【投稿】平和と生活破壊進める安倍政権 アサート No.483 2018年2月
―外交の鬱憤を内政で晴らす安倍―
長州だけど気分は「西郷どん」
2月9日から開催された平昌オリンピックは韓国、北朝鮮の融和が前面に押し出されたものとなった。韓国、北朝鮮の当局は昨秋から協議を重ねており、今回の融和は綿密に準備されたものであることが明らかになっている。
その意味で近年ではとりわけ政治性を帯びた大会になったことは事実である。しかし、これを「オリンピックの政治利用」「微笑み外交」として安倍政権が韓国、北朝鮮政府を非難するのはお門違いというものであろう。
1980年、時の大平内閣はJOCに圧力をかけ、参加を切望するアスリートの声を圧殺しモスクワオリンピックをボイコットさせた。過去こうした愚行を行い、2020東京大会を政権浮揚に利用している自民党政権がオリンピックの政治利用を非難する資格はない。
あまつさえ、韓国文政権による従軍慰安婦問題日韓合意の見直しを理由として、開会式出席を拒否しようとした安倍こそ、平昌オリンピックに政治を持ち込んだうちの一人と言えよう。
安倍の出席を巡っては、欠席の腹積もりであったのがアメリカの説得で出席を決断したなどと取り沙汰されているが、当初より韓国政府から「是非とも」と指名されている以上、最終的には拒否しようが無かったのである。
つまり退路を断たれているわけであり、訪韓を乞うたうえで慰安婦合意見直しを持ち出した文在寅の方が、政治的に一枚上手であったと言えよう。
名指しの招待さえなければ、アメリカはペンス副大統領、北朝鮮は表と裏のNo2=金永南、金与正、中国は閉会式に劉延東副首相と、結果的にはこぞって序列2位を派遣しているのだから、元オリンピック選手の麻生太郎が適任だっただろう。
欠席という選択肢がない以上、純粋にオリンピック開催を祝うと言うのがマナーと言うものであるが、安倍は「慰安婦合意の履行を求める」「対北融和姿勢に釘をさす」などという、極めてネガティブな政治問題を訪韓の理由としたのである。
本人は1873(明治6)年、「決死の覚悟で朝鮮開国を求めるため」渡海せんとした西郷隆盛に擬えていたのだろう。それならいっそのことリオオリンピック閉会式にマリオの扮装で登場したように、着流しに犬を連れた西郷のコスプレで臨めばよかったのでなないか。
安倍は開会式前日に行われた日韓首脳会談では、慰安婦問題は言うに及ばず、オリンピック、パラリンピック後の米韓合同軍事演習の実施まで求めた。当事者のペンスさえそうした発言はしていないにもかかわらず、内政干渉ともいえる高圧的な姿勢はまさに現代の「征韓論」ともいうべきものであり、オリンピックの祝祭ムードに水を差す行為であると言える。
さらに開会レセプションの席では金永南に対し、会話の中で拉致問題、核開発問題を持ち出すと言う、これも極めて政治的な立ち振る舞いを見せた。徹頭徹尾、北朝鮮側との接触を拒否したペンスに比べ、日頃批判する融和的姿勢ではないかとの強硬派からの指摘に、安倍は北朝鮮との接触は必要だったと弁明した。それなら中途半端なパフォーマンスはせずに、あいさつ程度の文字通りの外交辞令で良かったのではないか。
緊張緩和の流れに不安
平昌オリンピックを政治利用せんとした安倍の行動は、肩をいからしながらも浮ついたものであり、「氷の王女」金与正の存在感を前に完全に霞んでしまったのであった。
会場を支配したのは南北融和の流れであった。訪朝要請に文在寅は前向きの姿勢を示し、金正恩も妹からの報告を受け韓国との関係改善を進めることを明らかにした。現地では無視を貫いたペンスも離韓後には北朝鮮との対話に含みを持たせるなど、日米韓の連携は揺らいでいる。
文在寅は2月17日記者会見で日米の懸念を念頭に「南北会談を急ぎ過ぎない」旨の発言を行ったが、年内実施という基本的な流れは変わらないだろう。
さらに中露もこの動きは大いに歓迎するところである。文在寅はペンスとの会談に先立ち中国共産党幹部と会談し、米朝対話へ向けて努力することで一致している。今後、中露韓3国が北朝鮮を包摂する朝鮮半島トライアングルを形成し、緊張緩和を主導する可能性もある。
今後の最大の焦点は延期されている米韓合同軍事演習が、4月に実施されるかどうかである。昨年12月まではオリンピック前の実施で運んでいたが、1月に韓国政府の要請で延期となり、パラリンピック終了後に開始されるとの了解が支配的であった。しかし、この間の緊張緩和の動きの中で韓国政府は、時期はもちろん実施されるかどうかについても明確な説明を避けている。
2月8日には北朝鮮で軍事パレードが行われ、ICBM「火星15」も登場したが、規模は昨年の半分であり対外アピールも控えめであった。これについては経済制裁で燃料が不足しているためとの見方も示されているが、米韓への配慮と受け取るならば米韓演習の再延期、もしくは大規模な縮小という方向に韓国が動き出しても不思議ではない。安倍の差し出がましい発言に文が不快感を示したのも当然である。
