【投稿】米国国民も世界もまた「涙の道」を通るのかー米大統領選結果
福井 杉本達也
1 軍産複合体と金融資本に力ずくで潰されたトランプの反乱
11月3日、米大統領選が行われ、7日、民主党のバイデンは勝利宣言を行った。しかし、郵便投票による大量の不正があるとして、トランプ大統領はまだ敗北を認めていない。今後、裁判闘争に持ち込み、まだ結果ははっきり出たわけではないが、事実上のトランプの敗北である。
新聞等によると、得票率はバイデンが7500万票、トランプが7100万票と、実に米国有権者の93%以上?という異常な高投票率であり、米西戦争直後の1900年の共和党:マッキンリーvs民主党:ブライアン(投票率73%)以来の高投票率という。日経によれば、「第 2次世界大戦後の投票率は公民権運動のあった60年代には62%を超ていたが、その後は2000年代に入るまで50 %台が続いていた。」(日経:2020.11.6)としており、「郵便投票の集計が進むにつれ、バイデン氏が票を積み上げ」、トランプに言わせると「魔法のように(リード)が消え始めた」のである。その後、日本のマスコミも評論家も投票率にいっさい触れることはない。19世紀末までに遡るような高投票率が、現在の米国で起こることはありえない。組織的な郵便投票を利用した不正があったことは数字上は明らかである。しかし、それをトランプが証明することは恐らく不可能であろう。
元外務省の孫崎亨氏も鳩山由紀夫氏との対談:「東アジア共同体研究所 UIチャンネル」『米国大統領選挙結果を考察』(2020.11.9)において、①なんの問題もない投票ではなかった。②郵便投票が本人のものであったのかどうなのか。③簡単に不正ができるシステムだったと指摘する。今回の大統領選は米国にとっては非常に重要な選挙であったとし、資金力はバイデンがトランプの4倍を集めている。資金の出どころは、民主党支持者の5ドルや10ドルの資金カンパによるものではなく、裏に米国政治を操る金融資本がついているからである。その証拠として、民主党:予備選のスーパー・チューズデー(3月3日)の前日に有力候補であった中道派のエイミー・クロブシャーとピート・ブティジェッジが撤退表明をして、右派をバイデンに固めたとしている。孫崎氏は選挙の前日に候補者が自ら降りることはあり得ない。裏にディープステイトの圧力があったとしている。
2 投票率の高かった1900年とは米国にとって海外侵略・虐殺開始の年
1898年の米西戦争において、米国はキューバ:ハバナ湾での戦艦メイン号爆破・沈没事件を口実にスペインを攻撃し、結果、キューバなどを占領するとともに、当時、スペインの植民地であったフィリピンにおいても米比戦争を起こし、フィリピンを占領・植民地化した。西部への拡張とアメリカインディアンとの大規模交戦が終了し、軍は新しい土地と敵を望んでいたのである。オリバー・ストーンの『オリバー・ストーンが語る もうひとつのアメリカ史 1 二つの世界大戦と原爆投下』( 2013年)によれば、フィリピンではアメリカ軍が抵抗軍の奇襲受けた際、指揮官は「配下の部隊に対し、11歳以上の住民を皆殺しにして島全体を『獣の吠える不毛の地』に変えるように命令した」。また、新聞社の特派員によれば「アメリカ兵の仕打ちには容赦がない。男も女も子供も、囚人も捕虜も、反乱分子の活動家も容疑者も、10歳以上の者は根絶やしにするつもりで殺している・フィリピン人はどのみち犬も同然で…ごみ溜めに棄てるに限るという考えが蔓延しているからだ」と伝えている。12万人もの軍隊を送った米国は、フィリピンを平定するまでに3年半かかり、その間にフィリピンのゲリラ2万人、市民20万人が犠牲となった。
3 先住民(インディアン)を根こそぎ葬った「涙の道」こそ米国“疑似民主主義”の原点
藤永茂は、「米国の本質を見据える良い方法の一つは北米先住民の歴史を知ることです」として、インディアンという人間集団を壊滅させた歴史的記録を紹介する(詳しくは、藤永茂著『アメリカ・インディアン悲史』1972)。ミシシッピー河:「先住民(いわゆるインディアン)はその大河の両岸の全土にわたって住んでいました。東海岸から大陸収奪を始めたアメリカ合州国の人間たちは、ミシシッピー河と大西洋の間の土地に大昔から住んでいた先住民たちを西の地平の遥かな奥、ミシシッピー河の向こう側に追いやってしまおうと考えました。先祖伝来の土地を離れたくないインディアンたちは懸命に抵抗しましたが、結局、ミシシッピー河の西側への移住を強制」されることとなった。「1838年に時の大統領アンドリュー・ジャクソンが強行した一万数千人のチェロキー・インディアンの強制集団移住の1300キロの道行きがその代表的な惨劇『涙の道』」“Trail of Tears and Death”である。ジャクソンは老若男女を問わぬ北米先住民大虐殺に血道をあげた。『やつらには知性も勤勉さも道義的習慣さえない。やつらには我々が望む方向へ変わろうという向上心すらないのだ。我々優秀な市民に囲まれていながら、なぜ自分たちが劣っているのか知ろうともせず、わきまえようともしないやつらは環境の力の前にやがて消滅しなければならないのは自然の理だ。』と演説した。それから20年もたたずに強制移住させられたオクラホマの地に白人たちは土足で乗り込んできた。「1889年4月22日正午、オクラホマの境界の指定の場所に馬に乗って集合した無数の入植希望者たちは、正午を告げる号砲を合図に、先を争ってオクラホマ州内になだれ込みます」と記している(藤永茂ブログ:「私の闇の奥」2020.8.1)。この“西部開拓”=先住民(インディアン)の物理的・歴史的抹殺から10年もたたずに先住民虐殺・抹殺で強力となった軍隊で開始されたのが米西戦争である。
