【投稿】労働時間短縮に向けた取組みについて
3月に東京で行われた「春闘討論集会」(主催:労働運動研究会)に参加したところ、「連合」時短センターの方の「労働時間と生活時間」と通した報告を伺うことができました。「連合」の労働時間短縮に向けた取り組みを知る上で参考になることもあるかと思いますので、その際に報告された内容を以下に紹介します。なお、これは私のメモと記憶に基づいて作成したものですので、報告された方の内容を正確に再現できていないかもしれません。その点は報告者の方、また当日の企画の主催者の方にこの場でおわびさせていただくとともに、読者の皆さんにもご勘弁いただきたいと思います。文中の小見出しは私が勝手につけたものです、また当日の報告では最初の部分の労働時間の実態についてグラフなどを用いてだいぶ詳しく報告されたのですが、その内容は連合白書に掲載されている資料をご参照いただければ理解できると思いますので大幅に削除しました。必要な方は、それらの資料に当たってご検討いただければ幸いです。
○はじめに
春闘は専ら賃金闘争を中心としてきましたので、労働時間短縮が大きく取り組まれるようになってきたのはここ2年くらいのことです。連合の中では産別によっては秋に取組みを行うところもありますので、今回の春闘に取り組むのは44産別です。そこでは労働時間短縮を大きな課題として取り組んでいます。
○日本の労働時間の現状
まず日本の労働時間の現状についてみてみますと、1960年代から70年代までの高度経済成長の時代には労働時間の短縮が進みました。これは労働力市場が売手市場であったためです。75年、オイルショックの頃からは年間労働時間が2100時間ぐらいで横ばいとなりました。それがずっと続いて、1980年代の半ば頃からここ3年くらい少しずつ短縮されてきています。しかし現状では欧米諸国とは年間200~500時間の差があります。また、ここ数年の傾向では所定労働時間は減少し、その-1一方で残業時間が増えています。1990年については、全産業平均で年間2052時間で所定内労働時間だけでなく残業時間も初めて短縮されました。ただし、この労働時間については産業の違い、企業規模の違いによって、更にその企業の中での所属する部門の違いによって、また、男女の間で、あるいは年代によってそれぞれ大きく違っています。
例えば運輸業(道路貨物)のように年間2600時間を越えるところもあれば、生命保険業のように1800時間程度のところもあります。また金融業のように数字では少ないのに、サービス残業というものが多いところもあります。
企業規模によって労働時間が大きく異なっているのは週休2日制の普及状況の相違にもよります。大企業ではおおよそ70~80%に週休2日制が普及していますが、中小企業ではまだ少なく、あっても4週6休という状況です。そこで、大企業では所定労働時間が短縮される一方で残業時間が長くなり、中小企業では残業時間は大企業とそれほど変わらないか、少ないくらいなのに所定労働時間が長いという状況もあります。
所属する部門の違いでは、営業部門や開発部門などの間接部門などが良くなっています。男女差ではやはり男性の方が良くなっています。先ほど産業によっても大きな違いがあると言いましたが、女性の多い企業では労働時間が短くなっています。先ほどの生命保険業などはそうです。しかし、男女雇用機会均等法の導入以降、女性に対して総合職ということで募集がされるようになって、そういう所で働く女性の労働時間は長くなる傾向にあります。
また、労働時間でいえば、年次有給休暇の付与一日数と取得日数も問題になります。皆さんは年次有給休暇を完全に取得されていることと思いますが、全体的に見れば取得日数は多くありません。公務員関係の方は違うかも知れませんが民間では年次有給休暇の日数は平均して15日、そして平均取得日数は7日となっていて、これについては90年は89年よりワンポイント低くなっています。週休2日の進展状況に応じて取得日数が落ちてきているわけです。これはお金にすれば何兆円にもなるもので、組合でまとめて買い上げたらなどという詰もあります。
○長時間労働の40才代:
時短と賃金、そして労働組合の機能
