『詩』 オープニング
大木 透
自由を手にいれて
人々は
まず報復にでる
オリから放たれた
獣が
最寄りの血を
求めるように
開放者も
角で撃たれ
踏み潰される
古い武器庫に
殺到する瞳は
燃え上がっている
自由を手にいれて
人々が
学ぶことは多い
身を賭して
罵りあい
決闘を繰り返し
幾世代が過ぎるであろうか
ツンドラの彼方に
市場の
神々のブラックホールが
創生されはじめていることを
予感する体力さえ
残っていない
アダム・スミスも
カール・マルクスも
その末えいたちの
骨の髄まで
しゃぶりつくして
なおも
山の彼方に
眼を凝らすであろうか
かの国
この国の
若者たちは
あの
シュニトケの
晩鐘の誘いに
耳を
ふさいでまで
(1991.12.2)
【出典】 青年の旗 No.171 1992年1月15日