【投稿】差し迫る経済危機の兆候ー 経済危機論(1)

<<「逆イールド現象」の発生>>
経済危機突入の予兆が現れだしたと、多くのメディアが指摘し始めている。きっかけは、景気後退の予兆といわれる長短金利の逆転(逆イールド=満期までの期間が長い債券の利回りの方が、短い債券の利回りよりも低くなる。長期金利の指標である10年物国債利回りと、2年物や3カ月物の国債の利回りを比べるのが一般的)である。逆イールドの発生から1年程度で大規模な株価暴落や世界的な景気後退期に突入しており、2008年リーマンショックの前年にもこの逆イールドが発生していることから、大きく問題視されだしたのである。
そして現実に、この8/14にアメリカの債券市場で、12年ぶりに長期債と短期債の金利が逆転するこの「逆イールド現象」が発生、10年物国債利回りが、2年物国債利回りを1.9ベーシスポイント下回ったのである。先週は過去最高値の水準まで上昇していたニューヨーク株式市場で売り注文が殺到、ダウ平均株価が800ドルも急落、しかもダウ平均を構成するすべての銘柄が下落したのである。さらに今回は、アメリカとイギリスの2カ国でこの逆イールドが同時に発生している。アメリカはトランプ大統領の見境のない貿易戦争で、イギリスはEU離脱問題で、どちらも不安定極まりない政治・経済状況に直面しているだけに、リーマンショック級の大恐慌の不気味な状況に突入するのではないかと、不安が交錯しているのである。同日、東京株式市場でも株価は一時、470円以上下落している。
リーマンショックは金融資本が抱える不良債権、クレジットバブルの崩壊がきっかけであったが、今日の世界経済は当時よりもはるかに重大な内的危機に直面しており、それは貿易戦争、関税戦争、通貨戦争、脱税戦争、そして移民排斥・民族主義的憎悪戦争として世界各地に顕在化している。嫌韓・反韓民族主義が煽られる日本にとってもよそ事ではない。10月の消費税増税は、安倍政権にとっては思いもかけぬ悪いタイミングで、世界経済危機突入の先鞭をつけるかもしれないのである。
問題は、こうした危機突入をむしろ自らの政治的経済的利益の達成に利用せんがために、本来なら危機を回避できる政策、オルタナティブ、ニューディールを放棄して、意図的に危機を利用せんとする動向であり、論調であり、警戒を要するものである。

<<危機差し迫る「11の理由」>>
その問題に入る前に、差し迫る経済危機の兆候を、具体的に確認しておこう。以下は、The Economic Collapse Are You Prepared For The Coming Economic Collapse And The Next Great Depression?(経済崩壊 あなたは迫る経済崩壊と次なる大恐慌に備えていますか)というブログで、マイケル・スナイダー(Michael Snyder)氏が挙げている「非常に多くの専門家が現在、米国の経済危機が差し迫っているとする11の理由」である(8/19付け)。
1.先週、「米国の2年利回りと10年利回りの差」は12年ぶりにマイナスに転じた。 1950年代以降、米国のあらゆる不況の前にイールドカーブの反転が発生しており、これはこれまで見てきた中で最も重要な経済的シグナルの一つである。
2.米国の消費者信頼感指数は、2019年全体で見た最低レベルに下落した。
3.全米経済学会が調査したエコノミストの74%は、2021年末までに米国で景気後退が始まると考えている。
4.米国の工業生産は縮小領域に転じだした。
5.Markit米国工業購買担当者景気指数(PMI) は、2009年9月以来の最低レベルまで低下した。
6.2008年と同様、ウォール街は大きな株価の乱高下に見舞われ、今月は、米国株式マーケット史上、一日の下げ幅が4番目と7番目を記録している。
7.米国での破産申請件数が着実に増加しており、この7月中にさらに5%増加した。
8.米国の大手小売業者は引き続き多くの店舗を閉鎖しており、1年で閉店する史上最高の記録を破るペースを維持している。
9.米国の貨物輸送量はこの8か月連続で減少している。
10.ニューヨーク連邦準備銀行によると、景気後退が今後12か月以内に発生する可能性は、前回の金融危機以来の最高水準となった。
11.トランプ大統領は、FRB(米中央銀行、連邦準備制度理事会)が金利を100ベーシスポイント引き下げ、速やかに量的緩和を再開すべきだと申し入れており、いずれも「緊急対策」として、大不況が差し迫ったものであることを示している。

<<「減速の車輪が動いている」>>
トランプ氏は、FRBの煮え切らない態度に、「利上げする時は急いだのに、利下げは非常に遅い。長短金利の逆転はクレージーだ!」などとツィート上で盛んに激怒している。責任転嫁の姿勢でもある。ところがその一方で、それまで自らの脱税に加え、「金持ち減税」「大企業減税」にまい進してきたトランプ政権が、緊急の一時的対策として給与所得減税を検討していると報じられている。これは最悪の事態に備えんとする一つの動きとも言えよう。大統領就任からすでに2年半以上経過しても、トランプ氏は支持層を広げられず、それどころか、この8月上旬のギャラップ世論調査では、非白人からの支持率が就任時の20%台から10%台前半にまで低下している。来年、2020年大統領選を目前に控えるトランプ氏にとっては、底堅いはずの支持率も低下をし始め、給与減税はこれを挽回する、小手先でもいい一つの対策でもあり、いかに重大な危機に直面しているかの証左でもあろう。
スナイダー氏は、この11のリストでは、アメリカに限定し、急速に拡大している中国との貿易戦争について言及していないが、この問題だけでも、世界経済全体が非常に深刻な不況に陥る可能性があることも指摘している。また、ドイツ、ブラジル、イタリア、メキシコ、その他多くの国の経済も脆弱性を示しており、とりわけ重大な不確実性は、イギリスの10月の欧州連合離脱と、マイナス成長へと落ち込みが目立つドイツ経済の深刻な不況への突入の可能性にあることも指摘している。
実際に、アメリカをはじめ世界のほとんどの経済状況が、リーマンショックの2008年よりもはるかに不安定であり、危機はより深く進行していることを示していると言えよう。より厳しく言えば、「一年後」どころか、世界経済は既にリセッション入りしていることを、経済指標が示唆している。
主要な経済・産業指標のほぼすべてが今や、景気は既にかなり減速していることを裏付けている。製造業、鉱工業生産、新規受注、設備投資、建設活動、自動車生産、貨物取扱量などに関する指数は世界中で前年同期に比べて横ばいか、悪化している。金融市場も、景気は既にリセッションに入ったか、近くそうなる可能性が高いことを示している。モルガンスタンレーのチーフエコノミストは、一般公開メモで「いくつかの世界経済の下降トレンドは、製造部門の弱さが広がり始め、伝染病になりつつある、すでに減速の車輪が動いている」と明確に述べる事態である。
問題は、こうした経済危機の進行が、不寛容な排他主義・民族排外主義の波を随伴している、それが同時に経済危機をより深刻なものとさせている危険性である。これはリーマンショック時にはなかったものである。トランプ政権だけにとどまらず、直近では、ヒンズー至上主義のインドのナレンドラ・モディ政権が、イスラム教徒住民が多数を占める北部ジャム・カシミール州の自治権を強引に剥奪し、暴走し始めたことにも現れている。危機を扇動することで虚勢を張る、対韓国で強硬姿勢を意図的に強行する安倍政権も同類と言えよう。
こうした事態の進展には、世界的な経済における構造的・質的変動が背景に存在していることが指摘されなければならないであろう。それは、次回以降に論じることとしたい。
(生駒 敬)

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