【映画紹介】ケン・ローチ監督 「大地と自由」
このところ上映中であった、イギリスのケン・ローチ監督の「大地と自由-Land and Freedom」は、感動的であると同時に、多くのことを改めて考えさせ、問いかける貴重な映画であった。
映画の冒頭、イギリスのリバプールで一人の老人・デヴイッドが救急車の中で息を引き取る。彼は若き日、恋人を残し、スペイン人民戦線政府を守る国際義勇軍に参加していた。孫娘が遺品を整理し、古いトランクの中にあった赤い布に包まれた土を祖父の棺にふりかけて埋葬するまでが、スペイン・アラゴン地方の義勇軍の前線での闘いと同時進行する。
リバプールで義勇軍を募る集会が持たれる。ファシストに対する怒りと、それと闘う人民への連帯の感情が「ノー・パサラン!」(奴らを通すな!)のスローガンとなって会場を圧する。私は思わず、当時「ラ・パッショナリア、情熱の花」と請えられ、スペイン人民戦線の象徴であったドロレス・イバルリを思いだした。スペイン共産党を率いていた彼女の呼びかけ=「ノー・パサラン」は共通の理性の叫びであったのだ。彼女の著書「ノー・パサラン」(紀ノ国屋書店刊)は、1960-70年代の日本の若い世代にも多くの感動と影響を与え、多くの人々に読まれたことは、まだ記憶に新しいことである。
また、国際義勇軍に参加し、1937年マドリード近くで戦死した日本人ジャック・白井については、つい先日亡くなられた石垣綾子氏が書かれているし、カール・ヨネダ氏もその著書「がんばって」で触れられていることも思い出された。
しかしこの映画は、そのスペイン共産党の政策、路線を正面から問いかけている。ファシスト軍の攻勢の面前での武力衝突にまで至る、反ファッショ陣営内の抜さ難い不信と村立が、いかに人民戦線を内部から崩壊させたか、そのやりされない心の痛みが切々と伝わってくる。社会民主主義者を「社会ファシスト」として切って捨て、共に闘うべき仲間をスパイ、内通者として断罪しようとするあの度し難いセクト主義がまだ脈々と生さていたのである。スペイン共産党はそれを克服しようとしていたことは明らかである。
コミンテルンは1935年第7回大会を開き、大胆な政策転換を行い、全ての反ファッショ陣営の統一と共同行動を呼びかけていたのである。しかしそうは事態を進行させなかった癒し難い業病とでもいうべきものが厳然として存在していた。しかもその背後にソ連共産党が、スターリン政権がそれを支え、むしろ煽りたてさえしていたこと、さらにはスペイン人民戦線政府に対するうわべの支援とは相反する裏切り的な行動が、今日ではさまざまな形で明らかになってきている。
ケン・ローチ監督は、「スペインの革命は、当時のスターリン・ソビエト共産党の国際政策のために打ち砕かれました。そしてイギリスやフランスの西側諸国は自らの利権のために共謀してスペインのファシズムを助け、スペインの民主主義を孤立させたのです。その過ちのために、人々は内戦について黙して語らぬようになりました。」と語っている。
この映画は、スペイン市民戦争が単なる歴史上の墓石ではなく、ついこのあいだのことが今に生きており、今日の時代につながっている多くの問題を問いかけていることを、あらためて喚起させてくれるものであった。 (K.Ⅰ)
【出典】 アサート No.232 1997年3月21日