【労働関係レポート】 最近の労働法制規制緩和の動き 

【労働関係レポート】 最近の労働法制規制緩和の動き   -今、労基法が危ない-

最近の様々な規制緩和の流れの中で、労働関係の法制度についても見直しが、進められてきている。しかし、その見直し内容は「規制緩和」という名の下に、労働者の保護制度を緩めるというもので、より使用者にとって弾力的に労働力を活用しようとするものである。当然、そのことは労働者にとって、雇用の不安定性や厳しい労働条件を強いることになることは、言うまでもない。
それでは具体的に労働基準法を中心に、問題になっている事項について説明したい。

[女子保護規定の見直し]
男女雇用機会均等法において、募集・採用・配置・昇進・教育訓練に対する均等な取り扱いが義務化されたこと等により、労働基準法も女子の時間外・休日労働・深夜勤務を規制した労働基準法の女子保護規定も撤廃されることになった。(1999年4月施行)
これは、男女雇用機会均等法の改正に伴って、経営側が女子保護規定も撤廃することを強く要請したことによるものだが、その結果、現在の男性の過酷な長時間労働を女性にも強いられることになった。これに対する連合をはじめとする労働側は、男女共通の上限規制の設定と、その法制化を求めている。現在は、労働省が36協定締結の際の「適正化の目安指針」を設けているだけで、法的拘束力もなく、事実上、野放しになっている状態である。現実に中小企業を中心に長時間残業を強いて、なおかつ時間外手当も未払いということが横行する中で、女子保護規定の撤廃は、より一層、労働者間の雇用・労働の競争が
煽られることになろう。

[変形労働時間制の見直し]
変形労働時間制とは、一年間の所定内労働時間(約2,080時間)の範囲内であれば、「1日8時間・週40時間」を弾力的に運用できる制度で、具体的な制限は、1日9時間・週48時間(変形期間が3か月以内のときは1日10時間・週52時間)以内の範囲であれば、その弾力運用が認められている。
見直し案は、この制限を更に弾力的にし、1日10時間、週52時間まで認めようとするもので、当然、その範囲内であれば、時間外手当を支給する必要はない。すなはち使用者にとってみれば、繁忙期・閑散期に合わせて、より弾力的かつ安上がりに労働力を活用できるようになるもので、労働者にとってみれば、不安定な賃金・労働条件を強いられることになる。

[裁量労働制の対象範囲の拡大]
裁量労働制については、1日に何時間働いても所定内時間(8時間)働いたものとするもので、見なし労働とも呼ばれている。現行は、研究開発部門等の11業種に限られているが、更に事務系労働者(ホワイトカラー)にも適用拡大することが検討されている。この事務系労働者では、「本社及び他の事業場の本社に類する部門における企画、立案、調査及び分析の業務」と限定することとしているが、これとて拡大解釈される恐れもあり、何よりも、こうした部門を中心にサービス残業が横行している中で、これを合法化するものと言わざるを得ない。また、これが認められれば、公務労働にも波及することが十分、予想され、数多くの労働者の賃金・労働条件の切り下げにつながる。

[有期労働契約期間上限の一部職種延長]
予め、期限を設けて労働契約を締結する場合は、現行では1年を限度とすることが原則的に定められているが、今回の検討案では、「新技術・新商品の研究・開発労働者」については、3年まで延長することとなっている。これは、最近の目まぐるしく進展する技術革新の中で、これに対応する技術者の確保のためには、終身的に雇用することよりは、能力の発揮が期待される若年労働者を一定水準、確保することが望ましいことから、取られる措置だといえる。すなはち若年労働者の使い捨てにつながるもので、中・長期的に見れば、雇用不安を増大させることにもなる。