こうした動きに不安を覚えた安倍は14日遅くトランプに長電話をかけ、北朝鮮に対しアメリカが融和姿勢に転じないよう懇願した。安倍は終了後記者団に対し「最大限の圧力をかけることを確認した」と述べたが、何度も同じことを繰り返し説明することにこそ、連携の不安定さが表れている。
また河野太郎は2月16日からの「ミュンヘン安全保障会議」で北朝鮮への圧力強化を訴え「対話のための対話は無意味」との見解を繰り返す一方、「接触」はありうるとの見方を示し、微妙な軌道修正を行った。安倍が平昌で金永南と会話を交わしたことの後追いであるが、日本が孤立しつつあることを認識しての発言であろう。
トランプ軍拡に追随
この一方でなんとかアメリカを繋ぎ止めるため、トランプ政権への追従はますます露骨になっている。
トランプは1月30日、一般教書演説で「強いアメリカを作る」と宣言、安全保障政策では改めて「力による平和」を強い調子で主張し「核兵器の近代化」に踏み込んだ。
これを踏まえ2月2日には「核態勢見直し(NPR)」を発表、核巡航ミサイルなど新型戦術核兵器の開発を進めることを明らかにした。さらに先制核攻撃の可能性にも言及するなど、核兵器を特別な存在とせず使用していくことを示唆した。さらに12日には軍事費を78兆円とする2019会計年度予算教書を発表し、通常兵器、兵員の大幅増強をも進めることを明らかにした。
この大軍拡、とりわけNPRに世界中でいち早く賛同の意を表明したのが安倍政権である。3日河野太郎は外務相談話を発表しNPRを「高く評価」した。これに対し野党は5日の衆院予算委員会で追及したが河野は、北朝鮮の核に対抗するもので高く評価しない理由はない、などと再度NPRを持ち上げた。8日には同委員会の質疑で「世界を不安定にしているのは核開発を進めているロシアだ」と責任を転嫁し開き直った。
NPRに対してロシア、中国は直ちに反発を示したが、ロシアを名指しした河野発言に対しロシア外務省は8日「平和条約締結問題を含む外交関係に影響が出る」と懸念を示した。16日のミュンヘンでの日露外相会談で河野は発言を弁明するどころか、北方領土での軍事演習、イトゥルップ空港の軍民共用化を非難するなど強硬な姿勢を示した。これらは安倍が言えないことを代弁しているのであろうが、イージス・アショア配備問題に続きロシアの警戒感を高めたことは間違いない。
中国に対しても河野はミュンヘンで名指しは避けたものの、「力による現状変更」を非難、さらに新興国へのインフラ投資についても「透明性がない」と難癖をつけた。
国民生活は置き去り
このように敵を作ることに余念がない安倍政権は、孤立化を恐れながら自ら孤立の道を進んでいる。安倍政権は今後アメリカの軍拡に追随する形で自衛隊の増強を進める目論見であり、2018年度予算案の軍事費は新規装備の調達で過去最大となっている。しかしこうした矢先、2月5日佐賀県で陸自の攻撃ヘリが民家に墜落し、乗員2名が死亡、住民1名が負傷した。さらに先日、海自のイージス艦「きりしま」(横須賀配備)のマストが突然折れる事故が発生した。
このほかにもヘリからの部品落下などがこの間頻発しており、これらは部品の欠陥か整備不良、構造上の問題と考えられるが、装備の調達が目的化し、米軍と同様メンテナンス部門にしわ寄せがきていることが要因の一つだ。
この様な状況を放置するなら、今後も重大事故が発生するだろう。北朝鮮のミサイルより、自衛隊や米軍機の方が危険という本末転倒の事態となっているのである。
市民を危険に晒しながら軍拡を進める安倍政権は、さらなる生活破壊を進めようとしている。安倍は今国会を「働き方改革国会」として、低賃金、長時間労働を強いる働き方改革法案の成立を目論んでいる。
安倍は1月29日衆院予算委で、捏造されたデータをもとに「裁量労働の方が一般より労働時間が短い」と答弁した。野党から問題点を指摘されても誤りを認めなかったが、2月14日に自民党議員の指摘でようやく答弁を撤回し陳謝した。
貧困世帯の子どもの大学、専門学校進学に4月から給付金を出すとしているが、それ以前の高校中退や、義務教育段階での事実上のドロップアウト対策、さらには奨学金返済問題の解決が先決であろう。それには保護者の経済的安定が不可欠であるが、生活保護費は引き下げされようとしている。
また「人生100年時代」などと称し、長寿幻想をふりまいているが要は死ぬまで働けと言うことである。安倍政権は韓国に対し「ゴールを動かす」と非難しているが、今後出てくるであろう年金受給開始年齢の引き上げは、まさにゴールの移動である。生涯現役などと言いながら、高齢者に運転免許の返納を推奨するのは矛盾しているではないか。
正規、非正規の賃金格差是正も働き方改革法案に依拠するだけでは進まないだろう。今こそ野党、労働組合が国会、春闘を結合して取り組みを進めることが必要とされている。(大阪O)
【出典】 アサート No.483 2018年2月