【投稿】米独サミットは「失敗だった」--経済危機論(55)

<<ワクチン特許放棄に一言も触れず>>
 7/15、バイデン米大統領とドイツのメルケル首相の米独首脳会談がホワイトハウスで開かれたが、焦眉のワクチン特許放棄に関しては一片の合意さえも得られず、両首脳の記者会見でも一言も触れられなという失態であった。
 バイデン氏は、5月にバイデン政権として、新型コロナウイルス用ワクチンに関わる知的財産権(IP)の保護を放棄することを支持するとの声明を発表し、国際社会から多くの支持と期待を寄せられていたにもかかわらず、イギリスと並んで特許権放棄の最大の障害とみなされていたドイツを説得できなかったのである。
 ドイツのビオンテック社のワクチン開発に公的資金を投入してきたドイツ、同社と組むアメリカのファイザー社の連合によるワクチンの一時的な特許権放棄は、パンデミック危機拡大を阻止し、ウイルスの拡散を収束させ、混迷する経済危機を打開する途上において決定的なかなめだったのである。

 首脳会談でバイデン氏は、メルケル首相との個人的な会談の中で、ワクチンの特許放棄について一応の言及はしたとされているが、優先課題とはしなかったのである。明らかな後退であり、自らの政策に対する責任放棄でもある。

 一方のメルケル氏は、7/15の記者会見の中で「より多くの人がワクチンを接種すればするほど、私たちは再び自由に生きることができるようになります」と述べ、「私たちは今、まだ自発的にワクチンを推進している段階です。皆さんにお願いしたいのは、知り合いや信頼できる人がいるところではどこでも、ワクチンのことを訴えてほしいということです」と語っている。このように語りながら、あくまでもコロナウィルス・ワクチンの一時的な特許免除に対する反対を取り下げていないのである。偽善とも言えよう。

<<「ワクチンの滞留と在庫増」という異常>>
 米議会進歩派議連の議長であるプラミラ・ジャヤパル下院議員は、7/15に声明を発表し、「メルケル首相がワシントンに到着したのは、世界中でウイルスのデルタ変異株が急増し、富裕層の国では80%のワクチン投与が行われているのに対し、低所得国では0.4%しか投与されていない状況の中なのです。世界のワクチンの公平性を優先し、世界のワクチン生産と治療アクセスを迅速かつ公平に確保しない限り、パンデミックは終わりません。ドイツが特許権免除の承認を保留する限り、世界中の何百万人もの人々の命と、ウイルスを粉砕する我々の能力が脅かされているのです。」と強調している。

 米国の環境保護・消費者の権利擁護に取り組む非営利団体パブリック・シチズンのグローバル・トレード・ウォッチのディレクターであるロリ・ウォラック氏は、バイデン氏が特許免除に関してメルケル首相を動かすことができなかったことは、「パンデミックを終わらせるための努力に打撃を与えるものであり、今回のサミットは失敗であった。特許権免除を早急に成立させ、より多くのワクチンや治療薬を世界中で生産できるようにすることを優先させるべきである」との声明を発表している。

 7/16、米独首脳会談の翌日、世界保健機関(WHO)は、これまで比較的に少なかったアフリカで、コロナウイルスによる死亡者数が前週から43%も増加し、7月11日までの1週間で6,273人の死亡者を記録、ナミビア、南アフリカ、チュニジア、ウガンダ、ザンビアが新たな死亡者数の83%を占め、しかも感染力の高いデルタ型の感染が広がり続け、8週間連続で感染者数が増加し、アフリカの21カ国で検出されていることを明らかにした。7/16付けニューヨーク・タイムズ紙は、このWHO報告について、1月から5月までに出荷されたワクチンが予想よりも6,000万本も少なく、「すべてが計画通りに進んだとしても、人口の約7%に完全なワクチンを接種するのに十分な2億本以上のワクチンを、10月までアフリカに届けることができないだろうと予測している」と報じている。
 それにもかかわらず、米・欧ではワクチンの滞留は1.5億回分にも達し、余剰を抱え、在庫が米・英では5割、欧州では7割増加しているという(日経紙・7/18付け報道)。米欧は、それぞれ自国の変異ウイルの拡大と、ワクチン接種3回必要事態に備えだして、備蓄に動き、世界的蔓延拡大を無視しだしたのである。政治的・道義的危機であると同時に、さらなる経済的危機をも呼び込み、犯罪的、とも言えよう。
(生駒 敬)
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