【投稿】煽られる先制攻撃と安倍政権 統一戦線論(34)
<<「行儀が悪い」>>
3/2付米ウォール・ストリート・ジャーナル紙は「アメリカが北朝鮮攻撃を検討している」と報じた。トランプ米政権内部の対北朝鮮戦略の見直し作業に詳しい関係者が明らかにした情報として、「北朝鮮による核兵器の脅威に対応するため」、「大陸間弾道ミサイルの発射実験を阻止する」ために、武力行使や政権転覆などの選択肢を検討している、というのである。危険極まりない先制攻撃論が煽られだしていると言えよう。
事実、米政府は最近の同盟諸国との協議の中で、対北朝鮮戦略に軍事的側面が含まれる可能性を意図的に強調しだしている。日本、韓国、中国を訪問した米国務長官ティラーソン氏は、「明確にさせておきたい。(オバマ前政権の)戦略的忍耐の政策はもう終わった」「今は北朝鮮と対話をする時ではない」と明言。一方で、「軍事的な葛藤までいくことを望んでいない」と述べながらも、「あらゆる選択肢」を検討している、「我々が行動を取らなければならない水準までいけば、行動を取る」とも語っている。
その選択肢、水準の中には、北朝鮮が核・ミサイルの脅威を高める行動、大陸間弾道ミサイルの発射実験をする構えを見せた場合などに、米国が先制的軍事攻撃をすること、特殊部隊による奇襲作戦と爆撃隊や巡航ミサイルを組み合わせた限定空爆、核施設の空爆による破壊が有力視されている、という。
3/18の中国・王毅外相との会談でも、ティラーソン氏は会談後の共同記者会見で、双方が「朝鮮半島情勢の緊張が極めて高く、かなり危険なレベルに達している」との認識を共有し、北朝鮮の核・ミサイル問題を打開するため米中両国が「できることは全て行うと確約した」ことを明らかにした。しかし中国側は「中国は一貫して6カ国協議が朝鮮半島問題を解決する有効なプラットホームだと考える」として、「北朝鮮とは対話で解決すべきだ」と強調している。
問題は、決定を下す権限を持つトランプ大統領の態度である。トランプ氏は3/17、自らのツイッターで「北朝鮮は非常に行儀が悪い。何年にもわたり米国を手玉にとってきた」と書き込み、同時に「中国はほとんど助けになることをしてこなかった」と悪態をついている。
トランプ氏の「行儀の悪さ」は、オーストラリアの首相との電話会話を突然打ち切ったことに典型的に表れている。その気ままで、軽率な振る舞いや発言、首尾一貫せず、ころころ変わる無定見、批判するメディアを「偽ニュース」と切り捨てて異論を封じる独善ぶり、突然の「盗聴被害という不規則発言」、不安定な精神状態や無謀さに満ち満ちたツイッター発言などが示していることは、彼が冷静さを欠き、理非をわきまえた行動ができない証とも言える。その意味では危険極まりない、どのような事態が起きても不思議ではない。そこで、閣僚の過半数の了承で、大統領の執行不能を宣言できるというアメリカ合衆国憲法修正第25条第4節を発動することが可能だとして、トランプの辞任、あるいは弾劾要求、そしてペンスが“大統領代理”となる、“宮廷クーデター”説まで取り沙汰される事態である(Ronald L. Feinman 2/18 “Raw Story”)。
<<「仮面を剥ぎ、牙をむきだした」>>
実は、こういう事態に立ち至ったトランプ政権には、すでに三つの政権が事実上存在し、いずれにも異なる権限があるという。
第一の政権で、もっとも明らかに有力なのはトランプ側近。現時点で、構成メンバーは、バノン首席戦略官、トランプの娘イヴァンカと夫のクシュナー、ミラー政策担当大統領補佐官とセッションズ司法長官。
第二の政権は、トランプが共和党大統領指名候補の座を確保した後に支持するようになった共和党主流派。
第三の政権は、長年の“陰の政府”権益を代表しており、ネオコン活動家や、伝統的に共和党政治とつながっている強力なウオール街やヒューストン・ダラス石油事業の大立て者の連合。
弾劾と有罪決定の結果、あるいは健康問題で、トランプが大統領の座を降りざるを得なくなった場合、第三のトランプ政権が権力を掌握しようとしている。国際的現状を代表する第三のトランプ政権の典型、ペンス副大統領とマティス国防長官は、ミュンヘンで、NATO、欧州連合の推進と、対ロシア経済制裁継続に余念がなかった。ペンスとマティスの発言は、それまでトランプが発言して来たことと矛盾していた。ペンス、マティスとティラーソンたちの第三のトランプ政権は、世界に、アメリカの“陰の政府”を代表する本当のトランプ政権が、アメリカ政府を動かし続けるというサインを送っている。第三の政権こそが、グローバル・エリート連中がもっとも居心地良く感じられるものである。(以上、Wayne MADSEN 2/24 Strategic Culture Foundationより)
