<<実体経済と乖離した株式市場>>
このところ、米・ニューヨーク株式市場は、連日、大型株指数のS&P 500、ハイテク株中心のナスダックともに史上最高値を更新し続けている。しかしその実態は、実体経済が回復してきたからではなく、むしろパンデミック危機を利用したわずか6~7株が史上最大の時価総額の拡大を記録していることからきている。上位5銘柄が、S&P 500の25%に相当する事態であり、わずか7銘柄の時価総額が現在、米国のGDPの39%に相当する異常さである。その投機市場へ、純然たる売買差益追求=マネーゲームにむらがる、大量のマネーが流れ込む、しかもその資金源は中央銀行であるFRBが無制限に提供することを確約している。当然、市場を大きく歪めていることが歴然としてきている。株式市場は表面上は好調であるが、フォーブスは、市場は「約77.0%過大評価」されていると指摘する事態である。貧富の格差はとめどもなく拡大し、しかもそれは放置されている。トランプ政権はパンデミックを放置しただけではないのである。
実体経済は、実質経済成長率・GDP4~6月期が年率32.9%減という過去最大の歴史的後退の真っ只中にあるにもかかわらず、株式市場は今や完全に実体経済から乖離してしまったのである。2800万人以上のアメリカ人が現
在、失業手当を申請しており、過去22週間で5,730万人が失業手当を申請し、この内、最初の失業手当申請者の支給期限が終了する8/15には、110万1600人が再び失業手当を申請したと米労働局は発表(8/20)しており、減少するどころか増大しているのである。同時に追加として、543,000人の労働者、いわゆるギグ労働者、自営業者、独立請負業者がパンデミック失業支援(PUA)プログラムに基づいて申請していることも明らかされている。そして多くの食料にも事欠く人々がフードバンクに列をなしている厳しい現実は依然として解消されていない。
もちろんアメリカだけではなく、日本もGDP同期年率27.8%減という戦後最悪の記録であり、イギリスは59.8%減、ドイツ34.7%減、フランス44.8%減、イタリア41.0%減、と主要先進国は軒並み、最悪の経済危機の事態に落ち込んでいる。(一方、GDP同期年率、中国は3.2%増、台湾0.58%減、韓国3.3%減と、対照的である。)
にもかかわらず、株式市場は実体経済と完全に遊離して、各国中央銀行が超低金利で提供する大量の金融緩和マネー、「ヘリコプターマネー」を原資として、金融資本主義の行き着く先である投機・マネーゲームの極大化から脱出できない事態にはまり込んでいるのである。皮肉なことに、超低金利の下でアメリカの金融資本・5大銀行の4~6月期連結決算は、純利益が前年同期比47.8%も減少し、景気回復どころか、人員整理・レイオフが進行している。株式トレード部門だけが利益を稼ぎ出している構図でもある。
<<経済を食い尽くす「金融癌」>>
この8/27-28、主要国の中央銀行首脳らによる年次シンポジウム(ジャクソンホール会合)が今年はオンライン形式で開かれる。今回のテーマは、「今後10年間の指針ー金融政策への示唆」である。FRBのパウエル議長が「金融政策の枠組みの再点検」と題して冒頭講演を行う予定であるが、こうしたマネーゲーム市場にいつまで資金を提供し続けるのか、出口戦略が問われ、決断が迫られているが、明確な指針を打ち出すことはおろか、自らはまり込んでしまった投機市場の強大化を規制し、方向転換する戦略を提起する、ニューディール政策を持ち合わせていない以上、「大きすぎて」止められない株式強気市場に口先だけの安心感しか与えられないであろう。
FRBは今や、米国最大の機関投資家となり、自己取引とデジタル操作による無制限の印刷機の力・金融創造の力を通じて、市場に君臨し、なおかつ市場にもてあそばされてもいるのである。強気の投機市場を演出・維持できたとしても、それは実体経済とかけ離れている限り、あくまでも事態を糊塗する人為的なものである。遠からず破綻せざるを得ないものである。
今や中央銀行の緩和マネーは、実体経済の不健康さを覆い隠し、株高を演出し、安心感と陶酔感をもたらすコカイン服用のような依存症を蔓延させているのである。こうした実体は、実際には実体経済を侵食し、転移し、食い尽くす悪性のがん、となっているとも指摘されている。(「市場」が下がらないのであれば、システムは破滅する Charles Hugh Smith チャールズ・ヒュー・スミス 8/6)
経済を食い尽くす金融癌を取り除く、致命的な下降スパイラルに陥ることを防ぐ、巨大なバブルを切開し、不必要な死に至る病を取り除く、根治的治療としての政策転換、ニューディール政策があらためて要請されているのである。
(生駒 敬)