【投稿】米・英・日:対中・対ロ軍事挑発の危うさ--経済危機論(54)

<<バイデンのイラク・シリア空爆署名>>
 6/27、米軍がF-15とF-16戦闘機を使って、イラクとシリアで行った最新の空爆は、バイデン政権がトランプ前政権よりも危険な軍事挑発戦略、緊張激化路線に乗り出した可能性を示唆している。
 米国防総省のカービー報道官によると、この空爆はバイデン大統領の指示により行われたもので、米軍は、イランの支援を受けた民兵組織が同地域の米軍関係者や施設に対する無人機攻撃を行うために使用している「シリアの2カ所、イラクの1カ所にある作戦・武器保管施設」を攻撃したという。「今晩の空爆で示されたように、バイデン大統領は米軍関係者を守るために行動することを明確にしている」とし、バイデン政権は、この空爆をあくまでも「防衛的」なものとして正当化している。しかし、問題は、この空爆がイランとの核取引を復活させるための交渉の最中に実行されたことである。強硬派と言われるイランの次期大統領ライシ氏が対米交渉に前向きであるにもかかわらず、トランプ前政権が2018年に破棄した「共同包括行動計画(JCPOA)」の復活交渉を棚上げ、あるいは放棄し、イランに対する壊滅的な制裁を強化する「最大限の圧力」作戦、つまりはトランプと同じ路線、より危険な路線に傾斜しだした可能性である。
 米国は、イラクに約2,500人、シリアに約900人の兵士を駐留させているが、いずれも違法な駐留である。米軍のイラク駐留は、2003年の違法な侵略以来の違法な駐留の継続、昨年のイラク政府の要請による退去を拒否して居座っているに過ぎないものであり、シリアにはシリア政府の許可なく違法に駐留しているものである。したがって、違法な駐留米軍には、そもそも「防衛的な行動をとる」権利など存在しないのである。バイデン政権が今回の空爆に使っている法的正当性など、根拠なしなのである。
 当然、イラクのムスタファ・アル・カディミ首相は、今回の米軍の空爆に対して、即座に「昨夜、イラクとシリアの国境にある施設を標的とした米国の空爆を非難する。これは、すべての国際条約に従って、イラクの主権とイラクの国家安全保障に対する露骨かつ容認できない侵害である」と非難し、バイデン政権にとっては予想外の手厳しい批判を招き、大きな溝を作ってしまったことである。
 シリアへの空爆では、住宅が爆撃され子ども1人が死亡し、少なくとも3人が負傷したという。直ちに、子どもや民間人が殺害されたことに対する報復として、デリゾール州にあるシリア最大のオマール油田に居座る米軍基地に対して少なくとも8発の「未知のグループによる」ロケット攻撃が実行されている。
 バイデン氏の空爆は、明らかに中東に新たな緊張激化のエスカレートを招いているのである。
 バイデン政権にとってさらに問題なのは、バイデン大統領が、議会の承認を得ずに空爆に署名したことである。この空爆の2週間前、6/17、米下院は、イラク戦争の開戦を承認した2002年の「軍事力行使権限承認(AUMF)」を廃止することを賛成268・反対161で可決したばかりであった。この歴史的に意義深い投票には、少なくとも49人の共和党議員も賛成に回っている。米憲法は、議会に宣戦布告の権限があると定めているが、AUMFにより、大統領に権限が委譲され、20年近くにわたって、民主・共和両党の大統領が軍事行動を正当化する根拠となってきたその根拠法の廃止が可決されたばかりのこの時期に、バイデン大統領は議会に諮ることなく、空爆に署名したのである。民主党のイルハン・オマール議員が、「このような暴力と報復の絶え間ないサイクルは、失敗した政策であり、私たちの安全を高めるものではありません。議会にこそ戦争権限があり、いかなるエスカレーションの前にも議会に諮られるべきなのです」と述べるのは、当然なのである。バイデン政権は、明らかに危険な道に踏み出しつつあると言えよう。

