【投稿】公務員国籍条項撤廃を巡る新たな展開

【投稿】公務員国籍条項撤廃を巡る新たな展開

1 自治相の談話を契機に撤廃枠拡大の動き
地方公務員採用の国籍条項撤廃に動きにおいて、新たな展開が進んでいる。昨年の11月22日に白川自治大臣が「(外国人が就けない)公権力に携わる具体的なポストや人事の方針を自治体が明確に定めれば、一般職でも外国人を採用することは可能」との談話を発表したことがその契機となった。自治相の談話は、「公権力の行使または公の意思の形成の参画に携わる公務員になるには日本国籍が必要」という従来の政府見解を踏襲しながらも、その具体的な判断と運用については自治体側の裁量に委ねるというものである。
この自治省の「方針転換」をうけ、従前から一般職採用の国籍条項の撤廃を試みながらも自治省の抵抗にあい、部分的な門戸開放にとどまっていた神奈川県、川崎市、横浜市、神戸市、大阪市などの自治体では一斉に撤廃枠拡大の動きをみせている。神奈川県や神戸市などでは決裁権をもたない範囲で部長、局長級までの昇任も可能としている。
今回の撤廃枠拡大の動きは自治省の発言を契機としたものではあったが、決して「上からの改革」というわけではなかった。まず第一に、国際化の進展と人権尊重の潮流の中で、韓国・朝鮮人をはじめとする在日外国人を多く抱える自治体では、外国人住民を排除し続けることが困難になってきたことから、1980年代以後、徐々に撤廃の枠を拡大していった。ところが、都道府県、政令指定都市における一般職の国籍条項の撤廃については自治省の強烈な抵抗にあい、この数年、一進一退の膠着状態にあったこと。第二に、撤廃を押し止めようとする自治省の見解に無理があり、論理に破綻が生じていたことである。
すなわち、憲法や法律に明文の規定がないのに、「当然の法理」という曖昧・抽象的な概念で画一的に各自治体における外国人採用を抑制しようとしたのである。これは法治主義のみならず、地方分権の流れにも逆行していたのである。
2 今後の課題
今回の撤廃の動きで、公務員の国籍条項の撤廃は一気に進むのかどうかは予断を許さないところである。まず、「公権力の行使につけない」という政府見解は変わっておらず、撤廃を表明している自治体においても依然として昇任の差別は残る。また、どこまで公権力にあたらない昇任が可能かを具体的に判断できない自治体が自治省に相談するケースが続出すると、結局自治省が基準を決めてしまうことにもなりかねない。
さらに、全国的にみた場合、今なお国籍条項を撤廃していない、あるいは撤廃する気のない自治体が多数を占めているという現実がある。自治労の調査によると、「全ての職種で外国人が受験できない」、すなわち外国人に 門戸を開いていない市町村が60.1%も存在しているとの結果も出ている。また京都市長は「(国籍条項は)当然の法理で(撤廃を)検討する必要はない」「公権力の行使や公の重要な意思形成をする際に、(日本)国籍のない人がいない。」(1996.12.19毎日新聞)として国籍条項を撤廃する考えのないことを明らかにしている。
従って、今後の課題としては、まず第一に先行自治体では、採用実績をつくり、昇任の差別・制限を撤廃していくことが必要である。また第二に、こうした動きとも連動して、他の自治体へも波及させていき、国籍条項撤廃を圧倒的多数派としていくことが必要である。
3 自治体は「人事行政」の枠を超えた施策の重要性を認識すべき 公務員の国籍条項の撤廃が都道府県や政令指定都市に及ぶことが現実的な問題になってきたもとで、これに逆行する勢力の台頭もみられる。マスコミ等の中には、「公務員の資格は、外国人の人権保障や就労の機会均等といったこととは全く次元の異なる問題である。国、地方を問わず公務員には国家に対する忠誠(ロイヤルティー)が求められるのは当然であり、国籍はそのあかしといえる。」(1997.1.16 サンケイ新聞社説)などと正面から反対を唱えるものもでてきている。また、「韓国、北朝鮮、台湾等は日本と各自の国籍国との間の対立・紛争次第によって、日本人との間に、利害や国籍国への忠誠心による対立が増大する可能性がある」(加藤富子千葉経済大学客員教授)などの論者もいる。これらを単なる民族主義者の勝手な主張と見過ごすべきではないだろう。日朝関係が悪化したときに、朝鮮民族学校の女生徒のチマ・チョゴリが切られる事件が続発したことは記憶に新しい。また、就職難の現在、「日本人でさえも公務員になれないのに…」などの妬み意識が噴出してくる可能性も十分考えられる。こうした問題は、結局のところ、住民の外国人に対する人権意識の問題、そして、共に生活をしていくパートナーと認識できているかどうかの問題に帰結する。1年前、大阪市、横浜市、高知県などは国籍条項の撤廃を表明しながら、議会や人事委員会の反対にあい、あえなく見送った経験がある。外国人採用の問題を「人事行政」の枠内に押し止めてはならない。住民に、外国人に対する偏見や排外意識が存在している場合には、反動勢力と連動し、逆行する動きにつながりかねない。悪くすれば排外主義に発展しかねない。国籍条項撤廃を先行する自治体は、最大限に撤廃の枠を拡大するとともに、学校教育や地域社会などを通じて、住民が外国人住民を共に生活し、共に自治を担っていくパートナーとして認識していくよう、啓発や有効な施策を進めていくことが同様に重要であることを忘れてはならない。(当麻太郎)

【出典】 アサート No.231 1997年2月15日

カテゴリー: 人権, 分権 パーマリンク