【投稿】死刑と人権“死刑廃止条約の批准に向けて”
《はじめに》
昨年3月26日後藤田法務大臣は、3人に死刑を執行しました。11月26日には三ケ月法務大臣が、4人に死刑を執行しました。日本では、後藤田による執行まで3年4カ月死刑執行がなく、日本も事実上の死刑廃止国になってほしいと期待していた人々にとって1年に7人もの執行は大きな衝撃でした。
《死刑廃止は国際的な流れ》
1976年に発効した市民的政治的権利に関する国際規約(国際人権規約B規約・日本は1979年に批准)第6条で、「死刑を廃止していない国において」死刑を科することができる場合を「最も重大な犯罪」に限定し、これらの条文を「死刑の廃止を遅らせ又は妨げるために援用されてはならない」としました。この規約の第二選択議定書(死刑廃止条約)は1991年7月11日発効し、その前文で「死刑の廃止が人間の尊厳と人権の漸進的な発展に寄与すること」を信じると述べています。
昨年10月27日、28日規約人権委員会で日本の人権が審査された際に、婚外子差別、部落差別、代用監獄などとともに日本の死刑制度も審議され、委員会として「日本が死刑廃止への措置を講ずること、廃止までの間は死刑は最も重大な犯罪に限定されなければならないこと、死刑の執行を待っている被拘禁者の状況が再審査されること、また被拘禁者に対するいかなる形態での不当な取扱いも規制する予防的措置をさらに改善すること」を勧告しました。(三ケ月による執行は、この勧告の直後です。)
アムネスティ・インターナショナル(AI)の最新の資料(1993年12月現在)によれば、すべての犯罪について死刑を廃止した国は、オーストラリア、スウェーデンなど53カ国、通常犯罪についてのみ死刑を廃止した国は、カナダ、英国など16カ国、事実上の死刑廃止国(過去10年間無執行)は、ベルギーなど21カ国、そして、死刑存置国が、日本、中華人民共和国、米国など103カ国となっています。世界の半数に近い国が、少なくとも通常犯罪につき、または、事実上死刑を廃止しています。世界は死刑廃止に向かっていることは明らかです。
《何故死刑を廃止しなければならないか》
前記のとおり、死刑は、国際的には人権問題として語られています。さまざまな理由から、死刑廃止を語ることができますが、私は、死刑が人権侵害であるというその一点において死刑廃止を主張したいと思います。人権侵害の究極は人の命を奪うことです。殺人は、究極の人権侵害の行為であって、憎むべき行為であり許されません。さあ、犯人を捕まえたとしましょう、決して冤罪ではありません。この犯人を国家が正義の名において殺すことが死刑です。再び、しかも、計画的に究極の人権侵害を犯罪者に対して行うことが死刑です。殺人は許せません。同じ理由で、死刑も許せません。なぜなら、いずれも、人権侵害であり、人間の尊厳を傷つけるものだからです。
遺族の感情を語ることで死刑制度を擁護する人がいます。この人たちは、事件と関係のない第三者である場合が多いのです。本当の遺族の感情を軽視することはできません。犯罪被害者や遺族に対し、経済的及び精神的に支援するシステムが用意されるべきであると考えます。犯人を死刑にすることで、遺族が本当に慰められるでしょうか。慰められると考えることは、遺族の尊厳までも傷つけることにはならないでしょうか。
《死刑廃止に向けた活動》
AI日本支部では、死刑廃止ネットワークセンターが大阪と東京で、各国への死刑廃止の働きかけの調整や、国内の死刑廃止団体と協力しながら日本での死刑廃止のための活動をしています。AI日本支部もその構成員である「死刑廃止条約の批准をめざすフォーラム90」の運動の成果として、今年4月に死刑廃止を推進する議員連盟も結成されました。国内においても死刑廃止の運動は盛り上がってきています。また、地方議会で死刑廃止の意見書を採択するべく、市町村議会議員に対し全国のAIのグループが働きかけています。昨年、高槻市議会と泉南市議会が死刑廃止の意見書を採択したことを受けて、これを全国に広めるために、AI死刑廃止ネットワークセンター大阪がよびかけているものです。今後、教職員組合や自治体などの労働組合などにも死刑廃止のための働きかけをしていくことになると思います。
尚、AIでは免田栄「獄中の生」(監督・小池征人)を上映します。元死刑囚免田栄さんが獄中から出し続けた手紙を元に作られた映画です。AI東京事務所職員岩井信(死刑廃止担当)を中心にフリートークの場も設けますので、死刑廃止を考えるきっかけとして参加されるようお願いします。 (岸田和男)
免田栄「獄中の生」上映とフリートーク 主催:AI日本支部関西連絡会
日時 6月4日(土) 18:30~21:00 (開場 18:00)
場所 アピオ大阪 (森ノ宮駅西へすぐ。TEL06-941-6332)
参加費 当日 1000円 前売 800円
問い合わせ先 AI大阪事務所 (TEL06-376-1496)
【出典】 アサート No.198 1994年5月15日