【投稿】欧州での労働者協同組合と雇用創出の可能性
1999年9月12日~13日、「労働者協同組合法」国際フォーラム(市民の仕事おこしと地域の再生/協同労働の法制を求めて)が明治大学「リバティーホール」において開催された。主催は日本労働者協同組合連合会。ちなみに日本労働者協同組合連合会(以後労働者協同組合を 労協 と略す)は共産党系団体としてみられているようだが、全労連からも激しく批判されている団体であり単純なレッテル貼りで見ないでいただきたい。実践的には地域ごとに差もあり確かにそうした方々も多く参加しているが内容は単純なものではないことを理解していただきたい。ここではフォーラムの内容や、参加した率直な感想を特に雇用問題と併せて報告したい。
開会挨拶にたった大内 力(東京大学名誉教授)は「今年の東大法学部卒の就職率も50%だった。『日本のどこかで毎日90人もの人がみずから命を絶っている』という事態の厳しさをきちんと認識し、雇用もサービスも企業依存から脱却していかねばねらない」と日本での21世紀の協同法制定の意義を語っていたのは印象的だった。
フォーラムには欧州からフィリッペ・ヨワヒム(CECOP 欧州労働者協同組合連盟 副会長)、チャーリー・カッテル(イギリス、協同組合コンサルタント)、アルテェステ・サントゥアーリ(イタリア、非営利セクター開発研究機構)の各氏を迎え、協同組合法成立までの経過やその実践について報告された。EU、ユーロ発足後、ヨーロッパでも巨大な企業グループがM&Aを繰り返し熾烈な競争時代へと突入している。わたしの友人で日本で取引のある化学系のある会社では「輸出輸入先の会社名が3ヶ月ごとに変わっている状態だ」というほどである。そして深刻な雇用危機と財政危機である。その中で労協が雇用創出のおおきな部門としてEU内で認められつつあると言うことだ。
結論から先に述べさせてもらうと、日本の大企業のリストラに歯止めがかからないのは団塊の世代を中心として年齢構成が高齢化し、しかもこれらの人たちの給与が高すぎるからである。単純に中小零細民間労働者の2倍近いの高給であることには間違いない。大企業の社員の25%以上が年収800万円以上というのはとても一般的な民間中小では考えられない水準である。日本の会社はゼネラリストをめざして人づくりをしてきたが、これは総じて人件費コストの底上げをしてきた。国際競争社会のなかでのコスト競争でこれは日本企業にとっての大きな負担となってしまったのである。欧米並とすれば、いまは核となる管理者とスペシャリストが会社の中心にいて、あとは必要なときに必要な人を集めればいいのである。さすがの一方的なリストラに「日本企業の力を弱めてしまう」と一部からも不安がもれるほどである。そしてもうひとつ考えられるのは大企業準拠の公的部門である。国レベルはおいておくとして、地方では財政出動がもはやそれほど有効でなくなってきているし、できる範囲も限られている。今後、21世紀にも持続的に行政サービスを提供するとしてもこの問題をどのように解決するのかということに答えを出していない。「サービス拡大=人件費コストの増加」や「人件費コストの削減=サービスの低下」という繰り返しですましていいのかということだ。
今回のフォーラムでかいま見られたのはこの事に関するふたつの選択である。
ひとつは新保守主義が行政サービスを切り捨てていったことは欧州でも同様であるが、この受け皿の一つとして労協があるのである。例えば、イギリスのかつては自治体が運営していたスポーツクラブ(健康増進センターなど)は、労協がこのサービスを請け負い、しかも以前より内容や規模も充実させているのである。今ではこうした部門のほとんどが労協の委託になっているそうである。労協が選択された理由は、地元の事業体であること、持続可能な事業体であることなどである。事業拡大には労協に対する税制的な優遇措置もあることが大きい。労協法が欧州で制定された背景も十分理由があるのである。社民政権という政治的状況だけではないということだ。
もう一つは競争激化の中で、地方レベルで大きなシェアを持つような会社でもオーナーが事業(あるいは事業の一部の)継続を放棄する事態が出てきたことと労協の誕生である。雇用確保という場合にこうした選択もありえるという方向性だ。もちろんこの事業がそれ自体採算性や継続性がなければ意味がないし、こうした判断も労協のコンサルタントといっしょに労協の組合員が判断するのである。
日本でも今後、景気拡大が単純に雇用に結びつくとは考えられない。むしろ適正なワークルールと共に多様な働き方を支援する施策が必要である。そしてここで述べたようにサービスの提供者としてセミパブリックな事業体の形成も不可欠であるように思える。バブル期を通じて自治体がどんどん様々な事業化をこころみたが、その結論はなんだろうか? 必要とされるサービスを持続的に継続的に提供するために大胆な発想の転換も必要であろう。
以下は集会報告者の講演とレジュメを文章化したものである。
