【投稿】春闘再構築か、見直しか-97春闘で問われる課題-

【投稿】春闘再構築か、見直しか-97春闘で問われる課題-

[97春闘の状況]
97春闘は、連合が賃上げ1万3千円中心を要求し、経営側も5年連続の「ベアゼロ」を宣言している。とはいっても今春闘の特徴は、労資双方とも、一枚岩とは言えない状況があるようだ。経営側は、労働問題研究委員会報告で「ベースアップには慎重な対応を。賃上げより雇用確保や一時金原 資、製品価格の引き下げを」と述べ、日経連も「ベアゼロ」を強調した。しかし経営側の中には業績の格差も大きく、自動車業界のトップも「ある程度、賃上げに応えざるを得ない」と述べている。また日経連自身が「ベアゼロ」を提唱する一方、「個別企業自主決定」も掲げざるを得ない状況となっている。
一方、労働側も金属系労組がベア廃止を表明し、また鉄鋼労連は来春闘から隔年春闘を決めてい る。さらに賃上げのみに拘らず、一時金や福利厚生費も含めた人件費トータルで要求交渉を進めた り、新たな賃金体系の導入(能率給の導入・改定等)を受け入れた賃金交渉を進めるなど、いわゆる春闘=一斉賃上げ方式自体が問われる動きが表面化してきている。
このように春闘が労使双方に対応の異なりがあるのは、業種間の業績にバラツキがあるのに加え、賃金体系・制度も年俸制や成績主義の導入等が広がり、従来の一斉賃上げ方式では対応できない具体的背景があるからであろう。
[問われる春闘のあり方]
この数年、春闘のあり方を見直す議論が労使双方から出されてきているが、そのこと自体は上記でも述べているように、好むと好まざると関わらず、むしろ必然的なものといえよう。ただ労働側における春闘のあり方論議を見た場合、現実の状況変化に労働側総体として、いかに対応するかではなく結局、産別ごと、あるいは個別労組ごとにおける当面の対策的な議論に終始している感が否めない。例えば一斉賃上げ方式が困難とするならば、統一要求方式も見直し、産別自決方式を今まで以上に公然・積極的に掲げて闘うのか、またその場合、業種間格差を、どのようにカバーするのか(例えば産別最低賃金制度への取り組み等)、トータルとしての具体的な論議が、あまり見られない。また年俸制や成績主義の導入は、日本型雇用制度とも言われる終身雇用制の崩壊にも一層、拍車を翔るもの で、企業別組合という組織形態と客観的に労働側の力関係が弱い状況の中では、結果として労働側に不利な賃金・雇用体系を押し付けられることになる。
今春闘における春闘のあり方を巡る論議は、ようやく切実感を持ちつつあるといえるが、重要なことは、その論議が個別の現実追随の議論ではなく、労働側総体としていかに対応するのか、春闘のあり方論議のあり方自体が問われているといえよう。その意味で連合のナショナルセンター機能・リーダーシップは極めて重要で、賃上げについても産別自決の名に値する産別闘争力の強化を図る一方、ナショナルセンターとしては横断的な賃金水準の引き上げ(最低賃金制度の取り組みや中小労組の支援等)をいかに図るか、更には年俸制・一時金を念頭に置いた標準年間賃金の獲得目標の設定や能率給制度における基本給部分の引き上げ等、産別とナショナルセンターの役割分担を明確にした、より具体的な方針と議論の提起が求められる。加えてナショナルセンターの独自機能とも言える減税や社会保障の充実等の制度・政策闘争についても、形式的な対政府・自治体要求に止まらず、大衆行動をより前面に打ち出した強化が求められる。
ナショナルセンター機能とは調整機能であり、総合的方針の発信機能でもある。春闘のあり方を 巡って、個別の論議に終始することなく、連合が、このナショナルセンター機能をいかに発揮するかが単なる春闘の見直しか、将来に向けた再構築となるか、重要な要素となろう。