最後にこれが大きな問題ですが、年代別で40才台の男性が一番残業が多く労働時間が長くなっています。これはこの年代の男性は住宅費用、教育費などが多く掛かるので月当たり20~30時間の残業を最初から見込んでいる人が多いためです。昔、私、総評の有力産別に「時間外労働の見直しを進めたいので」とお願いにいったところ、幹部の方から「なにを言っているんだ、会社から残業代を取れるかどうかが自分が役員でいられるかどうかの勝負なんだ。それを残業を減らせなんて総評はなにを言っているんだ」と言われたことがあります。つまり、住宅問題、教育問題が制度的に解決しないと労働時間短縮はなかなか進まないんじゃないかと思います。要するに、労働時間問題というのは結局のところ賃金問題であって、時短と賃金問題が堂々巡りしているんだと思います。またこれは労働組合運動の大きなテーマだと思いますが、企業側の人事管理政策もあって、この年代の男性は出世思考というのが出てくる面もあります。40代になると目指すゴール地点が見えてきて、自分がそこまで行けるかどうかで追い詰められてくるわけです。結局は労働組合機能がどこまで及んでいるのか、という問題になると思います。課長、管理職というのは組合員ではないわけですが、「課長」という肩書きがありながら実は上と下に挟まれている中間管理職が一番多くの苦悩を抱えているわけです。それを組合が突き放すのか、あるいは仲間に入れていくのかということは大きな組合のテーマだと思います。本当の管理者とそうではない「管理者」がいるんではないかという気がします。
○「連合」の目指す年間労働時間1800時間モデル
「連合」としてはレジュメのような年間労働時間1800時間モデルを考えています。旧西ドイツでは大体年間の総労働時間が1700時間代の後半、アメリカでは1900時間ぐらいになっています。まあ、ドイツやアメリカではこの時間は製造業・生産労働者、ブルーカラーのの労働時間であって、ホワイトはもっと長いと言われています。日本はブルーカラーもホワイトカラーも皆一緒にしていますのでちょっと違うかも知れませんが、まあドイツとアメリカの中間ぐらいを目指しているわけです。年間1800時間の労働時間とするためにレジュメにあるような休日、年休、時間外労働、所定内労働時間を想定しています。
週休2日制と週40時間社会の早期実現、全ての産業、全ての企業規模の労働者が年間労働時間1800時間を享受できるようにしたいということでやっているわけです。
(資料:当日配布されたレジュメから)
l(「連合」構成組織の労働時間の現状と目指す目標)
目標モデル 現 状
年間総労働時間 1800時間 2114時間
7.5時間(一日/所定内労働時間)×240日(年間労働日数)=1800時間
週休休日 104日 87.9日
週休以外の休日 21日 21.3日
年休完全収得(平均) 20日 11.4日
時間外労働 150時間 253時間
○労基法切り上げ-93年4月からの週40時間労働を目指して
そこで、どのような運動を組むかということで、まず一つとして労働基準法の切り上げを考えています。労働基準法は皆さんご存じのように3年前に改正されました。この改正に対してはいろいろな意見があって、結局当時の総評も反対はしたわけですが、とにかくこの改正で本文に週40時間労働が明記されたわけです。しかし、当面の労働時間は政令で、まあ閣議で決めていこうということになっています。この改正では、週46時間からスタートしたんですが、週48時間のグループがあり、もう一方に週54時間のグループもあります。週54時間というのは、一日9時間、週54時間で、5人未満の理美容、飲食店などです。労働基準法は企業親模に関係なしに全ての事業所に通用、しかも違反者には罰則付きで、通用されるわけですから、全部一律にというわけにもいかなくて週54時間というグループもあったわけです。そこでこの三つのグループでスタートしてきたわけです。
週46時間スタートというのは大企業グループで、こういうところは労働協約で大体40時間前後になっていますからあまり影響はないんです。また、300人以下の事業所を中心にして、原則として週48時間に据え置くということでスタートしたものですからこういうところでも最初はほとんど影響がなかったわけです。しかし、今年から46時間のグループは週44時間に、48時間のグループ週は46時間に、54時間のグループは週48時間にとそれぞれ、2時間、2時間、6時間ずつ短縮されます。そういうことで今度始めて労働基準法が利いてくるわけです。労働省はこの点だいぶカを入れていまして、労働組合より頑張っていると言ったら少し言い過ぎかも知れませんが、社会保険事務所などを使いながらかなり全国的に、毎年2000事業所を対象に、就業規則の書き替えなどを指導しています。なにしろ労働基準法は罰則付ですからこれはかなり利くわけです。これが中小規模の事業所の時短にかなり大きく影響し、統計上に現れてきています。