◆CECOP 欧州における労働者協同組合と社会的企業のめざましい発展
CECOPは、「欧州労協連」と言いい、正式には、「欧州労働者協同組合・社会的協同組合・労働者参加企業総連合会」(The European Confederation of Workers Cooperatives’ Social Cooperatives and Participative Enterprises)である。伝統的な労働者協同組合だけでなく、「新しい協同組合」の大きな渦をなしている社会的協同組合、そして労働運動の新たな流れとしての労働者自主管理企業を、その主体と戦線に包含する連合組織となっていることがまずもって注目される。
その会員は、31の連合組織、61の地域組織、200の協同組合開発機関から構成され、その傘下には、全体で6万企業、150万人の労働者が所属している。企業の内訳は、工業・手工業33%、サービス38%、建設14%、社会的協同組合(社会サービス供給ないし社会参加支援のための協同組合)13%、文化・教育活動2%となっている。
「行動計画」は、次のような欧州労協・社会的協同組合の挑戦課題を提示している。
情報とコミュニケーション:会員組織が欧州の建設に加わり、自らに関わる政策や計画に参加し、行政的・法的な環境を変え、欧州基金にアクセスすることを保証するための情報の提供と、会員の優れた実践の欧州規模での交流研修・教育:「協同労働」企業経営者のための欧州研修センターの創設や、組合員に対する協同組合の歴史と原則の教育
企業ネットワーク:一つ一つの企業の民主的で柔軟な側面を維持しながら、競争力や規模の経済を保証するための企業のネットワークや事業連合の形成
地域開発:地域の協同組合開発支援機構を発展させ、自治体と結ぶとともに、支援機構を欧州規模でネットワーク化する
女性企業家と平等な機会:女性の研修と新しい協同組合づくりを支援するとともに、その前提として各機関での「ジェンダー・バランス」を確立すること
伝統的部門を固めつつ、文化、旅行、ニューメディア、環境などの新しい分野を開発すること
環境と持続可能な発展:資源の利用を減らしながら、その効率的利用を通じて、持続可能な環境の発展を達成し、適切な生活の質を享受する権利をすべての人びとに保証すること
◆欧州の「社会的経済」の広がり
CECOPの挑戦は、これを広く包み込む欧州規模の「社会的経済」の中に置くとき、いっそう鮮明にすることができる。
「*REVES憲章」によれば、欧州の社会的経済は、640万人の人びとの仕事(総雇用の4.4%)を生み出している。その内訳は、「アソシエーションないしボランタリー部門」59%、「協同組合部門」34%、「共済部門」7%です。これら社会的経済の総セクターは、他の公共・民間の経済セクターよりも雇用を急速に伸ばしており、欧州委員会が「新たな雇用源」と見なす分野ではとくに伸長が著しいと言われている。
◆EUのパートナーとして、社会的企業が勃興
大事な点は、これらの躍動が、欧州連合=EUとのパートナーシップとして、「より民主的で社会的な欧州、より開放的で連帯を基礎とした、より市民に目を向けた欧州の実現」という点から位置づけられていることです。とりわけ政府に相当する欧州委員会が、新たな雇用政策の枠組みの中で、社会的経済の重要性を認めるに至ったことは重要です。
事実、この間、CECOPのパイロット事業と、その調査研究によるフォローアップ、事業のいっそうの展開という一連の循環が、EUの資金提供を受けて進められています。
欧州委員会第5総局(雇用・社会・教育)の後援による「社会的企業と欧州における新たな雇用」「欧州におけるコミュニティに根ざした都市再生」、第11総局(環境・核安全・市民保護)の後援による、環境と仕事おこしを結び付けた「グローバル・エコロジー-環境と社会の再生」、第12総局(科学・研究・共同開発センター)の後援による「社会的経済の勃興-欧州における社会的排除に対する新たな回答」をテーマとする欧州ネットワーク(EMES)の立ち上げなど、欧州の経済・社会政策の立案・実行主体としてCECOPは確実に地歩を築いているようだ。それは、21世紀的な協同組合と公共政策の新たなあり方を予兆するものであると言える。
◆「協同労働者」の定義と法制化をめざして
CECOP会員組織の共通のアイデンティティは、「労働者の参加と所有」に置かれますが、この「参加と所有」は、今日では「企業のリスク、経営、運営、および付加価値の分配」に及び、参加する人びとが社会のニーズに責任を持って応える、「知的で適応可能な構造」の企業創造の挑戦に至っていること。それは、賃金労働者とも、自営業者とも異なる「第三の労働モデル」であり、こうした「協同労働者(associated worker)」の地位と「それに照応する義務、リスク、権利と原則を定義する憲章」の制定が求められていることが述べられている。
(東京 RI)
【出典】 アサート No.262 1999年9月15日