【本の紹介】松下圭一著 「日本の自治・分権」岩波新書 650円
田島義介著 「地方分権事始め」岩波新書 650円
昨年、地方分権推進法が施行され、今年には地方分権推進委員会の中間答申が出て、これまで長い間言われていながらなかなか実現しなかった「地方分権」が、中央官庁の猛烈な反発を受けながらも、ようやく具体化しそうな兆しが見えてきました。消費税等の身近な問題に比べ「地方分権で一体どんなメリットがあるの?」といった声も聞こえてきますが、実は地方分権は私たちの生活・政治・経済を大きく変えることになりそうです。地方分権が明治維新、戦後改革に次ぐ第三の革命と言われている由縁です。そんな中で上記の2冊はこの地方分権の歴史・必要性・現状をわかりやすく解説してあり、まさに時を得た本と言えるでしょう。
前者はなぜ今地方分権が必要なのかを説得力のある筆で書かれています。著者の松下圭一氏は1960年代から70年代の革新自治体を理論的に支えた「シビルミニマム」論等を提唱し、常に刺激的な問題提起をしている学者です。地方分権は選択肢のある「先取り改革」ではなく、いわば熟柿が落ちるような「成熟改革」だとの視点は、私たちにこの問題に正面から取り組む事を迫っている、挑発のように思えます。
一方、後者は全国の自治体の現状、中央官僚の実態、地方分権推進法が成立するにいたる経過等に多くをさいています。著者の田島義介氏は元朝日新聞記者で、いわば、前者が地方分権の理論編、後者が実態編といったところでしょう。
私は一地方公務員ですが、機関委任事務の廃止等、地方分権は私たち地方公務員に間違いなく大きな影響を与えます。しかし、調査によれば職員の意識は「住民圧力を考えると、国や県が権限を持つというワンクションがあるほうがやりやすい」「権限とともに、それに必要な人員や財源が伴わないと受け取れない」「職員数が抑制される中で、これ以上の業務の増大は難しい」と消極的だとか。地方分権が避けざるをえないものならばもう少し積極的に考えていきたいと思います。(若松一郎)
【出典】 アサート No.226 1996年9月21日