4 バイデンの背景は軍産複合体と金融資本
今次米国大統領選の本質について、孫崎氏は、グローバリズムの促進で→米国国内格差社会が広がり→トップ50人の資産は2兆ドルに達し=下位50%の1億6500万人分に匹敵する。この格差社会をどうするかという選択として、①金融資本、グローバル企業、軍産複合体中心の体制、②大多数利益追求(皆保険)、③「アメリカファースト」しかし、その中身は無自覚に①選択していくもの、として下記に分類している。
・これに対する政治的対応
①金融資本、グローバル企業、軍産複合体中心の政策ー従来の共和党、近来の民主党ーヒラリー・クリントン、バイデン
②低所得者に配慮ー特に国民全員への医療保険、高等教育負担、これにともない富裕層への増税ーサンダース、エリザベス・ウオーレン
③工場を米国内に。外国製品には高額関税ートランプ
②が①を支持することとなり、結局①と③との選択となった。
孫崎氏は、バイデンを動かす勢力は①ー軍産複合体であるが、冷戦時は無理をしなくても軍産複合体が潤うシステムがあった。「ソ連」という敵があれば、新しい兵器システムを次から次へと生み出していけばよかった。しかし、ソ連が1991年に崩壊し、対抗国がなくなってしまった。そこで、新しい敵を見つけなければならないとして、イラン、イラク、北朝鮮やテロ勢力を見つけ出したのである(孫崎:2020.11.8)。
ちなみに、クリントンとブッシュJr、オバマ政権下でどんなにクーデターと戦争が繰り返えされたのか。ソ連崩壊後のロシア、破壊されたユーゴ、ルワンダ・コンゴでの数百万の虐殺、アフガン・イラク戦争を続けながら、リビア・シリア・イエメン、ハイチ、ホンジュラス、そしてウクライナ。ブッシュJrの共和党員、CIA・ペンタゴンがこぞってバイデンの側についていることからもその性格はあきらかである。一方、トランプは軍事衝突直前まで行っていた北朝鮮との対決をやめた。また、ブッシュJrの始めた中東やアフガニスタンからも米兵を引き上げるとしている。しかし、トランプは国防省を制御できなかった。国防省はトランプとは関係なく動いていたのである。ところで、アゼルバイジャンとアルメニアの紛争で、シリアのテロリスト1000名以上がアゼルバイジャン側で戦っているという(共同:2020.10.10)。西側諸国ではこれを「自由シリア軍」などと呼んでアサド政権の打倒に利用しようとしたが、米国やトルコの傭兵であったことが今回明らかとなってしまった。
5 バイデンの日本への要求
孫崎氏はバイデンの日本への要求として①「有志連合」への参加を一段と強める。②極東・特に対中包囲網への積極的参加を求めてくるとしている。その他に③TPPへの復帰と米多国籍企業の要求を強めてくる。そのことによって日本の国益は益々おかされるとしている。たとえば、再び「種子法」が浮上してきており、種子と肥料と農薬が一体となって米多国籍企業が日本に売り込み、日本では個人農業が成立しなくなる。また、水道事業などにも多国籍企業が参入してくる。
それに対して、日本国内の状況はどうかといえば、トランプの意向を反映して積極的に動こうとする人間はあまり日本では少なかったが、再び軍産複合体と連携する勢力が息を吹き返す。この勢力はブッシュJr時代は、本来共和党内にいたのだが、トランプを嫌いヒラリー・クリントンを支持したため、4年間は干されていた勢力で、マイケル・グリーンCSIS上級副所長やリチャード・アーミテージ、ジョセフ・ナイなどのジャパン・ハンドラーと呼ばれる勢力であり、日経新聞なども紙面を読めば、CSISと提携し、毎回のように特集記事を組んでいるが、これに呼応する勢力の一つである。
トランプはアメリカ・ファーストだから、自国第一で、米軍も海外から引き上げたいのだが、もし置いてほしいというなら金をよこせということである。バイデンは同盟重視だから海外基地重視となる。辺野古移設の阻止はバイデンでさらに困難となる。
6 バイデンの中国政策
これまで「西洋文明が圧倒」していたが、これが中国にとって代わる。孫崎氏によると、CIAの調査では購買力平価では既に、中国が25.3兆ドル、米国は19.3兆ドル、日本は5.4兆ドル、ドイツが4.1兆ドルと米中は経済力で逆転している。これにコロナ禍でさらに差が広がるといわれる。中国の技術力も「5G」の特許ではファーウェイが3325、韓国サムスンが2846、ノキアが2308であるが、米クアルコムは1330、米インテルはわずか934しかないとしている。つまり、経済の量と質では米国は中国に抜かれている。その中国に対抗するには政治と軍事しかない。中国と普通の経済交流が出来ないように仕掛けていくのが、バイデン流の「同盟重視」であり、連携プレーにより中国包囲網を形成していこうとしている。
2015年の米ランド研究所の報告によると、もし、米中が戦争となった場合を想定すると、中国は特に米空軍基地を攻撃するとし、1200発の短距離・中距離ミサイルで基地の航空機や滑走路を破壊する能力があるとしている。特に沖縄の嘉手納空軍基地は第1の目標となる。そのため空軍を各地に分散する必要があると結論している。2017年以降は東シナ海においては完全に中国優位となっており、南沙諸島には米空母は近づくが、東シナ海には近づかないとしている。
いずれにしても、米国民も、日本も、世界も軍産複合体と金融資本がバックのバイデンによって「涙の道」を歩まされることになるのではないか。