戦史上、開戦初日に首都が空爆されたのははじめてであり、それを可能にしたのは、防空システムや軍、政府の中枢機能への正確な攻撃能力であった。
とりわけ、一国家の防空能力を1日で破壊してしまう作戦行動など、アメリカにしか出来ない事であり、ソ連ーロシアの没落と相まって、アメリカは「潜在的世界制空権」(さらには「制海権」も)を持ったと言っても過言ではない。
さらに多国籍軍による攻撃は、軍事施設のみならず精油所発電所などにも及び、市街地への無差別爆撃以外は、何でもありに近いものがあった。
この湾岸戦争により首都を中心とする、軍、政府機関、及び情報システム、ライフラインなどのインフラへの早期精密攻撃が、20世紀末の戦争を特徴づけるものとなったのである。
こうしたことが、規模的、量的には小さいものの、質的にはより強化されたのが、ユーゴ空爆であった。 ピンポイント攻撃が強調された湾岸戦争でも、実際は精密誘導兵器は、使用された爆弾、ミサイルの1割程度に過ぎない。
これに対し、「同盟の力」作戦では、7割が精密誘導兵器であり、作戦後半ではさすがのアメリカも製造が追いつかない程の消費量であった。
反面、多大な犠牲を生む地上戦についてはベトナム戦争以来、極力回避する傾向にあり、「砂漠の嵐」作戦では4日で終了し、ユーゴでは当初から異常なほど強い調子で、クリントン大統領によって否定されていた。
これに対して、イギリスなどは積極的な地上軍投入姿勢はみせていたものの結局は、戦後進駐に落ちついた。
つまり今後陸軍の役割は、先のボスニアの例でも示されるように、アメリカのみならずNATO諸国、さらに旧東欧諸国においては、戦後処理、平和維持的任務となっていく方向が明らかとなった。
このような傾向は、21世紀に入っても引き続き暫くは維持されるだろう。

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従来「第2次朝鮮戦争」のシナリオは、ペンタゴンによって「作戦計画5027」として立案され、それに従って各種のシミュレーションや論評も進められてきたし、わが国を揺るがしている「新ガイドライン」問題も惹起したのである。
ところが、今回のユーゴ空爆の結果で、アメリカの大規模な地上兵力(50万程度)の派遣を前提とした作戦の現実性が問われる事態となっている。
「砂漠の嵐」作戦は、同程度の派遣兵力で戦死者は115人だった。ユーゴの場合、民間の研究機関が行った地上戦に突入した場合の犠牲者の想定は、幅があったものの最大で数千人だった。
ところが朝鮮半島で本格的な地上戦が起こった場合最低でも数千人の犠牲者が出ると言われており、これは兵力の投入を躊躇させるに十分な数字である。
したがって、朝鮮半島で武力衝突が発生したとしても、北朝鮮の大陸間弾道ミサイルが現実の脅威になれば別だが、アメリカは徹底した空爆による戦争終結をめざし地上兵力の投入も、在韓の2万7千人以外は小規模な特殊部隊の派遣に止めるのではないかと考えられるのだ。
それが、はたしてアメリカ軍が一歩も二歩も後ろに下がる(そういう姿勢を示す)ことによって、全体の緊張が緩和されるのか。
逆に、犠牲者が少なく済むことによって、衝突の実現性が高まるのか。あるいは北朝鮮がアメリカは地上軍を派遣しないと踏んで強行姿勢にでるのか。また韓国はアメリカの姿勢を容認するのか。現時点では何とも言いがたい。
さらにそうなると、すったもんだの挙げ句成立した「周辺事態法」で規定されたわが国の対応も、影響を受けざるを得ない。
とりわけ自衛隊の活動については「周辺事態法」の範疇に止まらず、見直しが求められるだろう。
それは、先に述べた様な状況の変化に対応できる改革という事であり、「本土決戦」に舞い上がる有事法制推進派の主張などは、論外である。
しかし、わが国に最も必要なのは、アメリカの思惑に振り回されること無く、独自の主張と行動を担保できる、外交、安全保障政策の確立なのである。(O)

【出典】 アサート No.260 1999年7月24日

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