[問われる労働法制の規制緩和]
今、行革-規制緩和の流れの中で、労働法制についても規制緩和の動きが顕著となってきている。 その一つは、労働者派遣事業法の改正で、昨年6月の法改正で適用対象業務12業務の範囲拡大がされたが、更に原則自由化に向けて労働省が検討を進めている。これによりホワイトカラー等の業務にも人材派遣ができるようになり、企業におけるリストラが一層、行いやすくなる。また派遣労働者の権利も、どこまで守られるか問題がある。ただ労働省は「違法派遣を受け入れた企業の罰則適用も検討する」としているが、現実に一方的な契約打ち切り(事実上の解雇)等、派遣労働に関わるトラブルは多く、現行の労働基準法の監督さえ不十分な中で、その実効性は疑問である。更に労働力の流動化や就職難の解消の名の下に、こうした不安定就労者の拡大が図られることが、雇用対策として適当なのか、労働側の検証も求められる。
もう一つが労働基準法の抜本的見直しで、①裁量労働制(見なし労働制)の適用対象業務の拡大 (現行5業務からホワイトカラー業務全般にも拡大)②有期雇用契約の上限規制の延長(現行1年以内を3~5年に延長)③時間外・休日・深夜労働に関する女子保護規定の撤廃が主な内容である。①については、現在でもホワイトカラーにおけるサービス残業が横行する中で、なお、これを合法化しようとするものと言わざるを得ない。また②については、事実上の若年定年制、早期定年制につながり、若年労働力の使い捨てを促進するものである。③については、既に男女雇用機会均等法の改正を前提に来年4月に実施する方向で法案要綱が出されているが、これは女性の保護規定を撤廃することにより男性の長時間労働を肯定化し、女性も組み込もうとするものである。
更に職業安定法の見直しでは、これまで19職種に限って認められていた有料職業紹介事業が原 則、自由化が検討されている。これは今でも、予め示した賃金・労働条件が異なる等、不公正雇用がまかり通り、未組織労働者の個別紛争が多発している状況に一層、拍車をかけ、また、かつてのリクルート汚職事件の本質を合法化するものといっても過言ではない。                これら労働法制の規制緩和は、経営側の要請に基づいて検討が進められているものであるが、こうした労働法制一つ一つが、国際的にも長い労働運動の歴史の中で、勝ち取られてきた成果であり、未組織労働者をも含め、賃金労働者全てに付与された基本的労働条件の最低保障制度である。しかし、このような動きに対して、労働側の対応は極めて鈍い。とりわけ連合は、抗議・反対の態度を示し得ていないばかりか、労働省の各審議会においても十分な反論さえできていない。

[問われる連合]
春闘のあり方論議でも述べたように今日、連合がナショナルセンターとしての客観的役割は、極めて大きい。しかし、連合統一が図られて7年余経過して、そのナショナルセンター機能が発揮できないのは何故なのだろうか。その要因の一つには、産別の寄り合い所帯の域を脱却し得ていないこともある。その背景には政治的結集軸が定まっていないことや遠慮も含め、まだ旧四団体での枠にこだ わった組織実情にもあろう。もう一つには、官公労または民間ビッグユニオンが主体で、労働法制規制緩和への対応に見られるように中小労働運動や、まして未組織労働者の感性に欠けていることもある。更には組織率の低下や若手活動家の不足等、労働運動総体が抱えている問題も大きな要因にあるだろう。こうした連合の不十分性は、なお連合労働運動としての経験不足に加え、時代の変化が著しく、対応しきれない側面もあるとは思う。ただ逆に言えば、それだけに連合運動の発展に時代は待ってくれないし、客観的に連合に替り得るナショナルセンターが存在しないことも事実である。重要なことは、各々のユニオンパーソナリティーを踏まえながらも、相互批判と内部討議を十分行い、可能な限り統一的な方針の確立と統一的な運動の展開を繰り返し行うこと、また質と量において、幅広い運動を指向することによってしか、労働者の代表的存在価値・ナショナルセンター機能を高めることにならないのではないか。(民)

【出典】 アサート No.231 1997年2月15日

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