【(投稿】大揺れの円高・ドル安と日米経済

【(投稿】大揺れの円高・ドル安と日米経済

<<GDP2期連続のプラス成長>>
9/15、政府・日銀の度重なるドル買い・円売り介入にもかかわらず、一時1ドル=103円台にまで円高が急速に進行し、東証株価も700円以上も下がるという事態を迎えた。今や年内に1$=90円台への移行も現実的と言われ出している。そうした事態は、9/9に経企庁が発表した4-6月期の国民所得統計で、国内総生産(GDP)が前期比0.2%増、前年同期比0.8%増と、2期連続プラス成長を受けたものでもあった。「日本の不況は底をついた」「景気は上向きとなった」「銀行危機もほぼ片付いた」と楽観論が支配したあとの右往左往である。景気回復を見越した為替相場の動きが、逆に回復を台無しにし、後退させるという皮肉な構図である。
2期連続プラス成長が経済実態に基づいた堅調な回復ならば、少々の円高も問題ではないし、十分に吸収し得ると予測もできよう。しかしそれは前々回にも指摘したところであるが、政府の放漫な財政赤字の大判振る舞いによってゲタをはかせられたものに過ぎなければ事態の展開は違ったものにならざるを得ない。

<<「自立的回復」にほど遠い実態>>
発表された統計数字からだけでもわかることは、まず景気回復の足取りが、前期が2%増(年率換算8.1%増)であったのに対して、今期は0.2%増(年率換算0.9%増)と、その伸びが明らかに頭打ち傾向を示していることである。一昨年、昨年と2年連続のマイナス成長、しかも戦後最悪のマイナス成長をベースとして比較すれば、最悪期を脱したとすれば、ほんの少しの回復でも相当な伸びになる可能性は当然予想されることである。しかし実態はこの程度にとどまっている。
さらに問題はプラス成長の中身である。まず、民間設備投資は減少率が低下してきているとはいえ、依然として大幅な前年同期比減を続けており、リストラの本格的始動はこの点でも設備投資増を期待できる余地などほとんどないことを示している。民間最終消費支出、つまり個人消費は微増はしているが、きわめて低調であり、最悪の失業率の更新と可処分所得・実質賃金の低下傾向によってここでも期待できる余地は限られている。住宅や軽自動車などで回復傾向が見られるが、まだまだ限定的である

唯一大幅な増大を示しているのが公的資本形成、つまり公共投資である。このように2期連続のプラス成長とはいっても、公共事業のカサ上げによって押し上げられていることが歴然としており、「民需の自立的回復」には程遠い実態なのである。
9/10付けウォールストリートジャーナル紙が「日本政府発表の統計を信用するものはない」というモルガン・スタンレーのR・フェルドマンの発言を引用し、さらに経団連会長の「円高が輸出に水をさし、雇用は依然悪化している」との談話を引き合いに出して、無理やりプラス成長を演出している姿勢に疑問を投げかけているのも当然であろう。

実質国内総支出   98/10-12    99/1-3    99/4-6
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国内総支出     473,515    482,872   483,942
GDP        ▲0.8      2.0     0.2
〃年率換算      ▲3.3      8.1     0.9
民間最終消費支出  281,480    284,989  287,369
〃前年同期比    (▲0.1)    (0.8)   (1.8)
民間企業設備    73,573     75,836   72,831
〃前年同期比    (▲17.0)  (▲9.7)  (▲8.9)
公的固定資本形成  42,629      47,009    45,130
〃前年同期比    (8.9)    (22.8)   (21.0)
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単位10億円

<<「一触即発の危機」>>
こうした日本経済の実態にもかかわらず、円高・ドル安が進行している。このところ、毎月1兆円規模に上る外国勢の日本株の買い越しが行われており、今回の急激な円高も「海外市場ではヘッジファンドが円急騰を演出した」(9/11日経)と報道されている。円の購買力平価は1$=163円(98年、OECD調べ)程度とみなされているにもかかわらず、確かに「7月半ばを境に、円ドル為替レートには大きな潮目の変調が生じている」。1$=120円台から、9月以降は100円台すれすれに、1ヶ月半で20円前後の急激な円高・ドル安である。そこには、日米経済関係の新たな変動が生じてきているとも言えよう。
9/10午前の東京市場で、大蔵省・日銀が円売り・ドル買いの市場介入に踏み切ったのであるが、アメリカは日本の市場介入に冷ややかで、サマーズ財務長官は日本の市場介入を「操作」だと批判し、クリントン大統領も「円高で日本が米国やアジアの製品をたくさん買うことができることは、国際経済にとっても米国の労働者にとってもよいことだ」(9/9記者会見)と突き放している。日米協調介入などまったく問題にもしていないのである。
しかし、根底的な問題はアメリカ経済自身が抱え込んでいる株高、過剰消費等に現れている「一触即発の危機」の進行である。国際通貨基金(IMF)がこの9/8に発表した報告で「米国株は割高であり、株価が急落した際、大きな問題を引き起こしかねない」と指摘している事態の進行である。8/30、ニューヨーク金融市場はすでに株・債券・ドルのトリプル安に見舞われている。何かあれば一転、パニック的な反応を示すバブル末期の症状が出始めたともいえよう。

<<「日本と同じ運命をたどるのか?}>>
8月末のNY株式市場の続落で株の資産価格は計500億ドル以上の値下がりとなっている。すでに資金の流れがいっせいに変更され始めた兆候でもある。ドル資産離れである。問題はドル資産から移すべき相手方も膨大な不安要因を抱えていることにある。それでも不安を抱えた米系金融資本のみならず、日本の機関投資家も日本への資金回帰傾向をますます強めざるを得ないところにきている。これが一層のドル安・円高進行の原動力でもある。
さらにこれに拍車をかけているのが米貿易赤字の急増である。昨年の貿易赤字は、対前年比で26%も増加したが、今年はこのところ月間260億ドル規模と記録的な赤字を続けており、今年上半期の赤字累計は1181億ドル、実に前年同期比56.9%増という急増ぶりである。巨大な赤字リスクを抱えたまま、株高と過剰消費に依拠した米国の繁栄が最終段階にさしかかっているのだとも言えよう。
8/31付けのニューヨークタイムズ紙は「米国株式市場は日本と同じ運命をたどるのか?」という見出しを掲げて、米連邦準備制度(FED)定例集会での山口泰元日銀総裁の「1980年代の日本のバブル経済の絶頂期が、米国の現状に無気味なほど酷似している」という発言を紹介している。
これに対して、9/3付けウォールストリート・ジャーナル紙は「グリーンスパンのバブルを破れ」と題した、グリーンスパンFED議長の「株価バブル説」に真っ向から反論する論説を掲載している。株価の適正評価に使われているリスク率が誤りだと指摘しているのであるが、日本のバブル絶頂期の「虚業こそ実業」といった「行け行けどんどん」式の強気エコノミストの論調を彷彿とさせるものである。
マネー資本主義のグローバル化に日本が追随している限り、政治も経済も打開の道は開かれないと言えよう。(生駒 敬)

【出典】 アサート No.262 1999年9月15日

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