【投稿】経産省のエネルギー基本計画の物語で動く菅首相の「温室効果ガス50年ゼロ宣言」

【投稿】経産省のエネルギー基本計画の物語で動く菅首相の「温室効果ガス50年ゼロ宣言」

                             福井 杉本達也

1 宮城県知事の女川原発2号機再稼働同意

村井嘉浩宮城県知事が、11月11⽇、東北電⼒の⼥川原発2号機の再稼働に同意した。⼥川原発は3.11の震源地に最も近い原発で、地震の揺れと津波で被災、1号機は外部電源を喪失した。福島第一原発のような過酷事故はなんとか免れたものの、安全性には疑問がつきまとう。福島第一と同型の沸騰⽔型軽⽔炉(BWR)であり、何ら福島第一の事故原因の検証が進まない中での再稼働同意である。同意を表明した村井知事は「原発がある限り事故の可能性がある」、「原発事故を教訓として更に高みを目指す。技術革新していく。事故がダメなら乗り物、食べ物も否定される」と支離滅裂の言いわけに終始した。事故時の避難計画の実効性も置き去りのままである。30キロ圏内で暮らす住民は約20万⼈であるが、事故時の避難道路は、昨年の台⾵19号によって冠⽔や⼟砂崩れが相次いでいる。住民の命を預かるべき知事の完全な暴走である。

2 所信表明は「脱炭素社会宣言」ではなく、「原発再稼働宣言」

菅義偉⾸相は10月26日の所信表明演説で、温室効果ガスの排出量を2050年までに実質ゼロとする目標を掲げた。「再生可能エネルギーを最大限導入するとともに、安全最優先で原子力政策を進めることで、安定的なエネルギー供給を確立します。長年続けてきた石炭火力発電に対する政策を抜本的に転換します。」と表明した。“挑戦的”な「脱炭素社会宣言」ではなく、“挑戦的”な「原発再稼働宣言」である。日経は早速、社説で「火力発電を減らす場合、すべてを再生可能エネルギーでは補えない。再稼働が進まず老朽化する原子力発電にどこまで頼るのか」(2020.10.27)と再稼働への期待を主張する。世耕弘成参院幹事⻑は「⼆酸化炭素を出さずに⼤量のエネルギー供給ができる電源は原⼦⼒」「原発の再稼働や新しい技術を取り⼊れた原発新設の検討を進めていくことが重要だろう」と強調している。

3 原発ゼロでは「エネルギー基本計画」が成り立たない

「エネルギー基本計画」を21年夏をメドに改定するが、18年7月に閣議決定され現計画は大幅な変更が必要だ。計画では30年度の電源構成について原子力発電を20~22%、太陽光や風力などの再生可能エネルギー22~24%、56%を石炭やLNGなどの火力発電と定めている。しかし、経済産業省は、梶山弘志経済産業相の「まずは今の目標値を達成することが大切だ」との言葉にもあるように、電源構成の大幅な変更には慎重姿勢である。福島第一原発事故以来、各地の原発が停止し、審査の長期化や地元の反対などで再稼働の動きは鈍い。国内総発電量に占める原発の割合は18年度でわずか6%である。一方の再生エネルギーは中国勢の太陽光パネルや欧州勢の風力発電設備などは海外製品ばかりである。「風力は海外メーカーの存在感が圧倒的で、大型部品を欧州から輸送すると60日かかり、コストが高い」(日経:2020.10.14)。「老朽石炭火力を停止」という“掛け声”からは原発再稼働による穴を埋めというストーリーを描いていることは間違いない。しかし、まさか基本計画に原発の割合6%などと書けるわけがない。事故を起こした同型のFRBでもなんでも再稼働させて10%以上の稼働を確保し、エネルギー計画に原発20%を維持したいとしたいのが本音である。

4 強引に福島第一放射能汚染水海洋放出や高レベル放射性廃棄物最終処分場候補地調査を進める

こうした、経産省の本音を、10月28日にの衆院本会議で菅首相は「『電源構成の一定割合を原子力で確保しなければ、目標達成は難しい』との答弁が裏付けている。また、同時に、福島第一原発にたまる処理水の処分については『いつまでも方針を決めず先送りすることはできない』と明言した」(日経:2020.10.29)。再稼働を強引に進めるにしても、福島第一の永久に不可能な“事故処理”を「処理」したことにしてごまかす必要がある。まずは、たまった放射能汚染水を海洋放出して「なかったこと」にしてしまおうというのである。当然、その先にあるのは膨大にたまった汚染土の山がある。公共事業と称して道路や堤防など各地の土木事業に使用しようと決めている。

もう一点が稼働後の放射性廃棄物の処分である。使用済みの核燃料は再処理してMOX燃料として“再利用”し、その後の高レベル廃棄物は最終処分場に未来永劫保管するという「核燃料サイクル」という絵に描いた餅がある。青森県六ケ所村にある日本原燃の再処理工場は1993年に工事が始まったが、相次ぐトラブルにより、当初の1997年完成予定は24回も延期され、現在は2021年度を予定している。規制委は、安全審査で「合格」の判断を示したが、福井県にある高速増殖炉もんじゅの廃炉をきめたことから、核燃サイクルの見通しが立たない。一方、海外からは再処理後の高レベル放射性廃棄物の“返還”を迫られ、どんどん放射性廃棄物がたまり続けている。また、福井県では使用済み核燃料の中間貯蔵所は県外に見つけると関電は約束している。しかし、そのようなところが見つかるはずもない。見つからなければ40年超の原発の再稼働の知事同意は得られない。何としても最終処分場を確保しなければ説得力に欠く。そこで、目をつけたのが、北海道の寿都町など過疎化で財政的に困っている自治体である。取りあえず、候補地があると基本計画に書き込みたいところである。

5 発展途上国に「脱炭素」を押し付ける先進国の「原発推進」と「傲慢」

先進国は「脱炭素」というが、発展途上国にとっては石炭火力発電所をやめろということである。すなわち経済成長を断念しろという脅しである。全くの先進国の「傲慢さ」の表れである。2016年、カンボジアを視察したが、遅れてASEANに加盟したカンボジアでは、首都プノンペンではは電力を民間IPPの小型のディーゼル発電所とベトナムからの輸入に頼っている。また、ポイぺトなど西部はタイからの電力輸入に頼っており、電力網は非常に貧弱で、電気料金は高い。地方では依然として不安定な供給事情にある。供給先のベトナム自体も経済発展によって電力不足気味であり、ベトナムからの送電線の故障により、プノンペンでも度々停電が起きている。そのような発展途上国にとっては手に入りやすく原料の安い石炭火力の建設は死活の問題である。

先進国は「脱炭素」を名目に原発稼働と発展途上国の経済抑圧を進めている。菅首相の「温室効果ガス50年ゼロ宣言」は経産省のエネルギー基本計画のストーリーに乗って動いているだけで、拙速で、強引かつ現実を全く無視した無責任な計画である。その証拠に50年に至る具体的実施計画は何一つ示されてはいない。日本の発展途上国への貢献は、石炭火力の廃止ではなく、石炭火力のエネルギー効率化など別な道で行うことが可能である。「総合的、俯瞰的」を繰り返し自らの考えを全く持たない国家のトップが経産省の操り人形として強引に進めようとする福島第一原発事故の“蓋”と原発再稼働ほど恐ろしいものはない。

 

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