[民間有料職業紹介事業の職種範囲原則自由化]
民間における有料紹介事業については、従来、調理師・看護婦・美容師など(29職種)の技能労働者に限って認められていたのが、本年4月より原則、自由化された。(職業安定法施行規則)特に事務系労働者分野(ホワイトカラー)については、全面的に自由化された。
そもそも民間有料職業紹介事業に規制があったのは、民間職業紹介の際に、実態とは異なった求人条件なり、紹介事業者が手数料を徴収することにより、労働者に不利益、あるいは相当の負担を負わすことを防ぐためにあったもので、いわば不公正雇用を防止するためであった。しかし求人情報誌の氾濫にも見られるように、現実の職業紹介の状況は、職業安定所を通じた職業紹介のウエイトは少なくなっており、「原則自由化」は、この現実を追認し、民間職業紹介事業の営利範囲を広げることでより、円滑な雇用の流動化を図ろうとするものである。
しかし、それでは不公正雇用に対する防止策はどうなのかと言えば、「有料職業紹介事業の運営に関するガイドライン」の策定等、一定、監督・指導の措置が取られているものの、どれほどの効果が期待されるかについては不安がある。とりわけ現状における不公正雇用に関る苦情や個別紛争は、依然として頻発しており、これに対する行政対応も極めて不十分と言わざるを得ない。「原則自由化」の是非についての論議の中で、不公正雇用に対する不安の意見に対して、「そもそも、現状の行政監督指導も十分、機能していないではないか」という意見もあった。確かに労基署や職業安定所における行政上の怠慢も一定、否めないが、しかし同時に不十分な態勢と権限にあったことも事実である。「原則自由化」された今日において、具体的な不公正雇用の事実を突きつける中で、労働者が安心して職業紹介を受けられる紹介業者や求人側への監督指導方策と不公正雇用に対する罰則の強化等が求められる。

[人材派遣対象業務、原則自由化]
現行の人材派遣の対象業務は、事務用機器操作等の専門職務26業務に限られているが、これを原則自由化しようとすることが検討されている。新たな派遣業務については、1年間の限定期間を設けることも検討されているが(現行1年間で2回延長)、全体として派遣職種を広げることによって、より企業にとって使いやすい労働力の提供・賃金コストの削減につながるものである。特に事務系労働者(ホワイトカラー)や営業などに幅広く派遣が認められると、現に雇用されている労働者への雇用不安が増すばかりではなく、現実に派遣を巡るトラブル・個別紛争がより一層、増大することが予想される。現実においても派遣業務内容が当初、示されていた内容と異なったり、また指揮命令や勤務時間等の労働条件が不明確で、派遣先・派遣元との関係で、派遣労働者に問題がしわ寄せされる等のトラブルは多発しており、これに対する防止措置を具体的に講じないまま、派遣職種範囲を拡大することは、民間有料職業紹介事業の職種範囲の原則自由化と相まって、より労働者を人身売買的に扱われる状況が生み出されることになるといっても過言ではない。

[労働法制規制緩和に対する労働側の対応]
これまでの労働法制規制緩和に対する労働側の対応について、既に改定された労働者派遣事業法や職業安定分野等においては、連合は積極的な反対はせず一定、容認してきた。しかし労基法を中心とした今日における労働法制規制緩和に対しては、連合・全労連とも反対の立場を明確にしている。
戦後最大といわれる失業率の増大に加え、労働組合組織率の低下等、労働運動全般が後退局面にある今日、個別における労使の力関係は、より労働側に不利になっていると言わざるを得ない。その意味で、個別の労働者を守るのは、労働関係の法制度が全てといっても極論ではなく、労働法制の規制緩和は、より労働者に無秩序で過酷な競争に投げ出されることになる。そもそも今日における労働者保護の諸制度は、まさにこれまでの労働運動の成果それ自体といえ、企業の様々な経済活動に対する規制緩和と同列視することは許されない。
連合が結成されて約8年が経過するが、連合が掲げた「力と政策」が今、自らの労働政策で、その力を発揮しなければならないときだといえよう。
(民守 正義)

【出典】 アサート No.242 1998年1月24日

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