<<「このままでは最悪の事態になるかもしれません」>>
 この危険なバイデン路線に呼応し、支え、意図的な緊張激化路線を煽りさえしているのがイギリスのジョンソン政権である。
 6月28日から7月10日まで行われる米国とNATO、ウクライナの海軍が共催し、日本も参加する海軍、空軍、5000人の軍人、艦船40隻、航空機30機が参加する軍事演習という名の黒海での対ロシア緊張激化作戦で、イギリスの誘導ミサイル駆逐艦HMSディフェンダーの行動はとりわけ挑発的な性格と任務を帯びていたことが暴露されている。同駆逐艦は、領海を侵犯して、ロシア海軍の黒海艦隊が拠点にしているセバストポリに意図的に接近し、ロシアの警備艇が警告のために発砲、それでも進路を変えなかったことから、ロシアのSu-24戦術爆撃機が4発のOFAB-250爆弾を艦船の前方に投下、そこでようやく領海の外へ出たのであった。

イギリス国防省の機密書類:HMSディフェンダー号の移動、BBCに「リーク」(Moon ob Alabama June 27, 2021)

 このHMSディフェンダーにはBBCの特派員が事前に配置されていたこと、そしてBBC特派員のテレビニュースで、ディフェンダーの航路は「英国政府の非常に高いレベルで承認されていた」と放送され、クリミアの領海を通る攻撃的なルートをとるように船に命じていたことが裏付けられたのであった。英国政府は当初、ロシアの警告発砲もなかった、「無害な通過」にしか過ぎなかったと発表していたが、BBCの記者が、周囲にロシアの艦船や航空機がいて、銃撃音や爆弾を投下した音を聞いたことが暴露され、ジョンソン首相自ら、この危険な軍事的挑発行為を意図的に実行させていたことが明らかになったのである。

 2002年8月から2004年10月まで駐ウズベキスタン英国大使をしていた元外交官のクレイグ・マレー氏は、「NATOのすべての加盟国がジョンソンほどではないので、このような余計な挑発行為を控えることが望まれます。私の心の中には、彼らが軍事力でウクライナに介入しようとするほど狂っているはずがない、少なくともその脅威はあるはずがない、と思う部分がある。しかし、ジョンソンやバイデンを見ていると、心配になってくる。このままでは最悪の事態になるかもしれません。」と本人のウエブサイトで述べている(June 24, 2021  by Craig Murray)。

<<日米共同軍事演習「オリエントシールド」>>
 6/29、北海道の矢臼別演習場で、日本の陸上自衛隊と米陸軍が行う最大規模の実働訓練「オリエントシールド」が行われ、米陸軍の高機動ロケット砲システム(ハイマース)と陸自の多連装ロケットシステムの実弾射撃が公開され、産経新聞が動画(日米共同訓練、米陸軍ロケット砲を初実射 中露にらみ新戦術)入りで報じ、それをロシアのスプートニクが報じている。

日米合同実動訓練「オリエントシールド」・米軍のロケット砲「ハイマース」が実射(Sputnik 2021/6/29 SankeiNews-YouTube:日米共同訓練、米陸軍ロケット砲を初実射 中露にらみ新戦術)

 注目の米陸軍のハイマースは日本国内では初めての実射。午後1時に行われた発射に続いて、陸自の多連装ロケットシステムが15分間で4発を発射した。産経新聞の報道によれば、この実弾射撃訓練の射程はおよそ300キロで、海上で劣勢に立たされた場合でも地上から艦艇を狙う対艦攻撃を視野に入れている。今年の「オリエントシールド」は6月18日から7月11日までの期間で今までで最大のおよそ3000人が参加して行われている(Sputnik 2021/6/29 )

 対中・対ロのこうした危険な軍事挑発路線は、バイデン政権の新自由主義路線からの脱却が戦略的に確定しておらず、したがって中途半端で、超党派合意の名のもとにどんどん後退していく現実の反映とも言えよう。緊張激化で軍産複合体に迎合する路線によってこうした事態を切り抜けようとして、かえって政治的経済的危機を深めてしまう、世界を戦争の危機に巻き込む、最悪の事態を招きかねない路線である。
(生駒 敬)
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