そんなことで、今度週44時間になるわけですが、政府は週40時間をいつ頃に実現させるのか言っていません。3年前の参議院での国会答弁で社会党議員の質問に答えて「1993年頃に年間1800時間にしたいと考えてもらってよい」と答弁しているだけです。「連合」は労働基準法を切り上げることは労働時間短縮にとってかなり有効な手段であると考えています。
そこで、1993年4月1日から週40時間労働にすべきだと、この国会でやるつもりです。ただしその際に、中小はどうするのか、全部一緒にヨーイドンでやるのか、あるいは格差をつけて1995年から週40時間とするのかということについてははっきりしていません。今のところは「猶予処置廃止」ということでやっています。日本は中央集権的でドイツやイギリスなどのように労働契約型ではありません。そういう意味ではフランスに似ているのかも知れませんが、ドイツやイギリスなどは基準法ではまだ週48時間などとなっているんですが、労働協約で時短を進めているわけです。また日本では組合が弱くて、圧倒的に未組織も多いですから労働基準法を切り上げていって労働時間を短縮させるというのが有効だと思っています。
○今春闘の闘いで、91人勧週40時間労働実施時期の明記を
もう一つの運動としては、公務部門の時短を進めるということです。政府は公務部門を前に出して時短を進めようとしています。賃金は民間準拠で行くけれど時短は民間にまかせていては全体を引っ張れないと考えているわけです。まして地域社会に与える影響は公務部門はかなり大きいのでこれでやっていこ、としています。最初は全金融機関を閉店でもってやりました、次いで今、自治体で4週6体制になっています。国家公務員は4週8休で試行になっています。ただし、病院だとか税関などの交替制職場はまだ試行に入れないでいます。これは臨調・行革で「予算は増やさない、人員を増やさない、サービスは低下させない」という条件が付いていてできないからです。病院、看護婦の問題などはまさに人員問題なわけです。このグループが4週8休、すなわち週40時間労働に入れるかということは大きな問題なわけです。
自治労は「1991年7月1日から全ての地方公務員も4週8休の試行に入るようにこの3月中に団体交渉で詰めるように」という指示文を既に出しています。これがどうなるかわかりませんが今年8月の人事院勧告で4週8休ということが明記されるようになれば、我々が主張している週40時間労働の条件ができるわけです。したがって「連合」がいま一番問題にしているのは、この春闘でまず民間ベースでの時短がどこまでいくかということです。いくら官を前に出すといっても、この春闘が終わると5月、6月に民間への調査が行われ、その結果が人勧に反映されるわけです。我々は昨年の人勧で「91年から4週8休を実現させる」と時期を明記させるために、そのための運動を組んだわけですが、時期は明記されませんでした、ただし、一般論として「公務員が週40時間労働になることは必要だ」と書かれていますが‥。昨年明記されれなかった最大の原因は民間ベースでそこまで前進させる運動が弱かったからです。「連合」の今年の方針は「週40時間労働に今年メドをつける」という大変なものです。連合のことを「ペーパーユニオン」という人もいますけれど、まあ「メド」をつけるというペーパーはあるわけです。そういうわけで、今年8月に出る人勧で「いつから週40時間労働」というように時期を明記させたいと考えて、8月まで、この春闘を入きな山場と捕らえて取り組んでいます。
○取り組み始めた学校5日制
もう一つは学校5日制の問題です。既に9県、68校で土曜日授業なしを試行していますが、なにしろこの学校5日制に対しては非常にいろいろな世論があります。例えば、「教育水準が低下するんじゃないか」、「カギッ子が増えるんじゃないか」、「今よりももっと塾通いが多くなるんじゃないか」などです。また、教師の労働時間というのはあまり統計もなくて、一般的には「教師は夏休みや春休みがあって休日が多いんじゃないか」などと見る人が多いわけです。しかし、世界的に年間の授業日数を比較してみますと日本は大体220日ですが、欧米では180日ぐらいですから日本の方がゆとりがないわけです。