いずれもがせめぎ合い、暗闘しているのであろう。第三のトランプ政権は、トランプの政権公約(「アメリカは世界の憲兵になる必要はない」・ロシアとの友好関係の構築)を明らかに破棄し、トランプ自身もそれに取り込まれている。
こうした中で、3/16、トランプ大統領は2018年度予算案を発表。この予算案はごうごうたる非難にさらされている。軍事費が異例の540億ドルの増加、非軍事分野はほぼすべてにわたり大幅に削減。国防予算の基本予算は前年度比10%増の5740億ドル。これとは別に国外作戦経費を646億ドル計上。軍事予算は全体の実に56%を占める。
一方、環境、住宅、外交、教育プログラムの予算は大幅削減、19の政府機関の完全廃止も提案。環境保護局(EPA)予算は31%削減。また、国務省や米国際開発庁(USAID)の予算も28%削減、国際連合への負担金も数十億ドル削減。農務省21%減、労働省21%減、商務省16%減、教育省13%減、住宅・都市開発省13%減、運輸省13%減。低所得層の住宅光熱費援助プログラムや全米で無料の法律相談を支援する法律扶助機構、高齢者、貧しい人、退役軍人、障がい者などに食べ物を宅配するミールズ・オン・ホイールズ活動へのコミュニティ開発包括補助金(CDBG)などの削減、等々。
長年にわたる消費者運動活動家で、元大統領候補のラルフ・ネイダー氏は、このトランプの予算について、「仮面を剥ぎ、牙をむきだした。1854年から続く党史の中で最も悪質で無知な状態の共和党と協力している」と酷評している(DemocracyNow 3/17)。
<<無謀で危険な軍事作戦への参入>>
政権発足当初からの支持率の低下と批判の渦、混迷の中で、トランプ氏が主導権を誇示できる最も有力な一つの選択肢として、北朝鮮への先制攻撃が浮上しているのである。
これに真っ先に呼応しようとしているのが安倍政権である。まさに、トランプ=アベ枢軸の発動である。両者ともに「行儀」が悪く、独裁者気取りで、冷静さも、謙虚さもまるでかけた存在である。
安倍政権にとっては、朝鮮半島、中国との緊張激化が政権維持と憲法改悪、長期独裁政権を目指し、自らの帝国主義的・植民地主義的野望を追求するうえで、何よりも望ましいのであろう。いよいよ好機到来、とばかりに手ぐすねを引き、トランプの先制攻撃への協力と便乗、戦争法の発動と、共謀罪の強行が画策されている。
すでに日本の弾道弾迎撃ミサイル・システムを搭載したイージス艦が、韓国とアメリカとの共同演習に駆け付け、先週北朝鮮実験ミサイル四発が着水した海域で挑発的な活動を開始している。さらに、今年5月から日本最大の戦艦「いずも」を、もう一つの危険な一触即発状況にある、南シナ海の係争水域での三カ月の作戦に派遣・配備し、そこで、アメリカ海軍と共同演習を行う計画である。これまでとは質的に異なった無謀で危険な軍事作戦への参入である。
このような危険な路線を突き進む安倍政権であるが、意外だが、必然的でもあった弱点とほころびが露呈し、盤石と見られた長期政権を揺さぶっている。森友学園問題は、政権を崩壊に導きかねない爆弾を孕んでいる。国有地をタダ同然で提供した政治的介入疑惑の背後に、厳然と横たわる安倍政権の教育反動、自民、維新、日本会議の右翼ラインによる教育支配策動のほころびが表面化したのである。憲法違反の教育勅語を唱和させ、「尖閣列島 竹島 北方領土を守り」、「安倍首相がんばれ! 安保法制 国会通過 よかったです」「日本を悪者として扱っている中国、韓国が心を改め」などと叫ばせる露骨な排外主義、民族主義教育は、安倍夫妻が心から称賛し、安倍政権が目指していた教育の公教育化路線の具現化であった。ところが問題が表面化するや、安倍首相は、相手がとてもしつこい人だった、教育内容なんて知らない、妻は私人で自分とは関係ない、こんな醜い言い訳しか語れず、証人喚問当日は首相夫妻は外遊で逃げ出す。トランプにとっては頼りない存在であろう。しかし独裁者気取りのトランプと同様、おごり高ぶった人間ほど、追い詰められると意外に脆い弱点が次から次へとさらけ出される。安倍首相には再度政権を投げ出させることを迫らなければならない。
しかし、政権が危機に瀕すればこそ、彼らは無謀で危険なカケに出かねないし、事態は着実に危険な方向に進んでいると言えよう。朝鮮半島、中国をめぐる恐るべき事態の進行である。もはやどこか遠くの言い換えやごまかしですり抜けられるような「戦闘」どころではない。一触即発、戦端が開かれれば、途方もない規模と質の戦争、核の被害さえ想定される。楽観論など許されない、民族主義やセクト主義を乗り越えた、強大で広範な反戦・平和の大運動、民主主義運動、統一戦線が今こそ要請されている。
(生駒 敬)
【出典】 アサート No.472 2017年3月25日