組合の方も日教組はかつてはそれほどやっていなかったんですが、最近は言い始めました。ここにはいらっしゃらないかも知れませんが、全労連の教組は学校5日制に消極的です。また、日教組の中でも割合と左派の人達は消極的です。この間も福岡へ行きましたがそのようなことを聞きました。公労協でも内部には「遅れている学校5日制も抱えると公務員全体の時短がそれに引っ張られて遅れるんじゃないか」と心配する声もあるようですが、ともかく一緒にやっていこうということになっています。休みが一日増える子供達を地域で受け入れる条件の整備、社会施設の整備、教員OBの活用なども考えながら進めていかなければならないと思います。現在でもミッションスクールなどでは5日制になっているわけです。
まあミッションスクールに入れている家庭の所得水準や家庭状況などがどのようなものなのかは、よく知りませんが、教育水準が低下したとか、非行が増えた、などの問題は5日制だからといって特に起こってはいないと思います。こういうふうにもうやっているところもあるわけですから、まあこの学校の問題は1993年ぐらいまでに目処を付けたいと思っています。
○時短の前進に不可欠な生活・社会のあり方の見直し
次いでここからは私の問題意識ですが、労働時間短縮を進めていくためには、「重層的な産業構造と過当競争」「日本的労使関係の特質」、「労働者の生活意識--なぜ時短より賃金か」、「営業時間の延長-労働時間の延長(サービス提供と利便)」といったことを見直してみる必要があります。つまり、春闘での賃上げが消費に回り、労働者自身が消費生活、よりよいサービスを求めるということもあるわけですが、例えば、サービスのあり方について、同じ運送業であっても一方には個人で営業する白ナンバーの運送業があり、他方ではちゃんと組合があって規制が利いている青ナンバーの運送業者もいます。
自ナンバーの運送業には30才ぐらいまでに稼げるだけ稼いで引退しようと、週に6回も東京・大阪を往復して月100万円も稼ぐような人がいます。過当競争なわけですから、皆がそういうところを利用すると、組合のある青ナンバーの方が条件の悪い白ナンバーのの方に合わせなければならなくなります。下方に合わせていくわけです。郵便局なんかも相当やっていますが、そのようなありかたを見直すべきだと思います。また、セブン・イレブンのように足りない物をしょっちゅう電話して持ってきてもらうようなところでは、それに応じるために製造・輸送も24時間体制になる必要があります。バスも深夜化になっています、そういう深夜バスに乗る人は、まあ働いていて遅くなる人も多いわけですが、そうでない方もかなりいるわけです。こういうものを少し考えなおしてみたいものです。
また、取り引き慣行の見直しも必要です、週休2日の親会社から子会社へ週末に発注して次の週初めに納品を要求するような関係を見直す必要があります。官公庁の事業の発注にしても、年度末に集中して発注し、その時期には土木・建設業が大忙しになるが、他の時期には暇になるというようなことを改め、年間を通じて仕事の発注を均すようなことが必要です。また、日本は企業別組合だとよく言われますが、それだけ言っていても仕方がないので企業別組合になりの良いところを生かしていくべきだと思います。私鉄と民鉄協との交渉のような産業全体での統一交渉というのはなかなかないわけですが、組合レベルでより高い水準を競いあって、そうして横並びに進めながら産業全体として同一レベルになるうな取り組み、機能を持つということが必要だと思います。
○多様性を認めあった組合運動
最後に、労働組合の組織率が25.2%になったと言われますが、逆に言えばまだ25.2%も組織しているということだと思います。労働者が増え、分母が多くなっている中の25.2%で、やはり日本では最大の組織団体のわけです。このことを問い直してもいいんじゃないかと思っています。基調で「春闘再構築」というようなことも言われていましたが、春闘のために半年以上もかけて準備をしながら、なかなかそれに見合う成果がないというようなこともあります、けれどとにかく春闘というのは年に何回か組合を知ってもらえるという時期でもあるわけですからやはり大事だと思います。また、組合員もかつてのように一つの課題を決めて、さあ、そこへ一斉に繰り出そうというわけにはいかなくなっています。年代ごとに、男女ごとに非常に多くの要求、課題が出るようになっています。組合員の価値観も多様になっているわけです。こういう多様性を認めあった組合運動が必要なんじゃないかと思っています。
(報告者 W.K.)
【出典】 青年の旗 No.165 1991年7月15日